夢見る少女天ヶ瀬夢莉
「暇で~す」
講義に使われていない空き教室の机に、長い銀色の髪が突っ伏する。
綺麗に結られたツインテールがもぞもぞと机を蹂躙し、やがてがばっと起き上がる。
「ゆうさん!」
銀髪ツインテールの少女、天ヶ瀬夢莉はその純朴な青い瞳と端正な顔を俺に向けて、ズイッと二人の距離を詰めてくる。
「暇なので、セッ●スでもしませんか?」
「……」
アホだ、アホがここにいる。
いや正確には痴女だ!
曇り所のない、清澄な瞳で誘ってくる夢莉に俺は念のため確認をする。
「い、一応聞くが、いまここで、か?」
「誰もいない空き教室で合体するのも、スリリングな刺激があって楽しいですよ?」
「よぉしっ、まずは俺たちがなぜ、講義のない空き時間にこうして集まっているのか、その理由から整理しよう」
「セッ●スするため?」
「よしっ、まずはおまえのその煩悩を消し去るところから話を始めようじゃないか」
俺はワキワキと指を鳴らしながら、眉間にしわを寄せる。
この少女、天ヶ瀬夢莉は物静かで口調も穏やかなことから、一瞬淑女と間違ってしまうが、先の発言の通り……中身はただの変態だ。
「むぅ、ゆうさんの意地悪……昨日はあんなに激しくしてくれたのに……」
「開始数行で俺の印象と事実を捏造するな!?」
「私、あんまり焦らしプレイは好きじゃないんですけど……」
「安心しろ。焦らしているつもりはない。それに、俺たちが今日集まったのはこの企画書を完成させるためだろ?」
俺は暴走する夢莉の抑制剤になればな、と切なる願いを託して手にある資料の束を机に叩きつけた。
その表紙には、でかでかとしたフォントで書かれた『ラジオクリエイト企画書』の文字が。
「そ、そうでした……」
効果は絶大。
一年あまりじっくりと計画を練ってやっとのことで完成させた企画書を前にして、夢莉は徐々に頬に帯びた熱を冷ましていく。
もうすぐ実現する夢莉の夢。
いや、正確にはもうすぐ始まる夢莉の夢だ。
最終チェックのこの段階で抜かりがあるわけにはいかない。
それを夢莉自身きちんと理解しているはずだ。
「落ち着いたみたいだな。それなら企画書の最終チェックを手伝って――」
「最終チェックだけならいますぐに終わらせなくても問題ないですよね?」
「へっ?」
勝利を確信した直後、そんな予想の斜め上の回答が夢莉から返ってきた。
「それならいまは、いましかできないことを二人で楽しみましょう」
「い、いや、そういうわけには……っておい、なにを!?」
――プチっ、プチっ。
どういう思考回路をしているのか、誰もいない空間なのをいいことにブラウスのボタンを器用に片手で外すと、大きいながら形よく膨らんだ胸をちらりと露出させる夢莉。
甘美な誘惑に屈してはいけないと頭ではわかっているものの、嫌が応でも美しい双丘へと意識が集中してしまうのが男の性。
絶妙な具合にはだけたブラウスから覗く谷間に可愛らしい下着。
もうちょっと脱いでくれればそのすべてが拝めたというのに、わずかに隠す位置でボタンを留められているのがなんとももどかしい。
いっそのこと、このまま己の手で乱暴に脱がしてしまいたいという衝動すら心に浮かんできてしまう。
「どう、かなゆうさん? 今日は見られるんじゃないかなって思ってゆうさんの好きそうな大人しめの下着にしておきました」
どうせ俺に見せる計画だったんだろ、などといういつもの冷静なツッコミができない。
あまりの情景に心が飲まれてしまい、声帯を必死に震わせようとしてもその動きが途中で遮断されてしまう。
離せない。
目が釘付けとなって、妖艶なようで恥ずかしがる夢莉の顔とそれとは逆にその存在を主張する胸元から視線を逸らすことができない。
やばい……簡単な誘惑でここまで骨抜きにされるとは。
二重の意味で予想外の事態に、自分でも驚くほどに心臓がバクバク鳴っているのがわかる。
駄目だ、自分を抑制するんだ!
脳からの指令が体に降りてきて、ギリギリのところで理性を保つ。
だが、
「我慢……しなくても良いんですよ、ゆうさん?」
俺がギリギリの状態にあることをわかっているのか、とどめとばかりに夢莉がスッと距離をゼロに縮め膝の上に鎮座し、両腕を首元へと回してきた。
緊張と焦りでまったく抵抗できなかった俺は、夢莉の抱擁をまともに受けてしまう。
ぎゅっと体がくっつくと同時に肺いっぱいに満たされるフローラルの香り。
加えて、俺の胸に押しつぶされむにゅりと形を変形する双丘の感触に心臓の鼓動がピークに達する。
やばいやばいやばいっ!
荒々しく鳴り響く脳内サイレンの警報も無視して、俺は夢莉の背中にゆっくりと手を伸ばし――
――ガラガラ。
「あっ!?」
「へっ?」
理性の糸が千切れたまさにその瞬間。
空き教室の扉が音を立てて開き、茫然と入り口に立ち尽くす男子生徒と目が合った。
谷間とブラをちら見せするように服をはだけさせた夢莉。
そんな彼女に跨られ、抱き締めようと腕を伸ばす俺。
この状況、セッ●スのための準備段階と間違えられても文句は言えないだろう。
「し、失礼しました~」
そんな始終を目撃してしまった男子生徒は脱兎のごとく教室から飛び出ていく。
「それじゃあ、ゆうさん続きを……」
「マイペースかおまえは!? そんなことより追うぞ! 変な噂を流される前に誤解を解くんだあぁぁぁぁぁっ‼」
これは俺、一色ゆうの破天荒な毎日のほんの一部始終である。