エピローグ
「――いやあ、本日の推理も、見事でした。さすがは雪平警部補です。しびれます」私は揉み手をしながらヨイショする。
「そんなことないですよ。アリス巡査の捜査も、なかなか的確でしたよ? あたしが真相にたどり着けるのは、アリス巡査のおかげです」雪平警部補は、気分良さそうに応えた。
『蛇石倭山そして誰もいなくなった(一人除く)事件』から一週間後。今日もまたゾンビがらみの事件を見事に解決した雪平警部補と私。お互い社交辞令を言い合いながら、ゾンビ対策課の事務所に戻ってきた。
「――ああ、雪平君、アリスちゃん、ご苦労さん」事務所に戻ると、ゾンビ対策課の近藤課長が、上機嫌で迎えてくれた。「今日も事件をスピード解決したんだって? 助かるよ。私も、この前署長に褒められちゃって。お礼を言うよ」
「とんでもないです。事件を解決するのは、刑事としての、我々の使命です。ね、アリス巡査」
「もちろんです、雪平警部補」
私と雪平警部補は、課長に向かって敬礼をし、席に着いた。そして、いつものように、私は事務作業を、雪平警部補は推理小説を読み始めようとした時。
「あ、そうそう。アリスちゃん、雪平君、ちょっと」
近藤課長が手招きをする。なんだろう? 私と雪平警部補は顔を見合わせ、課長のデスクへ向かう。
近藤課長は、声を潜めるように言った。「まだ正式な決定ではないから、口外はしないでほしいんだけど、さっき、刑務部の知り合いから話があってね――」
刑務部とは、警察の部署のひとつで、人事や会計などを担う部署である。一般の会社で言えば、人事部のようなものだ。
「――アリスちゃんが近いうちに別の課へ異動になるらしいんだ」
「ええぇぇ!!」
思わず声を上げる私と雪平警部補。
「しーっ! 静かに! まだ、決定事項じゃないんだから」近藤課長が鼻の先に人差し指を当てた。「なんでも、アリスちゃんの活躍を聞いて、ぜひともうちの課に来てほしい、と言ってる人がいるんだって」
「私の活躍ですか? いえ、私は何もしていません。いつも事件を解決しているのは、雪平警部補です」正直に言った。これは社交辞令ではなく、本当のことである。
「そんなことありませんよ」と、雪平警部補。「アリス巡査のゾンビの知識には、いつも助けられてます。これは社交辞令ではなく、本当のことですよ?」
「しかし、私のようなゾンビの知識しかない刑事が他の課に行って、活躍できるかどうか……」
私は本音を言った。ゾンビ好きが高じて警察官になって三年。ゾンビ対策課以外の部署はほとんど経験したことが無い。はたして、私に務まるだろうか?
「どうする? 断るなら、早い方がいいと思うけど?」近藤課長が言った。
「アリス巡査」雪平警部補が、いつになく真剣な表情で私を見た。「確かに、アリス巡査のゾンビの知識は素晴らしく、ゾンビ対策課には欠かせない存在です。しかし、それだけでは、単なる頭でっかちの刑事になってしまいます。真の刑事は、様々な部署で、様々な経験を積んでこそ、なれるものです。あたしは、これはチャンスだと思います。挑戦してみるべきです」
「しかし雪平警部補。私がいなくて、大丈夫ですか?」
「何を言ってるんですか? あたしを見くびらないでください。アリス巡査のゾンビ対策課魂は、しっかり継承しました。そりゃあ、一人ではまだまだ至らないところはありますけど、なんとかなりますよ、きっと」
雪平警部補は、さわやかな笑顔で言った。
確かに、最近の雪平警部補は、私でも考え付かなかったゾンビの特性に気付き、事件を解決することが多くなっている。もう、十分一人でやっていけるだろう。
それに、雪平警部補の言う通り、これはチャンスだ。
私はゾンビ対策課の仕事に誇りを持っている。しかし、真の刑事になるためには、ゾンビ対策課以外の課も経験しておくことは、非常に重要だ。不安はあるが、なんとかなるだろう。私には、雪平警部補から継承した、刑事魂があるのだから。
よし。
「――分かりました。その話、お受けいたします」
私は、決意を込めてそう言った。
「そう? じゃあ、そう伝えておくよ」
近藤課長は満足げに頷いた。
「アリス巡査、ガンバってくださいね!」両手を拳に握り、顔の前で振る雪平警部補。
「まあ、まだ先の話ですよ。それまでは、ゾンビ対策課でガンバります」
「そうですね」
私と雪平警部補は、互いに笑い合った
「――ところで」雪平警部補が近藤課長を見る。「アリス巡査は、どこの部署に配属になるのですか?」
「えーっと、ちょっと待ってね。確か――」
近藤課長は机の上のメモ用紙を取り、メガネをかけ、書いてあることを読み上げた。
私が次に配属になる部署は――。
(推理小説・オブ・ザ・デッド 終わり)




