表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

第四話 見立て殺人・オブ・ザ・デッド 4

「……えー、この事件の犯人はですね」雪平警部補は、ゆっくりとした口調で言う。


「はい」


「全員です」


「…………」


「…………」


「……パードゥン?」


「この事件の犯人は、昨夜この館に泊まった人――本間氏、野崎氏、橋本親子、松坂氏、木崎氏、吉沢兄妹――八人全員が、協力してやったことなんです」


「……なぜ、そう思うのでしょうか?」


「だって、現実世界で見立て作品なんて、そんな簡単に成功するわけないじゃないですか? 一晩で七人殺害するだけでも大変なのに、ひとつひとつの殺人を、わざわざ詩の内容に合わせなきゃいけないんですよ? 手間はかかりますし、失敗する可能性も高いですし、足がつく可能性も高くなります。犯人にとってはリスクが非常に高いのに、得られるメリットは、せいぜいターゲットを恐がらせるくらいのものです。そんなの、ワリに合ません。それに、殺される側も、犯人が詩の通りに行動しているのが分かってるのに、どうして何の対策も立てないんですか? 車が爆発したり銃で撃たれることが示唆されているのに、車で逃げたり部屋で一人になったりするバカはいませんよ」


「……雪平警部補。それを言っちゃ、ミもフタもないと思いますが」


「いいんですよ。とにかく、見立て殺人なんて、小説や映画の世界だけの話です。現実世界では起こりえません。もし、そんなことが起こったとしたら、全員がグルになってやったとしか考えられません」


 まあ、確かにそれは言えるな。しかし、まさか雪平警部補がこの事件をそんなに現実的に捉えていたとは。ゾンビ対策課に赴任して来た当初は、解く必要のない密室トリックや叙述トリックにこだわっていた根っからの推理小説マニアだったのに。これは、雪平警部補が刑事として成長したということであり、部下としては喜ばしい限りである。


「しかし、雪平警部補」私は、思ったことを言ってみた。「全員がグルということは、殺されたとされる人たちは、みんなどこかに隠れているということですよね?」


「はい。そうなります」


「彼らは、なぜそんなことをしているのでしょうか? まさか、我々に対するドッキリ的なヤツではないでしょうね?」


「ここまで来たらそういうオチでも面白いかもしれませんが、まあ、違うでしょうね。目的に関しては、まだ何とも言えません。今、捜査一課の人たちに調べてもらってることがあるので、その回答待ちですね」


 そういえば、そんなのもあったな。確か、食堂でテープに録音された謎の声を聞いた時だ。本間さんたち八人の身元と、テープの内容が正しいかどうかを調べてもらってるんだった。かなり時間がかかっているようだが、何かあったのだろうか?


「街で殺人事件があったそうで、今、一課の人たちはほとんど出動していると、駐在員さんが言ってました」雪平警部補が言った。


「殺人事件? どのようなものですか?」


府区泉(ふくせん)町のアパートの一室から女性の悲鳴が聞こえたという通報があり、警官が駆けつけたら、女性が首を締められて殺されていたそうです。犯人は、そのアパートの住人の男性で、その場で現行犯逮捕されました。まあ、この事件にゾンビは絡んでいませんし、犯人はもう捕まったので、我々が気にする必要はないでしょう」


「そうですか。それは何よりです」


「一課から回答があるまで、テープの内容をおさらいしておきましょうか」


「そうですね」


 と、いうわけで、我々は謎の声が収録されたテープの内容を確認することにした。




      ☆




 1 元自衛官・本間和彦氏。後輩の自衛官に暴行および恐喝を行い、自殺に追い込んだ。


 2 医師・野崎誠一。手術ミスによって患者を死に追いやり、そのことを隠蔽した。


 3 主婦・橋本由美子。信仰しているカルト教団体の教えを広め、教団の詐欺行為に加担した。


 4 小学生・橋本朱美。クラスメイトに対するいじめに加担した。


 5 警備員・松坂洋介。かつて勤めていた建築会社で、同僚を事故に見せかけて殺害した。


 6 家庭教師・木崎理恵。松坂洋介の罪を隠すため、警察に嘘の証言をした。


 7 執事・吉沢利彦。十年前の母親の死に責任がある。


 8 メイド・吉沢恵里香。兄の吉沢利彦と同様に、十年前の母親の死に責任がある。




      ☆




 私は1から8までの項目をホワイトボードに書き終えた。「テープの内容を要約すると、以上のようになります」


「全員、なんらかの悪事を犯しているということになりますね」いつものあごに手を当てるポーズの雪平警部補。


「そうなります。しかし、元自衛官の本間氏は、後輩を暴行や恐喝をしたことはないと、キッパリ否定しています」


「それに関しては、信じていいと思います。今のご時世、そんな事件があれば、大問題になっているでしょうし」


「隠蔽されている、ということは考えられませんか?」


「無くはないでしょうが、考えにくいですねぇ。その後輩が自殺したのなら遺書に残すでしょうからね。ご遺族が黙ってませんよ」


 確かにそうだな。それに、雪平警部補の言う通り、この事件の犯人を全員とするのなら、隠蔽に成功しているのに、わざわざ我々を呼び出してカミングアウトしたことになる。そんなことをする意味が分からない。


「他の人たちに関しては、一課の回答待ちなんですが――」雪平警部補は、食堂のドアを見た。


「――失礼します!」実にすばらしいタイミングで、駐在員の制服警官が入って来た。「警部補殿。依頼されていた件の回答です」


「待ってました。お願いします」


 私は、報告を受けながらホワイトボードにまとめていった。




      ☆




 1 元自衛官・本間和彦氏

   怨恨トラブル 無し。

   恋愛トラブル 無し。

   金銭トラブル 無し。生命保険加入。十四年目。受取人は両親。

   テープの内容 一致するような事件は確認されない。




 2 医師・野崎誠一

   怨恨トラブル 有り(後述)。

   恋愛トラブル 無し。

   金銭トラブル 無し。生命保険加入。二十三年目。受取人は妻。

   テープの内容 半年前、手術中に患者が亡くなっているが、それが手術ミスだったのではないかと一部週刊誌にて報道されている。




 3 主婦・橋本由美子

   怨恨トラブル 有り(後述)。

   恋愛トラブル 無し。

   金銭トラブル 無し。十六年間続けてきた生命保険を先月解約。

   テープの内容 二ヶ月前に某宗教団体に入信しているが、特にカルト教団ということはなく、詐欺行為等は確認されない。また、夫からのDVを受けていると、何度か生活安全課に相談があった。




 4 小学生・橋本朱美

   怨恨トラブル 無し。

   恋愛トラブル 無し。

   金銭トラブル 無し。

   テープの内容 一致するような事件は確認されない。




 5 警備員・松坂洋介。

   怨恨トラブル 無し。

   恋愛トラブル 有り(後述)。

   金銭トラブル 無し。八年間続けてきた生命保険を今月解約。

   テープの内容 三ヶ月前まで勤めていた建設会社で、三年前、従業員の一人が作業中に死亡しているが、捜査の結果、事故と断定されておいる。また、松坂と死亡した従業員は部署が全く違い、接点も無い。恋愛トラブルに関しては、交際している木崎理恵の両親から結婚を激しく反対されている。




 6 家庭教師・木崎理恵

   怨恨トラブル 無し。

   恋愛トラブル 有り(後述)。

   金銭トラブル 無し。二十四年間続けてきた生命保険を今月解約。

   テープの内容 松坂の事件自体が存在しない。恋愛トラブルに関しては、松坂との結婚を両親から激しく反対されている。




 7 執事・吉沢利彦

   怨恨トラブル 無し。

   恋愛トラブル 無し。

   金銭トラブル 有り(後述)。生命保険加入。三年目。受取人は両親。

   テープの内容 十年前に母親を亡くしているが、過労死とされている。また、父親が経営する工場に、多額の借金がある。




 8 メイド・吉沢恵里香

   怨恨トラブル 無し。

   恋愛トラブル 無し。

   金銭トラブル 有り(後述)。生命保険加入。三ヶ月目。受取人は両親。

   テープの内容 十年前に母親を亡くしているが、過労死とされている。また、父親が経営する工場に、多額の借金がある。




 備考 八人の接点は、インターネット上のゲーム会社のプレゼント企画の応募のみで、それ以外は確認できていない。なお、このゲーム会社はホームページのみの架空の会社で、実在しない。




      ☆




 ホワイトボードに書き終えると、雪平警部補は手を叩いて喜んだ。「さすがは警察の花形部署・捜査一課の方々です。他の事件を抱えながら、あの短い時間でこれだけのことを調べてくれるなんて、オドロキです。後で、よーくお礼を言っておきましょう」


「そうですね」私は、腕を組んで考えた。「しかし、テープの内容に関しても、怨恨恋愛金銭面でのトラブルに関しても、みんな、有ったり無かったりという感じですね。これは、彼らの目的を特定するのは、難しそうですね」


「そんなことはありませんよ? 彼らの目的は分かりました」雪平警部補は、自信満々の表情で言った。


「え? 本当ですか?」


「はい。確かに、それぞれ抱えている事情は異なりますが、ある一点において、見事に統一されています」


 ある一点? なんだろう? 私はもう一度ホワイトボードを見たが、分からなかった。


「さあ、謎解きに行きましょう」


 雪平警部補は、食堂を飛び出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ