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reunion    《出会い》

西暦2100年12月31日


 21世紀最後となるこの日に日本は大きく変わった


 日付が31日に変わり太陽が空に上がったその時


 日本全土の空から【黒い雨】が地上に降り注いだ


 一日中降り注いだ不気味な雨に日本中の誰もが恐怖におののき、不安を胸に抱いてた


 そして、その不安はすぐさま実現となった


 【黒い雨】から一週間後、日本人の約半数に異変が起きた


 ある者は耳が、髪から飛び出るほど尖り


 ある者は背中から翼が生え


 ある者は、体に鱗のような固い皮膚が出来上がった


 この様に、体に何等かの変化を起こした者を人は亜人と呼んだ


 そして、中でも特に人々を驚かせたのは


 体に異変が起きた彼等あじんは、科学では説明できない不思議な力


 後に【魔術】と呼ばれる力を手にした事だ


 この現象は世界中を震撼させ、世界中の科学者がこぞって日本へ調査に向かった



 だがしかし、【黒い雨】の後に日本に来日しようとした航空機は日本上空にて何故かエンジン等が故障、そして墜落した

 空が駄目なら海という事で船を使い日本を目指すも途中でエンジンの故障やGPSによる位置情報のシステムの誤作動などで沈没



 最終的に近隣の韓国から手漕ぎの船と言う前代的な方法を使いやっとの思いで来日したかと思えば、日本近海で乗客が体中から謎の大量出血をおこし死亡


 調査どころか日本に上陸すらままならない状況に各国は頭を悩ませたその時、日本の研究でこの原因が判明した



 原因は、【黒い雨】の後、日本の空気中に含まれるようになった【魔素】と呼ばれる物質だった


 この【魔素】は、呼吸をすることで体内に侵入


 【黒い雨】の後、日本人全員に何故か形成された『見えない内臓』通称、【魔臓】に蓄えられるとされる


しかし、【魔臓】を持たない外国人が【魔素】を摂取すると、体内で異常に活性化した魔素が体中の血管を破壊して出血


 死に至らしめると判明した



 また、この【魔素】は精密機械にも影響が在るらしく、航空機や船の故障はこの為だとされ日本の精密機械も【黒い雨】から一ヶ月ほどで全て故障した



 当然、日本との貿易は完全に停止


 食料の半数以上を輸入で賄う日本はあっと言う間に食料難になる――――かと思われたがそうはならなかった


 なぜなら、【黒い雨】の影響を受けたのは人間だけではなかったからだ


 植物の中には、【魔素】の影響を受けて特殊な変化を起こし収穫量が増大したしたこともあって辛うじて国民の飢えを満たすことができたのだ


 その後、日本は数々の問題を抱えては解決をしていき次第にかつての平穏を取り戻していった


 しかし、2110年七月


 都市東京で、大規模なテロが勃発した


 起こしたのは、【黒い雨】によって魔術を手に入れた亜人達だった


 彼等は、魔術と言う神の如き力を手にした自らを【神人類】と称して、魔術の使えない人間達を【旧人類】と見下したのだった


 彼等は自分達こそが日本を導くに相応しい存在だと声高に宣言したのだった

 争いは東京から始まり次第に日本全土に広がっていった


 この内乱を【第一次種族戦争】と呼ぶ


 数ではやや勝る人間だが、銃などの近代兵器は魔素によって使用不可能


 魔術という強力な力を持つ亜人に次第に追いやられていき人間の敗北は時間の問題だった


 しかし、そんな時に人間の希望の光として現れたのが【魔術協会】だった


 彼等は、独自に開発したとされる魔導具まどうぐと言う機械を用いて亜人を撃退したのだ

 2112年四月、亜人は人間に降伏した


 その後、人間は自らを人族ヒューマンとし、亜人を厳しい法律で縛り二度と反乱を起こさなぬように管理する事を決定した


「『――――これからも、我々、人族ヒューマンは亜人に対して厳しい姿勢を崩さず、二度とあの様な反乱を起こさぬようにしなければならない』っと、……ふぅーー、やっと終わったぁ……」


学園の課題である『【黒い雨】から現在に至る日本の現状とその考察』のレポートを魔導情報通信機パソコンに打ち終えた僕は凝り固まった体を解すべく欠伸をしながら伸びをした

 そして、改めて自分の書いたレポートを見直して苦笑する


「……しかし、ひどいな。これじゃあまるで亜人の悪口だよな……」


 自ら書き上げたレポート


 そこにはいかに我々人類が亜人に比べて勝っているか


 また、大戦中にいかに亜人が残虐な行為を働いたか


 最後に、我々人族ヒューマンを勝利に導いた【魔術協会】が如何に尊い存在か、を書き並べた物だった


 確かに、内乱を起こしたのは紛れもない亜人達だ


 魔術と言う力に溺れ、人間に牙を剥いたのは誰の目にも歴然の事実なのだ


 だけど――――、と僕は頭の中で一人の亜人の少女を思い浮かべる


 そして幼い頃の自分が彼女と共に過ごした時の中で、彼女に抱いた印象


それは、僕達ヒューマンと何ら変わりない物だった


それもその筈だ


 何せ、彼等も数年前までは同じ人間だったのだ


 いくら魔術と言う力を手にしたからと言って増長して人間を見下しテロを起こしたりするのだろうか



 その違和感に耐えかねて、一度学園のレポートで『亜人は本当に残虐な種族なのか』と言う物を提出したことがある


 すると、翌日

 すぐさま担任に呼び出され二時間に及ぶ説教

 その後、今度亜人を擁護するような物を提出すれば退学にする、と厳しい処分を下されてしまった


 聞くところによると、担任は内乱時、亜人に娘を殺されたらしい

 以来、亜人は畜生にも劣る下等な種族とし憎み続けているのだそうだ


 それ以来、僕は目を付けられないように彼好みのレポートを提出するようにしている


 でも、これで本当に良いのだろうか



 その時、ポーンと部屋の時計から12時を知らせる音が鳴った


「うわっ、もうこんな時間だ」


 パソコンを操作して書き上げた文章を保存

 提出用のUSBに移して、通学用の鞄に放り込む


 明日の準備を終えた僕はベットに飛び込み目を閉じ、夢の中へと落ちていく――――――その時だった


 パリンッ、と部屋の窓ガラスが割れる音が部屋に響いた


 そして、何者かが僕の部屋に入ってくるのを感じた



『まさか泥棒っ!?』

 眠りに落ち掛けていた僕の意識が、突然の事態に覚醒する



 かなりビビりながらも布団の端から顔だけを出して侵入者の様子を窺う


 そして、数秒後僕の頭にある思いがよぎった

『これもしかして、僕でも倒せるかも……?』


 侵入者が筋骨隆々のマッチョならこのまま大人しく布団の中で縮こまっていようと思ったが、件の侵入者はどうも違うようだ


 暗いので顔はよく見えないが、身長は僕の175センチより20センチほど低い150センチ後半程だろう


 狭い肩幅に細い手足


 更に、どこか怪我をしているのか歩き方が変だ



 覚悟を決めた僕は布団の中で直ぐにでも飛びかかれるような体勢になる


 また念には念をと魔術の起動句をボソリと呟いた


強化ブースト開始オン……」


 その起動句を唱えた瞬間、体中の魔術回路に魔臓から迸った魔力が走り、体中の身体能力が強化されていくのを感じる




 だが、次の瞬間僕は魔術を使用したことを後悔した


 なんと、件の侵入者が魔術を行使したボクの方に体を向けたからだ


『魔術を感知された?気づかれた?まさか、敵も魔術師?だったら勝てるのか……?落ちこぼれのボクに……』

 様々な思考が頭の中で入り乱れる


 しかし、侵入者は僕の考えがまとまるのを待ってはくれない


 徐々に近づいてくる気配


 僕は意を決して侵入者に飛びかかった



「おりややああぁぁっ!」

 驚いたような仕草をする侵入者



 僕はそいつに体当たりをかました


 大した抵抗もなく倒れた侵入者に飛びかかり組み伏せようとした



「きゃっ!」


「――えっ!?」


 そのとき予想外に高くて弱々しい声がボクの耳に届いた


 無いにも等しい程抵抗


 そして僕の手に伝わる何やら柔らかい感触を訝しんでいた時


 割れた窓ガラスから室内に風が吹き、カーテンをはためかせる


 そこから漏れた月明かりが室内に入り侵入者の顔を照らした



「お、女の子……?」


 僕が組み伏せていた侵入者


 それは透き通るような綺麗な銀髪の少女だった


 そして僕の手に感じる柔らかな感触は控え目ながらも確かに膨らんだ少女の胸だった


「……のわっ、ごっごめんなさい!!わざとじゃないんですッ!本当です暗くて見えなかっただけですッ!」

 俊敏な動きで少女から離れた僕は、流れるような動作で即土下座



数分床に額を擦り付けていたのだが、『別に泥棒に謝る必要なくね?』というもっともな事にたどり着くと顔を上げた


「もしもーし、大丈夫ですかーー?」


 返事がない

 どうやら僕が飛びかかった時に頭でも打ったのか意識はないようだ


 彼女の胸の辺りが微かに動いているのでどうやら生きてはいるらしい


 どうして僕が彼女の胸をそんなに見ていたのかは聞かないで欲しい


 ともかく、と僕は部屋の電気を付けるべく照明魔導具ライトのスイッチに魔力を流した


数秒後点灯する照明


その光が彼女を照らしたとき僕は思わず悲鳴をあげてしまった


「こっ――これは……」


僕が眼にしたのは、少女の体の至る所にある夥しい量の傷跡だった


少女の白い肌に無数に走る擦過痕


また、左足には高熱の炎に焼かれたような酷い火傷があった


「一体なんで……いや、兎に角警察に……いや、救急車が先か?」


慌てふためきながら僕は床よりマシだろうと、彼女を僕のベットに移動させた


その時、僕は見た


彼女の背中に走る一対の亀裂を


「……まさか」


すぐさま電源を落としたパソコンを起動

ネットで検索し、目当ての画像を見つけ出した


「やっぱりそうだ……。この子は、吸血族ヴァンパイアだ……」


パソコンの画面に表示されているのは亜人の一種、【吸血族】の体の構造を示す画像


そこには、目の前の少女の背中に走る亀裂のような傷跡と同じ物が表示されていた


ゴクリと余りの事態に息を飲んだ


しかし、これから起こす行動を既に決めていた僕は以外にも冷静でいられた


「……対亜人法、第一条……亜人を発見した場合、発見者はすぐさま、魔術協会に連絡しなければならない。――――また、やむを得ない場合は殺害しても罪には問われない……だったか……」


深呼吸をした僕は冷静に魔術の起動句を唱えた


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