ソフトクリーム溶けて
「あっっつい!」
すべての文字に濁点をつけたいくらいの気持ちであたしは叫ぶ。
だってそれくらい暑いんだもん。
こんな日は補習なんてやめて、
ぱーっと海とかプールとか行きたいな~
あーでも水着になるにはあと2キロ、いや3キロか…!
「…おい、手を動かせ、手を!お前のせいでオレまで帰れないんだからな!」
暑さのあまり軽くトリップしてたら、
目の前のイケメンが暑苦しく怒鳴った。
「うっさいな~わかってるわよ、あとちょっとだから待ちなさいよ。
短気なオトコはモテないわよ~」
なんて憎まれ口を返しながらも、確かに悪いと思いつつ、問題のプリントに向かう。
補習、といいつつなんであたしのせいで(自覚はある)
目の前のイケメン様こと林 悠斗まで帰れないかというと、
おバカなあたしのお目付け役である。
あたし、広瀬 美咲と林 悠斗はいわゆる同い年の幼馴染み。
とは言っても所詮男子と女子で、
一緒に遊んだのははるか昔のことである。
小中学校と全く別の人生を歩んでたあたしたちが偶然高校2年で同じクラスになった。
そのころあたしはすっかり悠斗のことなんて忘れてたし、
向こうもそうだったと思う。
(だって最初は愛想笑い全開だったもん!)
だけど双方の親、特にあたしの母親はばっちり覚えていたらしい。
「今日林さんの奥さんにお会いしたんだけど、悠斗くんと同じクラスなんですって~?」
から始まり
「悠斗くん、ご両親のお仕事が忙しいらしく、うちで夕飯食べることになったから~」
「どうせだったら悠斗くんにお勉強みてもらったら?
学年でも10位以内らしいじゃない!あんたとは真逆ね~(笑)」
と、いつの間にか話が決まっていたのである。
しかし、母の最後の(笑)の時に目が笑ってないことに気付いたあたしになす術はなく。
悠斗が断るかな?と思ってたら、
「コンビニメシとバカの相手だったら後者のがマシ」と言われあっさり受けてしまった。
しかーし!
学年最後から10番目の頭を持つあたしである!
そんな劇的に成績があがるはずもなく、
こうして土曜授業後の補習に至っているのであーる。
説明おわり!
ついでにプリントもおわり!
「終わったーー!!」
「どれ、見せてみろ」
「つかれたーー!!」
「うし、じゃあ帰るぞ」
「今日ごはんなんだろねー」
なんてやりとりしながら、悠斗とあたしは家路についた。
夕暮れよりちょっと早い時間。
時間帯のせいか誰もいない街を二人で並んで歩く。
もともとそんな接点のない二人は当然会話も少なく。
そんな状態だからか、
あたしは初めての「異性と並ぶ帰り道」というシチュエーションに
すっかりパニクってしまった。
だってなんか恥ずかしいんだもん!
え、なんですかコレ、いわゆる制服デートっすか!?
いやいやデートはカップルがするものでありだね、落ち着きたまえ美咲くん。
それより会話!何話すんだ世のお嬢さん方はこういう時!!
なんて心の中であわわわしながら
隣をみると、涼しい顔してる悠斗と目があう。
それにさらにパニックになって、
思わず近くにあったコンビニのソフトクリームの置物を指さして
「あたしはソフトクリームのコーンが嫌いなの!」
「…は?」
そこからは勢い余って怒濤の持論を展開した。
ソフトクリームは好きだが、
コーンは許せない。なぜ口の中の水分を奪うのか。
しかも大抵コーンが最後になるから、後味がコーンになってしまうではないか。
同様にパフェのコーンフレークも認めない!
あれはかさ増ししてるだけだ!
「あのコンビニではソフトクリームをカップで売ってくれない!
だから買い食いができないの!!」
正直心からどうでもいいことに熱弁し、
ぜぇはぁ言ってるあたしの横であっけに取られた悠斗は
「あ~…うん、わかった。とりあえず落ち着け?」
と呆れたように笑った。
その笑顔に、あたしもちょっぴり冷静さを取り戻して、
何をこんなに焦ってるんだとおかしくなって笑ってしまった。
「あはは、ごめん、ここ通る度にいつも思ってたからついスイッチ入っちゃった」
「お~落ち着いたか。
なんかあんだけ連呼されたら食いたくなってきた。買って帰ろうぜ」
「え~だから、ここはカップ売りしてくんないんだってば」
「コーンの部分はオレが食ってやるよ」
「…え?」
そそそそれはいわゆる一つのソフトクリームを
シシシシェアするということでしょうか!!??
冷めた熱が一気にあがってしまったじゃないか!!
たぶん真っ赤になったあたしをおいて悠斗はコンビニに入ってく。
どうもヤツとあたしには越えられないリア充という壁があるんじゃないかと思う。
冒頭にもちらっと言ったが悠斗はイケメンである。
聞いたことはないけど、カノジョもいたっぽい。
噂によるとA組のあのコとか3年のあのヒトとか。
そんないわゆる百戦錬磨な悠斗とカレシいない歴=年齢なあたしの
恋愛偏差値の差がここに!なんて驚愕してたら、
コンビニの中からおいでおいでされる。
イケメン様とはスペックが違うよな~なんて思いながらも
なんとなくもやもやしながら悠斗の後を追う。
「バニラでいい?」
「あ、ミックスがいい!」
「じゃあミックスひとつ」
…やっぱりシェアなんだ。
「ほら、先に食べていいぜ。コーンのないとこな」
笑いながらソフトクリームを差し出してくれる悠斗。
意識してるのがあたしだけなのも癪で、お礼を言って受けとり、
二人で歩きながらソフトクリームを食べる。
あたしがクリームの部分をちょっと食べて、
悠斗がコーンの部分をかじる。その繰り返し。
なぜかコーンはあたしが持ったままだ。
ソフトクリームはこの暑さでどんどん溶けてしまう。
うっかりすると手までたれちゃって、
そしたら手ごと食べられちゃうんじゃないかと思う。
その近すぎる距離にいっぱいいっぱいになって、半分涙目で
「ゆゆゆ悠斗はさすが女の子とシェアに慣れてるね!」
なんて茶化そうとしたら
「は?美咲としかしたことねーし、他のやつとはしたくもねーよ。」
「え?え?したくもないって、じゃあなんで」
「ほら早く食わねーと溶けるぞ」
慌ててソフトクリームを見ると、案の定手までたれてきてしまっている。
あたしがぎゃーっなんて叫んでるうちに悠斗が近づいてきて
「もたもたしてると食っちまうぞ」
とにやっと笑って残りのソフトクリームを食べてしまった。
しかも最後に手についたクリームまでぺぺぺペロリと!!
もはや真っ赤になって何も言えなくなったあたしを見て、
「これからずっと、ソフトクリーム食うときは美咲が上の部分でオレがコーンな」
そういって前をむいた悠斗の耳が、きっとあたしの顔と同じくらい赤かったのは、
夕陽のせいじゃないと思う。
コーンのないソフトクリームは食べ終わったあとも甘くって、
あたしは帰り道の間、ずっと甘い余韻に浸っていた。
続くかも…?