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彼は目を醒ました。
窓の外は夜だった。時刻は二一時……このような時間に二度目の目醒めが起こることを、彼はもう不思議に思うことはなかった。
制服のまま眠っていたようだ。夕食を摂った記憶はある。
彼はベッドから抜け出していつものようにジャージに着替えると、部屋の隅に立てかけてあった竹刀を手に取った。
持ち上げるとずしりと重い。それは彼だけの専用の竹刀だ。規定重量を遙かに超えるその重さが、腕を伝い体の隅々まで力を分け与えてくれるようだった。
彼の切望する願い。
己の力を存分にぶつけ、相手を打ち倒す――幻影が脳裏を掠める。
身震いするほどの歓喜に包まれ高揚した意識を窓の外に向けた。暗黒色の空に散りばめられた星屑、それらに囲まれながら青白い爪月が浮かんでいた。
――さあ、今夜も始めようか。
――ああ、今宵も始めようぞ。
彼自身の意志に呼応して、脳内に別人の声が響き渡った。
――試合の時間だ。
――死合の時間よ。
恐怖はない。ただ試合うことだけが胸を焦がすほどに待ち遠しい。
彼はもはや誰も己を傷つけることができないことを知っていた。自らが一方的に恐怖を与えるだけの存在となっていることを自覚し、だからこそこれほどに待ち遠しく想いながらも、けして焦ってはいなかった。
相手をじっくりと吟味し、死合うにたる覚悟をもった者にしか刃を向けることはしない。強者を打ち倒すことこそが彼の悲願であり、唯一の理念だった。