3話
「っ!」
次の瞬間、私は布団から飛び起きた。
なんだか息苦しいくて呼吸が荒い。
汗をかいたのか、パジャマが湿っぽいことに気づく。
辺りを見回すと、障子の隙間から光が漏れている。
すぐ横においてある時計を確認すれば、時間は4時50分。
あれはただの夢。
ここは祖母の家で私は夏休みいっぱい、ここに泊まりに来ている。
そう思い出して、ばくばくと早い鼓動を抑え大きく深呼吸した。
すごく変で嫌な夢だった。
夢だとわかっていても母の安否をすぐにでも確認したかったが、こんな時間ではまだ母も寝ているだろう。
何もないと思いたいからこそ、こんな時間に確認するのは恥ずかしい。
私は仕方なく起き上がると、障子を開けた。
外は雲1つない晴天。
今日も暑くなりそうだ。
布団を干そうかどうか悩みつつ、部屋を振り返った時だった。
何か黒いものが左から部屋をよぎったような気がしたのだ。
怖い夢を見たから過剰反応しているだけだと自分に言い聞かせる。
祖母はまだ寝ているだろう。
音を立てないように注意しながら布団をたたむ。
なんとなくこのまま部屋にいたくなくって、私は部屋を出て散歩に行くことにした。
散歩でもしれば気分がよくなるだろうし、戻ってくる頃には朝ご飯の支度の時間になっているだろう。
そうしたら朝ごはんを食べて、母に電話すればいい。
そう考えながら玄関に向かった。
「ちょっと、怖い夢見て電話したって、あなたいくつになったの?」
「言うと思った」
「そりゃ言うわよ。心配しなくてもおかあさんはこの通り、元気いっぱいです」
電話の向こうからは、母の明るい声が聞こえてくる。
それがひどく安堵させた。
やっぱり夢は夢で、母は無事だったのだ。
早い時間に電話したせいで、母に事情を説明させられ今に至る。
「おとうさんは?」
日曜日の早朝だ。
父は寝ているだろうと思って聞いてみた。
「仕事よ」
「仕事?」
ふと父の浮気が脳裏に浮かぶ。
平社員でもない父は好きな時に出勤できる重役だ。
日曜日のこんな朝早くに出勤する必要はない。
女の人の所かもしれない。
「勤勉だねー」
「仕事中毒だもの」
そういって母がくすくすと笑う。
知らないということは幸せなのかもしれない。
父が浮気していることを知らない母は、父が仕事中毒だと信じている。
かわいそうだが、幸せだとも思う。
父は浮気しているが、離婚しようとは思ってないのだろう。
家庭を壊さないようにしていることがそう思えた。
「あ、なんかね。最近野良犬が多くなっているのか、毎日犬の声が聞こえるの。昨日の夜なんて庭にまで入ってきたのか、家のすぐ外でうなり声が聞こえたのよ」
「うなり声?」
「まあ、夜なんて外に出ないからいいんだけど・・・毎晩だからちょっと気になって」
「やだ、気をつけてね?」
そんなやり取りをして少し話をしてから電話を切った。
野犬なんて少し怖い。
飼い主に無責任な人が多くてこういうことが起こるのだろう。
家に帰っても声が聞こえるなら保健所にでも連絡しなければ・・・その時、そう思っていた。