壁を掻く音
朝の匂いを忘れる頃
腕の取れかけた兵隊のおもちゃを手に
爪を噛んでる少年の
言葉はテレビの音に掻き消される
テーブルには温もりがあった
その温もりは紙切れだった
その温もりでは何でも買えた
その温もりはすぐになくなった
沈黙の四角形にただひとり
あらゆる雑音を揺りかごにするけれど
胸から鳴る定期的な音が
鼓膜を劈いて瞼を持ち上げる
テーブルにはおもちゃがあった
そのおもちゃは鋭く尖っていた
そのおもちゃでは何でも刻めた
そのおもちゃを両手で握った
沈黙の四角形にただひとり
駆られる衝動は意味もなく
朝の匂いを忘れる頃
鈍く汚れたナイフを手に
爪を噛んでる少年の
言葉はアナウンサーの声に掻き消される
ねえ、聞こえる?
ねえ、聞こえた?
呟く声は定期的に聞こえた
耳を塞いでみるけれど
今だってほらなんか言ってる
聞こえる?
聞こえた?
わかる
わからない
沈黙の四角形にただひとり
言葉なんて必要なかった
そうさ、
返事なんてしなくても
ボロボロになった人差し指が
理解を促す頃には
滴る赤に高揚を隠せずにいる事なんて
きっともうなくなってる
朝がくる
瞼がおちる
今日言いたかった何かが
脈打つ音に掻き消される
別に本当は、
どうだっていい事なのだろうけれど。