プロローグ
神は退屈していた・・・この百年、地上では驚くような出来事が一つも起きていないことに。
かつて自分が戯れに創り出した人間という生命体。
彼等は、この地上に大きな変化を与えてくれた。
いくつもの文化を築き、私利私欲のため争いに没頭し、空を飛び、海を越え―――その営みは、神にとって唯一の娯楽となっていた。
だが今の人間はどうだ。争いを避け、平穏にしがみつき、技術の進歩すら停滞している。
そんな変化のない地上を、観察していても心が動くことはなくなった。
今では、もう地上に目を向けることすらなくなった。
そこで神は考えた―――この退屈を紛らわせる遊びはないのかと。
そして思いついたのだ。
“五つの最悪の運命”を事前に告げたうえで、自らの創った世界へ人間を転生させるという遊戯を。
高い知能を持つ人間だからこそ、その最悪な未来が訪れる世界で、どのように生きていくのか・・・
運命に抗う者もいれば、受け入れて滅びる者もいるだろう。
どちらに転ぶか分からないからこそ、面白い。
神は躊躇わなかった。自分の創った人間を、自分都合で殺して転生させようが何の問題もない。
早速、無作為に一人の人間を選び、新たな世界へと送り込む準備を始めるのだった。
ーーーーー
「どこだ、ここ?」
目が覚めると、俺は真っ白な空間にいた。
夢でも見ているのか・・・自分の頬を強く抓ってみたが、ちゃんと痛みを感じる。
つまり、これは紛れもない現実ということだ。
「そこの人間、お前は幸運だ」
「だ、誰だ!?」
辺りを見渡してみるが、どこにも人の姿は見えない。
隠れることが出来そうな場所もなかった。
「その問いに答えよう。我は神だ」
「か、神って・・・あの崇められている存在の?」
「その通りだ」
嘘を吐いているとしか思えない。
いきなり”我は神だ”と言われても、ああ、そうでしたか―――と信じる人間はいない。
本当に、神であるなら自分の目の前に姿を現してほしいものだ。
「ほう、生意気な人間だ。いいだろう。特別に、お前には姿を見せてやろう」
その瞬間、突如、目の前に上裸の男性が姿を現した。
何もない場所からの出現、思考を読み取れる力、肌で感じるほどの威圧感。
どうやら、嘘は吐いていないようだ。
しかし、これが神なのか・・・意外と想像どおりだったな。
鍛え抜かれた体に、よくゲーム画面で出てきた見覚えのある白い衣を着ていた。
そのこともあり、あまり驚くことはなかった。
「それで神様が、自分に何の用ですか?」
本題を聞く。
ただ神が自分の姿を見せるためだけに、この訳の分からない空間に自分を呼ぶわけがない。
何かしら別の理由があるに違いない。
「お前には、我の遊戯に付き合ってもらう」
「ゆ、遊戯?」
余程、暇でもしているのだろうか。
ずっと天界から地上を眺めているだけだと、飽きてしまうのにも無理はない。
俺たち人間みたいに寿命があり、何が起こるか分からない地上で生きていたら・・・神様も退屈しなくて済んだのかもしれない。
可哀想な存在なんだな、神様って。
「さっきから好き放題と・・・お前は無礼極まりないな」
「す、すみません!」
神様は、鬼の形相で睨んできていた。
こっちの思考を読み取れることを・・・つい忘れていた。
「コホン。気を取り直して、今から遊戯の内容を説明する」
一度咳ばらいをし、場の雰囲気を整えてから、神様は口を開いた。
「お前には、我が創った新たな世界に転生してもらう。そこで、お前は二度目の人生を歩むのだ」
「あの二度目の人生って言ってますが、まだ自分死んでないですけど・・・」
「いや、お前は死んだ。我の力で、心臓麻痺を引き起こさせたからな」
え、心臓麻痺を引き起こさせた・・・ちょっと待て。俺、神様に殺されたのか!?
あまりにも、さりげないカミングアウトに、その事実を飲み込むことができなかった。
せっかく大手企業の内定も決まっていて、可愛い彼女と3年以上も付き合っていたというのに。
神様の都合によって、俺の花道人生は台無しにされてしまったようだ。
「説明は、これだけですか?」
二度目の人生を歩ませることだけが、神様の遊戯であるはずがない。
そんな事をしても、また飽きてしまい、結局は二の舞になってしまうだけだ。
なにか他に狙いがある。でないと、一人の人生を終わらせる強引な手段を取らないだろう。
「いや、ここからが本題と言っても過言ではない。今から、お前に必ず訪れる最悪な運命を5つ告げる」
「最悪な運命・・・」
「正確な年月までは教えられないが、お前が何歳の時に、どういう事が起きるのか伝えておこう」
「少しいいですか?」
「どうした?」
「それを伝えて、何の意味があるんです?」
まったく神様の意図が読めない。
最悪な運命を告げることで、その運命に死に物狂いで抗うことを見物にするつもりだろうか。
それとも、無様に朽ち果てていく姿を愉悦するつもりなのか。
どちらにしようと、非道なやり方であることに変わりはない。
「それは邪推だ。どちらに転んだところで構わない。我は、自分の運命を知っていたら、その人間はどのように生きていくのか・・・ただの興味本位として観察してみたいだけだ」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍り付いた。
あの冷え切った目、一切感情を悟らせない声。そこでようやく実感した。
神の遊戯なんて、聞こえのいい言葉で騙されていたことに―――。
「怒りや憎しみを孕んだ目。人間の産みの親である我に向けていいものではないが、まあいい。人生を強制的に終わらせ、こうして遊戯に付き合ってもらうのだから大目に見てやる」
「あなたの思い通りになってあげます。だから、早く自分に訪れる最悪な運命を教えてください」
乗り気ではない。今すぐにでも、殴りたいほど腸が煮えくり返っている。
自分勝手に他人の人生を終わらせ、挙句の果てに、こいつの遊戯とやらに付き合わされるのだから。
「ふん、これは面白くなりそうだ。では、1つ目の運命から告げる・・・」
そして、俺は神様から5つの最悪な運命について教えてもらった。
どれも残酷な内容であった。いかにも、この暴君である神様が考えたようなものだった。
転生した先で、俺はこれらの運命と向き合っていかないといけないのか。
この時の俺は、まだ何も知らなかった。いかに現実は恐ろしく残酷であるということを―――




