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「んー……。予想はしてたけど、やっぱ大きいなぁ」


 少しよれてしまった学校案内のパンフレット。目に優しいとか評判の緑色を中心とした色使いであるそれ。ま、よれてたって良いさ。一週間もすれば、すぐに不要になる代物なんだからね。

 そんなパンフレットから視線を上にして呟いた言葉は、他の生徒達に無慈悲に踏み潰されて消えたような気がした。

 大きい。とんでもなく大きい。コンクリートで出来た近代的な造りのそれは、現代の要塞、そんな言葉がぴったりだ。つまりは、暖かさを一欠片も感じないって事。ここが、義務教育であった小中学とは違う所。余計な温さは要らないと、はっきりと断りを入れられている気分だ。幼稚園なんかとは、比べ物にもならない無機質さ。いいもん、どうせ期待なんてしてなかったよ。

 期待と不安が混ざった複雑……はっきり言っちゃえば変な、そんな表情をして早足で歩く新入生達に合流して歩く。なんて、僕も新入生である事には変わり無いんだけどね。

 敷地は広い。玄関まではまだ遠いから、何となく入学に至るまでの長い長い道程なんかを思い出してみる。

 去年、中等学校に通っていた時の僕の成績は、お世辞にも良いとは言えなかった。……とかカッコ付けてみるけど、本気の本気で悪かった。教師から何度も諭される始末。最終的には、滑り止めを低ランクの私立にする事で妥協してもらった。そりゃもう、必死に頼み込んでだよ。

 さて、そこまでしてこの高校に通いたかった理由。ぶっちゃけると、実家から適度に遠くて寮のある高校ならばどこでも良かった。その条件を一番綺麗に満たしているのが、この学校だった。実家なんて言っても、血の繋がった家族はいない。僕が小さい時に交通事故で死んだ、らしい。三流映画みたいな展開だけど。主人公は家族がいなくて生涯孤独って奴。悲劇のヒロインみたいな境遇。僕は男だよ。どうやったって、皆に同情される役になるのは、プライドが折れそうになる。そこまで強固なプライドは、持っていないはずだけどね。引き取られたのは、両親共通の知り合いの家だった。親戚ですら、無かったんだ。だから、どこか他人事だった。そんな気の置けない家なんて、いたいと思わないでしょう? 

 おやつを食べる時間とお昼寝の時間を削り、歯を磨く時間をも惜しんでシャカシャカやりながら参考書を眺めていた事数ヵ月。何とか入学できた訳である。今の話に、世界の人々は感動の涙を流して大きな海が出来るだろう。

 それ程、緑豊かでもない校庭を進むと、漸く玄関が見えてきた所だった。という訳で、回想は強制終了。 他の生徒達が、玄関の扉の前に設置されているゲートのような機械にカードを通しているのが見える。すごーい、映画の秘密結社の基地みたいでカッコ良い。

 そんな感じで秘密結社よろしく自分の個人データが記録されたカードを通して校舎内に入っていく生徒達を見て、僕も何気なくポケットに手を突っ込んでみた。軽量化を図っているのか、通気性を良くするためなのかどうかは知らないけど、メッシュで作られたポケットの内側には、空気以外に何も入っていない。ですよねぇ。だって、そんなのを入れた覚えはないもん。

 どうしよう、えーと、どうしよう。ここは誰かに頼んで一緒に通して貰った方が良いのかな!? っていうか、それぐらいしかマトモな手がないような気がする。入学式はこれからでまだ入学許可されていないから、先生にカードを無くしたと知られれば何と言われるか……とにかく、先生方に助けを求める事は出来ない。でも、周りは皆、知らない人ばっかだし、それに初日から忘れ物している奴なんて思われたら恥ずかしい! 僕、もうお嫁に行けなくなっちゃう!


「何をしている? そこに突っ立っていては邪魔だ。早くカードを通せ」


 後ろから聞こえた凛とした感じの声に、我を取り戻す。考えてみれば、僕は男なんだから嫁に行く必要とか無いじゃん。そっちの方が恥ずかしいし。

 それにしても、よく通る声だった。それは恐らく、というか確実に僕にかけられた声であるはずだから、振り返ってみる。

 あぁ、似合うね。何がって、見目が声の雰囲気とよく合っている。同い年の女の子に対してこんな表現をするのは変かもしれないけど、麗しい娘だと思う。こんな綺麗な人を今まで一度も見た事が無かったし、その夢の中でしか会えないような美少女にいきなり声をかけられた事によって、僕の頭はショート寸前だった。何て返事をするべきだろう。よし、決めた、これにしよう。


「あ、あの……」

「もう良い。見苦しい。カードを忘れたのだろう? 早く通れ」


 あっれぇ? 僕の言葉は押し潰されて、一体どこに消えちゃったのかなぁ? 右のほっぺがピクピクするけど、どうやらこの美少女さんは僕にカードを貸してくれたようなので、取り合えずは良い人認定。おめでとうございまーす。パンパカパーン。少し口調に棘があるのも、色々緊張しているからなんだよ。そうだ、そうに違いない。


「ありがとうご……」

「礼なら良い」


 前略。天国の父様、母様、どうやら僕の学校生活のは出だしから台無しのようです。心が折れてしまいそうです。もし僕が今日、ゲームを二時間以上しなかった場合は、天に召されたと思ってください。今、会いに行きます、天国に。


 ……僕の本当の不幸はまだこの先に存在したようだ。

まだまだ、最初の方です。


はやく、長文が書きたい!

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