弐噺(にわ) 三途鉄道彼岸線の旅
聖は橋の上で夜空を見上げていた。
「死後の世界にも空はあるんだなぁ…………」聖は呟く。
その呟きに答えたものがいた。
「私には空の上が、真っ赤に見える」彼岸花の花飾りをつけた黒髪の少女だ。
「え?」
「この世界は人それぞれ見えてるものが違うの。空や山、川の色とか……」少女は言う
「つまり、自然の風景とかは観る人によって違う?」
「その通り!風景とかは、その人の生き様が反映されるの」
「じゃぁ……俺に綺麗な星が見えるのは………」聖が言う。
「生者だからね」少女は続ける。
「明日か…………迷界駅に降りるか………不安でたまらない」
翌日。朝の光に照らされながら、乗客達は列車に乗り込む。
「はいはい。皆さん。外が魅力的に見えても絶対に駅から出ないでくださいね」車掌は乗客達を案内する。
「なんで駅から出てはいけないんだ?」聖は疑問に思った。
「迷界の存在が理由ですよ」車掌はこたえる。
「迷界?」聖は、黒髪の少女に尋ねる。
「後で説明する」少女は列車に乗り込んだ。それに乗じて、聖も列車に乗り込む。
列車に乗り込むと外から声が聞こえてきた。
「全員乗車!出発!」駅員の声と共に、列車は三途橋駅から出発した。
列車内は、やはり怪異でいっぱいだった。
「聞きたい事があるんだが、この列車って死者が乗る列車なんだよな?」聖が尋ねると少女は頷く。
「なら、なんでこんなにも怪異が多いんだ?」聖の単純な疑問に答えた怪異がいた。
「怪異は何度も乗るからさ」声のする方を向くと、侍姿をした怪異がいた。
「オレは、怪異『むしゃ』。100年以上ずっと乗り続けている」むしゃは、2人が座れるスペースを開けてくれた。
「お前さん、生者なんだろ?」
「何でそれを!」聖はむしゃに対し警戒の態勢をとる。
「昨日騒ぎになっただろうよ」むしゃは笑い飛ばす。
突然、むしゃは真顔になる。
「2人とも!そこをどきな!」むしゃは叫ぶ。
2人は座席から離れた。座席には、蜘蛛の形をした生物がいた。
「害虫め………」むしゃは蜘蛛を斬り払った。そして、2人が驚いていたのを見てか声をかける。
「すまん。取り乱してしまった。蜘蛛にはどうも嫌気がな」むしゃは冷静に語る。
「蜘蛛?」聖はまた問う。
「疑問の多い若造だな。分かったよ。教えてやるさ。オレの事を」むしゃは過去語りを始める。
時は昭和初期。1人の少年が侍に憧れていた。日本は、激動の時代を迎えることとなる。
「満州国万歳?」1人の若者はうわの空で言う。
「何を言ってるんだ。我々日本は、満州を自由にさせてやったんだ。日本国民として誇りを持ちなさい!」近くにいた爺は言う。
「でも、戦ってた兵隊さんの事も誇りに思って……」が、少年は途中で言うのを諦めた。
時代は太平洋戦争となり、若者となった少年は、兵として前線で戦う。若者は、侍を憧れていたが、夢も叶わず戦乱の舞台へと起こり込まれていた。若者は、日本で出来た恋人の事を想う。
「絶対に、生きて帰ってくる。この戦争が終われば、またいつものように、生活できる」そう頭に叩き込み、懸命に戦う。
しかし、そんな若者に悲報が。想い人が、空襲で亡くなった事を知らされる。若者は、自暴自棄になり敵味方関係なく人を襲う。正気を取り戻した時には、みんな倒れていた。若者は、侍を夢見ていたがそれは叶うはずもなく、時代という激流に飲まれ、命を落とす。
「せめて、侍として、こちらに帰りたい」と呟き、銃で心中を行う。それを反対するかの如く、若者の周りに蜘蛛達が駆けつける。だが、若者は倒れてしまう。蜘蛛達は、一斉に沢山の死体を貪り始める。
「…………とまぁ、オレの過去だ」むしゃは言う。
「…………あのさ、俺から言いたい事があるんだけど」聖は言う。
「言いたい事?」黒髪の少女が尋ねる。
「侍になりたいのって、姿?それとも中身?」
「オレは……侍に近ければいい」
「ならさ、侍の姿じゃなくてもいいんじゃない?侍の精神って、そのまま日本人に直結してる事もあるじゃん?怪異としてじゃなくて、1人の人間、1人の死者としてさ、誇りを持っていけばいいんじゃない?自分が誇りを持てることこそが、本当の誇りだと思う。誇りを持って、自分の思うままにしようよ!」聖は言う。
「誇り…………」むしゃの目には涙が浮かんでいた。
「い、いけない。侍としての誇りが霞んじゃうぜ」むしゃは少し笑いながら言う。むしゃは、そのまま光となって消えた。
「消えた…………?」聖は迷う。
「怪異は、未練が晴れたりすれば列車から乗車できる。むしゃは、新しく生まれ変わるよ」黒髪の少女は言う。
三途鉄道は、ちょうど迷界駅に着いた。迷界での、情報収集が始まる。




