壱噺(いちわ) 三途鉄道に御乗りの皆様
「三途鉄道に御乗りの皆様。三途鉄道をご利用頂きありがとうございます」ガタゴトと揺れる車内に負けずと劣らずアナウンスが鳴り響く。
(どうしてこうなった…………)聖は状況の理解が追いついていない。
聖は列車の席に座っている。隣には、ふっくらとしたモフモフの悪夢らしきもの。
上には、聖に向かって威嚇し続ける怪異もいる。
「…………なんで周りに怪異がいるんだよ!!!」聖は叫ぶ。
周りの乗客は冷たい(物理)目や三つの目、赤い目で聖に視線を向ける。
「あ、すいません……」聖はしゅんとなる。
その時、1人の少女が聖に話しかける。彼岸の花の花飾りをつけた黒髪の少女で聖より少し小さいくらいの身長だった。
「あの………そこ、座っていい?」恐る恐る話しかける。
「あ、いいよ!全然」聖は笑顔で言う。
「ありがとう。座らせてもらうね」その少女は座る。
周りの怪異達も横にずれて座れる余裕をつくる。
聖はその違和感を見逃さなかった。少女も聖と同じ人であるはずなのに、対応がまるで違う。
聖が勇気を出して聞こうとした時。
ドォォォンと轟音が鳴り響いた。
「そこにいたのか………次はどんな手でも使うと言ったよなぁ」手に鉄砲を持っている、鎧をつけた怪異が言う。
「この、『ひとけし将軍』から逃げ切れると思うなよぉ」ひとけし将軍は、少女に向けて言い放つ。
(何が起きてんだ!どうして周りの乗客は止めない!?誰も知らないフリをしてる…………こうなったら)
聖はひとけし将軍の腕を掴む。
「あ?なんだ?」
「人をぞんざいに扱うんじゃない!警察に通報するぞ!」
そう言った瞬間、車内の空気が凍り付く。
「ほぅ…………今、警察といったな?」ひとけし将軍はニヤつく。
「という事は、お前は生者なわけだ。どうりで気分が悪いと思ったのか。」ひとけし将軍は腕を掴む聖の手を思いっきり叩く。
バシン!
聖の手に激痛が走る。
「痛いのか?そうだろうな。お前は生者だ」ひとけし将軍は笑う。
「生者という事は…………」ひとけし将軍は急に改まる。
「彼岸の者にとって、最高の媒体だ」ひとけし将軍は聖の口を押さえる。
「ンゴッ……モゴ…………ンゴンゴ……」聖は必死にもがく。
三途鉄道彼岸線の車内を1人の少女が駆け走る。
「どうしたんですか?」運転士が聞く。
「今はそれどころじゃないの!」少女は言う。
「はぁ…………?」
「緊急停止装置はどこにある?!」少女は叫ぶ。
「いや、貴女に教える事は…………」
「賽の河原の石あげる!」
「後方車両です!」
「逆方向だったか!ありがと!」
聖は限界が近くまで来ていた。運良く、ひとけし将軍の手では完全に口は塞がってなかった。ただ、それでも限界はやはり近い。
「どうした?苦しいか?お?どうなんだ?」ひとけし将軍は煽る。
「あった!操作パネル!緊急停止装置作動!」少女はレバーを引く。
列車の車両は火花をたてる。キィィィィーーー。列車は三途の川を大横断する三途橋で停止した。
「チッ。やられた。今回はこの程度で許してやる」そう言ってひとけし将軍は何処かに行ってしまう。
「なんだったんだ…………」聖は普通の世界ではない事を悟った。
「気付かないのね…………」少女はそう言って車内へと戻る。
「ここは一体どこなの?」聖は少女に聞く。
「ここは三途鉄道の車内よ」少女は答える。
「いや、そうだけどそうじゃなくて」
「知りたい?」少女は深刻な表情で聞く。
「うん」
「後悔しない?」少女は一層強く聞く。
「…………うん」聖は一瞬戸惑ったが固唾を飲んで、答える。
「ここはね、死後の世界。この鉄道は、此岸、この世の事で、その此岸から彼岸、あの世に向かう列車なのよ。で、今は多分聞いたことある三途の川の丁度真ん中で緊急停止してるのよ」突然の情報量に聖は頭が追いついていない。
「じゃぁ、なんで生者の俺がここに……?」
「分からない。けれど、怪異が関わってるのは間違いないわね」
「はやく元の世界に戻りたい。何をすれば戻れる?」
少女は少しの間、悩む。
「迷界。今日は、三途橋駅で休むけど迷界駅に行けば、色々な情報を得られる。ただ、戻って帰れる自信があるならね」
「………………」聖は唾を飲む。
「何?また回収に失敗した?」
「申し訳ございません!邪魔者が混じっておりまして………」ひとけし将軍は言う。
「言い訳を言うな!!!!」
「ヒッ、すいません。あ、ただ………生者を見つけしまして……」
「ほぅ。聞かせてみろ」
「了解しました」




