9 七十年後の街の様子
沼を離れ、森を出ると、見慣れたはずの通りに出た。
そこはたしかにかつての通りだった。なのに、建っている家々の様子が微妙に違う。かなり傷んでいる木造の家もあれば、見たこともない新しい建物もあった。
「どうして……。ああ、そうか」
あれから七十年の時が経っている。当然、町も人も様変わりしている。そのことにあらためて気づき、わたしは時の流れの速さに圧倒された。
「空き家もけっこう増えてますね」
「ああ。ここらにはもう子供がほとんどいないんだ。たいがいの家は後継ぎがいなくなって、こうなっちまう」
わたしはふと、自分の家のことが気になった。
お父様はとっくに亡くなっているはずだ。ではあの家は? もう人手に渡ってしまっただろうか。
「あ、ベラさん。途中ちょっと寄りたいところがあるんですがいいですか?」
「寄りたいところ? いいけど……」
わたしはベラの家に向かう途中で、かつての我が家に寄り道をしてみることにした。
かつての屋敷。それは他の家と同じように空き家になっているだろうか。それとも……。
「あ……あった……」
到着してみると、そこはかつての屋敷のままだった。庭も手入れがされていて、どこにも傷んだ形跡がない。
「七十年も経っているのに。どうして……」
「七十年? ちょっと待った。魔女さんが死んだのって――もしかしてそんなに昔だったのか?」
「はい……。ここはわたしの家なんです。お父様が住んでいたはずですが、あれからどうなったのでしょう。この屋敷は今……」
「ああ、ここは今、街の図書館になってるんだよ。なんでも昔、この屋敷の所有者が国にまるごと寄贈したんだってさ。そうか、ここがエルザの実家……って、アンタ貴族だったのかい!?」
なるほど、図書館に。
お父様はわたしがいつでも帰ってこれるように、ここをこうして残してくださったのだ。たとえ自分が亡くなっても、いつでも帰ってこられるように……。
わたしは、親不孝者だ。
あんなに愛情をかけて育ててもらったのに、自ら命を絶ってしまった。なおかつ何年も、何十年もこの家に帰らなかった。
「ああ、お父様……」
わたしは涙をこらえることができず、思わず顔を伏せた。
ひとしきり屋敷のことに思いをはせると、またベラに向き直る。
「お待たせしました。行きましょう」
「もういいのか」
「はい。もうここに用はありません。今は、わたしのできることをします」
「……。じゃあこっちだ。もう少しだよ」
ベラは少しだけ足を速め、わたしをまた案内した。




