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6 流星群の夜

 数多の星が空から流れ落ちてくる。

 それは流星群というのだと、かつてジェイド様がわたしに教えてくださったことがあった。それは天文学や気象学に関する書籍をご紹介くださったときのことだった。


「エルザ、この世界では百年に一度、たくさんの星が流れる夜が来る。その星は、いつも空に輝いている星とは違うものなんだそうだ。夜空の向こうに張り付いている魔力の素が結晶化して降るものなのだと。それを流星群というらしい」

「へえ……なんとも不思議な現象ですね」


 ジェイド様は、夢見るように話された。


「そんな空をいつか君と見てみたいものだ」

「……そうですね」

「魔力の星だなどと、俺にはちっとも想像できないが、きっと綺麗なのだろうな」

「ええ。でもそれは……百年に一度、ですか? 次はいつ見られるのでしょう」

「たしか――」


 本を開いたジェイド様は、「七十年後だ」とおっしゃった。


 ああ……あれからもう、七十年も経つのか。

 お父様は当然亡くなられているだろう。もしかしたら、ジェイド様も……。あのころ、婚約破棄をされたとき、わたしは十八歳で。ジェイド様は二十歳だった。

 ただでさえ短命の者が多いこの国で、ジェイド様がこの年まで生きておられるわけがない。


 いつのまにか亡くなられていたと、知るのは少し寂しかった。

 もうずっと会えていないので、記憶もおぼろげになってはいるが。


 空にはたくさんの星が流れていた。

 赤や、青や、白に目まぐるしく変化する星が、長い尾を引いて地上に落ちてくる。

 たしかにそれは普通の星ではなさそうだった。

 魔力の結晶。そのひとつが、まっすぐこちらに向かってくる――。


 えっ? こちらに……?


 見間違いではなかった。

 確実にあれはこの沼に向かって落ちてきている。

 とはいっても、わたし自身は白骨化しているし、沼だって動きようがないので逃げることなどできなかった。流れ星は、沼の上まで来ると、水面を一瞬パッと明るく照らし出し、激しい水しぶきを上げて沼の中に墜落した。


 ボコボコと水が激しく沸騰するのを感じる。

 沼の生物たちがあちこちで右往左往しているのを感じる。


 やがて、赤や青や白に変化する星が沼全体を光らせた。

 あの魔力でできた星すら――この沼と一体化したのだ。わたしにはそれがひしひしと感じられた。


 星が何か言っている。


「■■、■■■■■■■、■■■■■■■■■」


 なんと言っているのか、人間だったころには絶対にわからなかった。でも、今これとわたしは一体化している。だからわかる。


「ねえ、このまりょくを、きみたちにあげるよ」


 魔力が……わたし(わたしたち)に流れ込んでくる。

 白骨化したわたしのまわりに、あらゆるものが集まってくる。それらは魔力で圧縮され、だんだんと濃緑色のドレスに変化していった。生き物たちの肉がわたしの血肉となり、胸に透き通った碧色のブローチが輝く。わたしは目を開けた。


 わたしは、沼の上に浮いて立っていた。

 ブローチの輝きで、わたしの姿が水面に映る。


「えっ、アオガエル……!?」


 わたしの顔は、なんとカエルになっていた。

 体や手足、頭は以前の人間の形だが、顔だけがアオガエルに――。

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