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21 毒の体

「毒性が高い?」

「そう。ちょっとそっちに近づくね」

「はい……」


 リフューズはわたしのそばに来て、その白い光の膜をわたしの手や顔に接触させた。

 光の玉を当てられたときとは違い、激しいものではなく、じんわりとした圧力だけを感じる。


「やっぱりだ。君の体も、毒性がある」

「えっ」

「その体で人に触れない方がいい。普通の人間なら肌がただれてしまうだろう。あの魔物のカエルたちもそうだ。体内に毒を貯め込んでいるのか、何かに触れただけで強い腐食をもたらすはずだ。とても危険だった……。まあ、僕には拒絶の魔法があるから触れられるなんてことは絶対起こりえないけど、ここにはネルブスもいたからね」

「あ……」


 ちらりとネルブスを見ると、彼は木の後ろに隠れてがたがた震えていた。


「そんな……でも、触れても大丈夫なときもありましたよ?」

「それは、どんなときだった?」


 ベラといたとき、ほとんど接触はなかった。頭にベラのショールを巻いてもらったときも、直接は触れられなかったし、以後は道の上を移動したり、畑の上で魔法を使ったときぐらいだった。

 憲兵たちについていったときも、人には触れられていない。取調室の椅子や、馬車の荷台に指示されて座ったくらいだ。

 王城でもそう。特に捕縛はされなかった。あくまで向こうの事情聴取に応じる形だったから、縄で縛られたり、手錠をかけられていたわけではない。床や壁とはこっそり一体化したけど、あとで原状回復できた。


「いろいろな人たちと会ってきましたが……どの時も、直接触れたり触れられたりはしていませんでした。土の上や、椅子や荷台、建物など、無機物の上には立ったり座ったりしていましたが、それもどこも腐食はしませんでした」

「ふむ。奇跡的に人とは接触しなかったんだね。あと、無機物は影響を受けないのか」

「はい、それはたぶん……意識的に取り込もうとしていなかったり、もし取り込んでも元の素材だけ返却していたからだと思います。生き物は……まだ試したことがありませんが、たぶん生き物でそれをやると負傷したり命を落とすのかもしれません」

「だとすると……さきほどの魔物のカエルたちは別だね」

「はい?」

「あいつらはおそらく、沼の毒に耐性がある。むしろ毒を好んでいる節すらありそうだ」

「なるほど……」


 わたしが来てから「沼の住み心地が良くなった」「体が強くなった」と言っていたのは、そういう理由があったのかもしれない。


 普通、カエルは環境の変化に敏感だ。生息している場所の汚染や荒廃が進むと一番先にいなくなってしまう。昔読んだ「生き物辞典」にそのことが載っていた。


 でもあの沼は、もともと魔力の流星が落ちていたのか不思議な力の働く沼だった。そこに生息するカエルたちは、それによって普通のカエルとは異なる、毒を好む魔物になってしまったのかもしれない。

 であれば、わたしが沼にベラの畑の毒や、川の毒を引き込んだことで、さらに彼らの力になってしまったのだろう。


「あの子たちは、毒があればあるほど元気になるのかもしれないですね……」

「皮肉だね。この国の大地に眠る毒素が力となるとは……。しかし、人々は毒から逃れられ、君たちはそれを力とできる。お互いに利益のある交換だ」

「そうですね。どこまでできるかはわかりませんが、わたしは困ってる人がいたらこれからもこの【沼の魔法】で助けていきたいです」

「助ける、ねえ……」


 リフューズはジェイド一世の墓の前に行くと、足元に供えられた花を見下ろした。

 それはさきほどわたしが供えた花だ。

 さきほどまで綺麗な青い花だったのに、今はぐずぐずに腐って黒くなってしまっている。


「それは絶対に人に触れない、というルールを守れば可能かもしれないね」


 わたしはあることを思い出して、急に背筋が寒くなった。

 ある一人だけ、触れた人がいたからだ。


「ジェイド殿下……」

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