20 沼のカエルたち
「これは…………魔物だね。まさか魔物を召還するとは……」
「ま、ままま、魔物!?」
リフューズは白い光の膜を拡大し、手近なカエルの一体に接触させていた。
つぶやかれたのは……意外な事実。
墓守のネルブスは案の定、大げさに驚いていた。わたしも(ネルブスほどではなかったが)、そんなことはいっさい知らなかったので激しく動揺する。
「この子たちが……魔物?」
たしかに、こんなに大きな目をしたカエルは他ではあまり見たことがないかもしれない。
沼を訪れることも稀だったし、行ったときもとくに人間に害を及ぼすようなことはされなかったから、見かけても魔物だとは思わなかった。ただの普通のカエルかと……。
もしかしたら、地元の人間も気づいてないのではないだろうか。
「僕の【拒絶の結界】の中で魔物を召還するなんて……ありえない。僕の【拒絶の魔法】が機能しないなんて……ありえない」
リフューズはそんなことをぶつぶつとつぶやいていた。
たしかに、ネルブスいわく、この公営墓地は「魔の者が立ち入らないよう、聖なる加護がかけられている」という話だった。その魔法は「墓の守護者」たるリフューズがかけていたのか。
ともあれ、その聖なる結界? の中でわたしは魔物であるカエルたちを召還してしまったみたいだった。一方、そのカエルたちはというとそれぞれが思い思いに動き回っている。
「ここは、どこケロ……」
「沼に早く帰りたいケロ……」
「あっ、虫がいるケロ!」
「よこすケロ!」
リフューズとネルブスには聞こえていないようだったが、わたしには彼らの声がしっかりと聞こえていた。なぜカエルの声がわかるのか。それは、わたしの体の一部がカエルになってしまったからかもしれない。
「あっ、見るケロ。人間がいるケロ!」
「あっ、このあいだの妙なやつもいるケロ?」
「そうケロ、仲間を何匹か吸収していったやつケロ!」
「返すケロ!!」
「この、カエルでなし! いや、カエル? どっちでもいいケロ!」
カエルたちはそう言って、わたしのところにわらわらと集まってきた。
なにか責められそうな雰囲気だったので、先に謝っておく。
「ご、ごめんなさい! あなたたちの仲間を奪ってしまって。でもわたしの意思じゃないんです。あの魔力の流星が勝手に……。ですので、わたしの一部は今あなたたちと同じになっています。ほら、そのせいで会話ができるでしょう?」
「ほんとケロ」
「我々と話せるケロ?」
「不思議ケロ~」
カエルたちは、なかなかにこの状況を面白がっている様子だった。
「急に沼からお呼び立てしてしまってすみません。ちょっと【沼の魔法】を使わなきゃいけない事態が起きまして……すぐお戻ししますので、ご安心ください。あ、わたし沼で人間から魔女として生まれ変わったエルザと申します。これからもよろしくお願いいたします」
「わかったケロ~」
「そういえば、お前が来てからなんだか沼の住み心地が良くなったケロ」
「そうケロ。少しだけ体が強くなったような……?」
「もしかして、エルザがなにかしたケロ?」
「わかりません……。魔力の流星のせいだとは思いますが……そもそもみなさんは以前からその姿だったんですか?」
「そうケロ。お前が来る前から、ずっとこうケロ~」
「もうずいぶん長い間、我々はこの姿ケロね」
「そうでしたか……わかりました」
わたしはあらためてお礼を言うと、またドレスの裾を伸ばして彼らを沼へと送り返した。
ということは……わたしは魔物であるカエルたちを取り込んで、この体になったのか。
彼らがいつから魔物として発生したかはわからない。はるか昔、もしかしたら百年前の流星群のときにもあの沼に流星が落ちてきたのかもしれない。あるいは、二百年前、三百年前にも――。
「リフューズさん」
「……」
「リフューズさん!」
「えっ。ああ、なんだい?」
依然としてなにかをつぶやきつづけているリフューズに呼びかけると、彼はハッとした顔でこちらを向いた。
「あの、さっきのカエルたちを呼び出してわかったことなんですが。わたしが魔女として生まれ変わったあの沼は……以前から不思議な力の宿った沼だったかもしれません。先日の流星が落ちてくるずっと前から、彼らはあの姿だったそうです」
「えっ、もしかして今……あの魔物のカエルたちと話してたのかい?」
「はい。なんか話せちゃってました。自分でも今、それができることに気づきましたが」
リフューズは、しばらく言葉を失っていた。そしてなにごとかを考えたのち、構えていた木の杖を降ろした。
「わかった。ある程度は君が善良そうな者であると、僕も認めるよ。ただ……その魔法は毒性が高い」




