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19 沼の魔法を披露せよ

 といっても、何をどうしていいかすぐには思いつかない。

 わたしの【沼の魔法】は、そもそも「何かと一体化する」「何かを吸収&排出する」「沼にあるもので別のものを作る」「空を飛ぶ(ものを浮かせる)」といった機能しかない。

 この場にあるもの(ジェイド様ら王族の墓石)を吸収するわけにはいかないし……何かを作ろうにも何を作っていいかわからなかった。誰かを助けたいとか、そういう具体的な目標がないと、戸惑ってしまう。


「ほらほら、どうしたの? 早く見せてよ」


 宮廷魔法使いの男は、煽るようにわたしの周りを歩き回っていた。 


「あの、魔法をお見せするのはやぶさかではないんですが、そうされるとやりづらいです……」

「え、なに? こんなことでできなくなっちゃうの? 弱……」


 心底見下したように笑われる。

 わたしは努めて冷静に言った。


「弱い、というか……。そもそもわたし、魔法を使えるようになったの、流星群の夜から少し経ったくらいからなんですよ。だから魔女としては駆け出しというか……」

「ふーん。じゃあ、無理やり魔法を使わなきゃいけない状況にすればいいんだね?」

「えっ?」


 男の杖の先端が白く光ったかと思うと、その光がまっすぐわたしの方へ飛んできた。

 わたしは勢いよく吹き飛ばされ、近くの木の幹にたたきつけられる。


「うっ……!」


 さすがに半身がぐちゃぐちゃになってしまったので、平静ではいられなくなった。

 この人は……。気を抜くと殺されてしまう。いつでもそれができる人だ。それくらい「強い」。


「さあさあ、早く使っておくれ。その【沼の魔法】とやらを!」

「わかり……ました」


 わたしは立ち上がると、魔力を操作して、体の修復をはじめた。同時に濃緑色のドレスの裾を伸ばして相手の元へと――。

 ふたつめの白い光が飛んできたので、わたしはそれをとっさにドレスの裾ではじいた。

 近くの木に当たり、パラパラとその枝葉が周囲に落ちる。


「おお……! やるね」


 感心感心、と言って手を叩いているが、その目は全く笑っていない。

 わたしはこの間にこちらから仕掛けることにした。相手は宮廷魔法使いだ。その人に攻撃するということは、国家に弓を引くのと同じになるのかもしれない。でも、これは不可抗力だ。わたしは戦いたくないのに、この人がそうさせたのだ。


 ドレスの裾から沼の水を呼び出し、相手にそれを吹き付ける。

 噴水ほどの威力しかないが、多少戦意はそげるかもしれない。

 しかし、リフューズは白い光の膜を自身のまわりに展開すると、あっというまにそれを防いでしまった。


「危なっ。濡れるとこだったじゃないか!」


 はじかれた沼の水は地面に緑色のシミを作っていた。

 藻が大量に沸いているのでそんな色をしている。あの白い服にかけたらいい色が付きそうだと思ったのに。


「ん? この水、どうも普通の水じゃなさそうだね」

「それはわたしが住んでいる沼の水です」

「ふうん? 少しだけ魔力を感じるね。それに……毒性も感じる」


 どのように感知しているのかわからないが、リフューズには沼の水の組成がわかるようだった。

 よく見ると、白い光の膜が地面の緑色のシミまで拡大し、接触している。


「神聖な王の墓標をこれで汚されちゃ困るな」

「安心してください。わたしの魔法はあとで全部吸収して原状回復もできますので。というか、そもそもこの場所でやり合うのはやめにしませんか? わたしもジェイド様、ならびに王家の方々のお墓を汚したり、傷つけたりしたくないのですが」

「僕だってそうしたくないよ。でも、これは王城でだって同じ条件なんだ。君の魔法が何かを汚したり、壊したりするものなら立ち入らせられないって、そういう話なんだよ」

「なるほど。そのための試験、だったのですね」


 わたしは納得すると、沼のカエルたちを召還してみた。

 このカエルたちはわたしの体の一部になってくれた子たちでもある。まだまだ大量に沼に生息しているので、呼び寄せてみたのだ。


「どうです! かわいいでしょう! うちの沼のカエルたちです!」

「……」


 別にこの子たちを操ったり、とかそういうことはできない。

 ただ単に生き物を呼び寄せることができる、というのと、そのかわいさを見せびらかしたかっただけだ。わたしの顔とほぼ同じ、目が大きくてキュートな子たちである。

 リフューズと、墓守のネルブスはなんともいえない表情でその子たちを見おろしていた。


 あれ? なんか失敗したかしら。


 カエルたちはいきなり沼から違う場所に移動させられたので、それぞれがあたりを不思議そうに見まわしていた。


「ここ、どこケロ?」

「知らん場所ケロ……」

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