18 拒絶の魔法使い、リフューズ
「あなたは……?」
「よっと」
その白い貫頭衣を着た男は、軽く跳ぶとわたしの隣に着地した。長い銀髪が風にばさりと広がる。
そしてどこからか飛んできた木の杖を手にすると、それをわたしに向かってすばやく振り下ろしてきた。
「うわっ……!」
ネルブスがわたしの代わりに悲鳴を上げる。
杖が、わたしの肩にめりこんでいた。攻撃された? この人は……敵?
「へえ、避けないんだ」
白い服の男はそうつぶやくと、わたしに当てていた杖をいったん離した。
そして一歩後ろに下がる。
わたしは肩の損傷個所が元通りになるのを感じながら、立ち上がった。
「自己修復……か。ははっ、面白い!」
「わあああっ! やっぱり人間じゃないんだ! ま、魔物!? ぎゃああああっ!」
わたしの様子を見て、不敵に笑う白い服の男と、横からギャーギャー叫ぶ男。
もう、なんなんだろう。
「あの……話もせずにいきなり暴力、というのはいささか失礼すぎるのではありませんか?」
うんざりして言う。
すると、白い服の男は木の杖をくるくると回転させながら言った。
「痛みもないのか。なるほどね……。僕は宮廷魔法使いであり、この墓の守護者でもある、【拒絶の魔法使い】リフューズだ。はじめまして、沼の魔女」
「宮廷魔法使い……? 墓の守護者……?」
そんな人がどうしてここに。わたしが戸惑っていると、知り合いだったらしいネルブスがようやく落ち着いて話しはじめた。
「り、リフューズ様……。この者は、おれは……魔物ではないと……思ったのですが。あ、あとは、話ができます。ですので……」
「この場所に案内したと?」
「は、はい……」
「まあ、王城での件も含めると、誰でもそういう判断にはなるよねえ……」
王城での件。
リフューズと名乗った男は、「宮廷魔法使い」と言っていた。であれば、わたしが城で起こした騒ぎも当然知っているのだろう。どうやってここまで追いかけてきたかわからないが、かなりの手練れだ。
彼は回していた木の杖の先端をわたしに向けると言った。
「でもね、ネルブス。この者は偽りを述べている可能性がある。元人間だ、元ジェイド様の婚約者だと嘘を言っている可能性が、ね」
「こ、婚約者!? この者が、王族の方と……?」
ネルブスが本当に? と言わんばかりの顔でわたしを見る。
さきほどはそこまで詳しいことを話していなかったので、さすがにびっくりさせてしまったようだ。
あと、こんなカエルの顔をしたよくわからない化け物が王太子の元婚約者だったなんて、普通は信じられない。
でも――。
それよりこのリフューズとかいう男、ものすごく失礼だ。わたしが嘘を言っている? そんなわけない。なぜそんなことを言うのか。
「ああ、君がどう思っているかは関係ないんだよ。君は厳密には『元人間で、元ジェイド様の婚約者だと信じ込んでいる、魔力で生み出された別の生命体』だ。君のその力と思考はとても危険なんだ」
「何、を……」
なにか今、聞いちゃいけないことを聞かされた気がする。
リフューズはわたしの心を見透かそうとするかのように、探るように見つめてきた。
「まあいいや。沼の魔法、だっけ? ちょっと今それ僕に見せてみてくれないかな。君が……王城やこの墓に来てもいい存在かどうか、それで見極める」
そう言うと、リフューズは持っていた杖に魔力をまとわせはじめた。
わたしは困惑しながらも、彼に真正面から向き合うことにした。
※ すでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、主人公が沼の魔女になったいきさつは、「スワンプマン」や「テセウスの船」の「なりかわり」をモデルとしています。どちらも「何をもって本人と同一の存在とするか」という思考実験です。両者はオリジナルから「なりかわり」になるまでの仕方に差異があります。ちなみに当作の主人公はどちらかというと「テセウスの船」寄りです。




