16 公営墓地へ
ジェイド様に会いたい。
七十年前の、わたしの婚約者だった「ジェイド様」に――。
蔵書室でお会いしたジェイド殿下は、たしかに「ジェイド様」そっくりの方だった。
でも、だからこそ、強く違うと思ってしまう。
「ジェイド様……あれからあなた様は、どのように生きていらっしゃったのですか? ジェイド殿下からはあまりいろいろとお聞きすることはできませんでしたが、なにか……他にわかる方法はないものでしょうか……」
ふと地上を見下ろしていると、街のはずれに公営墓地があるのをみつけた。
そこは広大な霊園で、「王族の墓もある」とかつて聞いたことがあった。わたしはここだと思った。せめて彼の方の墓参りをしたい。その墓石には、きっといつごろ亡くなったかなども刻まれているだろう。
わたしは目立たぬようにその霊園に降り立つと、ジェイド様の墓を探しはじめた。
「ええと……どのあたりにあるのでしょうか」
きょろきょろとあたりを見回す。
するとシャベルを担いだ墓守風の男が、歩いているのが見えた。わたしはその男に駆け寄る。
「あのー、すいません。王族の方の墓はどちらに――」
「うわああああっ! か、カエル!? カエルの魔物だっ……!」
墓守の男はわたしの顔を見るやいなや悲鳴を上げ、シャベルの先端をこちらに向けてきた。
「お、落ち着いてください。わたしはあなたに危害を加える気は――」
「うるさい! この、魔物め! この公営墓地にはお前のような魔の者が立ち入らないよう、聖なる加護がかけられているんだ! なのにどうやって、どこから入った!」
「ええと……空からですけど……」
墓守の男はぶるぶると恐怖で震えており、その様子は少しかわいそうなくらいだった。
わたしが正直に話すと、男は空を見て、またわたしを見て、怒りだす。
「そんなわけ、あるか! 先日の流星群だって、この墓地に降りかかりそうになってもはじかれたんだぞ! 魔の者自体が入れるわけが――」
「なら、わたしは魔の者……魔物ではないのでは?」
「ん? そうか……。たしかにな。きちんと会話もできているしな……魔物、ではないか」
そう言って、男はあっさりとシャベルを降ろした。
わたしはホッと胸をなでおろし、あらためて自己紹介をする。
「あの、わたし【沼の魔女】のエルザと申します。実は、先日の流星群によって人間から魔女に生まれ変わったのですが……」
「んっ、流星群によって? やはり魔の者ではないか!」
「え、いや、違います違います!」
発生条件は同じでも、人間を襲う気はないこと、自分は七十年間人間の白骨死体として池の底に沈んでいたこと、生前王家の方にお世話になったのでその方の墓参りをしたいこと、等々を、わたしは懇切丁寧に説明した。
だがそれはなかなかに骨が折れる作業で、ようやくわかってもらえるころには両者しゃべり疲れて肩で息をしていた。
「はあ、はあ……。というわけ……なんですよ。いい加減、わかっていただけました?」
「はあ、はあ……。そういうことだったのか。にわかには信用できないが、いいだろう。その熱意に免じて王族の墓があるところまで案内してやろう」
判断基準がよくわからなかったが、とにかく案内してもらえることになった。
わたしは、ずいぶんな猫背で歩く背の高い墓守の男のあとをついていった。




