14 ジェイド様にそっくりのお方
しばらくして、蔵書室の前に足音が集まってきた。
高貴なお方はすぐに部屋の入り口に向かう。
「どうした、何事だ」
「実は、西の農村から護送されてきた魔女が逃げ出しまして……」
「魔女?」
「なんでも、カエルの顔をした魔女だとか。殿下、こちらにそのような者がやってきませんでしたか」
「カエルの顔……」
殿下。そう呼ばれていたので、あの方が「高貴なお方」というのは合っていたとわかった。
しかし、その「殿下」はわたしの予想外の返事をされる。
「いや、そのような者は見ていないな」
は? 聞き間違いだろうか。
わたしの顔は、あの方に先ほどしっかり見られていたはずだ。どうしてそのような嘘を……。
城の兵士と思われる者たちもあまり納得がいっていない様子だった。
「しかし、知らない間に隠れられてるだけかもしれません。やはり、我々が蔵書室の中を捜索して――」
「ならん。ここは王族のみが立ち入ってよい場所だ。しかも、今日俺は長いことここにいる。その間、一度もそのような者は見ていない。そう言っているのだ。まさかこの俺の言を疑うのか?」
「い、いえそのようなことは……!」
「では、速やかに他の場所を探すのだ。よいな?」
「は、はい……」
行くぞ、と声を掛け合って、足音たちは遠ざかっていった。
しばらくして、近づいてきた方がわたしを隠していたカーテンをめくる。顔を上げると、殿下と呼ばれたお方が微笑まれていた。
「行ったぞ。もう出てきていい」
「あ、ありがとうございます……」
髪や服装が乱れていないかさりげなく確認しながら、わたしはカーテンの外に出る。
それにしても、なぜこの方はあんな嘘をつかれたのだろう。わたしは不思議に思って尋ねた。
「あ、あの……さきほどはどうしてあんな嘘を?」
「嘘?」
「はい、カエルの顔をした魔女は見ていない、と」
殿下と呼ばれた方は、よくわからないといった表情で首をかしげられた。
「なんのことを言っている? もしや君は……その魔女、なのか?」
「はい。一応、森の中の底なし沼に住み、沼の魔法も使うので【沼の魔女】ということになっております。あとカエルの顔もしていると、自認しております。他の者たちからもそう見えるようです。なのに、どうして……あなた様はあのような妄言をおっしゃったのでしょうか」
「妄言……」
殿下はゆっくりと目を見開くと、突然あっはっはと大きな口を開けて笑われた。
「妄言とは。面白いことを言う。俺はまったく嘘は言っていないぞ。嘘だと思うのなら今、自分でもその顔を見てみるといい」
「えっ」
殿下は胸元のポケットから携帯用の丸い手鏡を取り出すと、それをわたしに向かって開いてみせた。
鏡の中をのぞくと、なぜか人間だったころのわたしの姿が映っている。
亜麻色の髪に若草色の瞳の、人間の姿のわたしが。
「ど、どうして……」
なぜ急にもとに戻ったのか、わけがわからなかった。
見ると胸元の碧色のブローチが強く輝いている。これは、星の魔力を得たときにもまばゆく光っていた。さっきまでその光は消えていたはずなのに。どうして今になってまた……。
「よくわからないが、俺にはずっと美しい女性に見えていたぞ。だからああ言った。エルザと申したな。なぜこの城に護送されてきた? さきほどなつかしいと言っていたのはなぜだ? なぜこの部屋に来た」
なぜ、なぜと矢継ぎ早に問われて、わたしは戸惑ってしまった。
このお方はおそらくジェイド様のご子孫であられるが、「ジェイド様」ではない。その方にどこまでお話していいものか。
「ああ、すまない。俺ばかりいろいろと聞いてしまったな。あらためて自己紹介しよう。俺の名はジェイド。このネビュラス国の王太子だ」




