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13 ジェイド様の蔵書室

 今までにも、逃げられるか試してみようと思ったことはあった。でもそうすると、今の時代のことが知れなくなってしまうので実行せずにいた。だが今は逃げることが先。ようやく試すことができる。


 まずは魔力を使ってドレスの裾を床に広げてみた。

 取調室の床とわたしはすぐに一体化をして、どちらがわたしかわからなくなる。次に、また魔力を使って床の部分だけを吐き出してみた。すると部屋はすっかり元通りになった。


 同じ要領で、今度は壁に対してもやってみた。窓のある方の壁にドレスの一部を張り付かせ、取り込む。そして一体化している間に、壁の向こうに移動する。


「できた……。意外と簡単に抜け出せちゃいましたね……」


 わたしはそのまますーっと魔力で空を飛び、取調室のある塔を離れた。そして、以前訪れたことのある「あの部屋」まで行ってみることにした。

 ここまでの道中、街並みの変化は知ることができた。しかし、この城の中までは、まだ何がどう変わっているのか把握できていなかった。逃げる前にわたしは、そこの一か所だけでも確認しておきたかったのだ。


 北側の、陽があまり差し込まない塔。

 その一番上の階に向かう。


「たぶん、この辺りですね……」


 濃緑色のドレスの裾を伸ばして、その外壁と一体化する。

 そして向こう側に出ると、そこは天井まで本棚がずらりと設置されている部屋の前の廊下だった。


「なつかしい……」


 幸い周囲には誰もおらず、わたしは静かにその部屋の中に入る。

 入り口にドアはなく、開口部だけが開いていた。

 ここは、ジェイド様の個人的な蔵書室だ。わたしは何度か共に入室させていただいたことがあった。赤い絨毯と濃い青のカーテン。古い本の香り。わたしは胸がいっぱいになりながら、一歩ずつ書架の間を進んでいった。


 やがて、ぽっかりと広い空間が見えてきた。

 大きなテーブルだけが置かれて、その上には黄金色のシャンデリアが下がっている所。


「なにもかもなつかしい……ただジェイド様だけが、いらっしゃらない……」


 わたしが感慨にふけりながらテーブルの上を撫でていると、背後に人の気配がした。


「誰だ、君は……!」


 わたしはとっさに首元のショールを頭にかぶりなおした。

 背後の人物は声からして男性のようだった。驚いたのか、本を取り落とすような音が聞こえてくる。


「ここは王族の者しか入れない、私的な部屋だ。誰だ。いったい、何者だ!」

「すみません。すぐに出ていきます。あまりにも……なつかしかったものですから」

「なつかしい……?」

「本当に申し訳ありません。失礼、いたします」


 わたしは顔を伏せながら、今来た道を戻ろうとした。しかし、その男性に進路を阻まれてしまう。


「待て! 名を名乗れ。勝手に逃げることは――」

「っ!」


 肩をつかまれてしまい、わたしは思わずその人の顔を見てしまった。

 その人も、わたしの顔を見た。


「……」

「……」


 その人は、なんとジェイド様にそっくりのお顔をしていた。思わず息が止まる。

 ここはたしかに「王族の者しか入れない部屋」だ。ということは、この方はジェイド様のご子孫かなにかだろう。それにしてもよく似ている。


 だが、わたしの顔を見ても特に驚かれる様子がない。

 おかしい。どう見てもカエルのはずなのに。


「美しい……」

「えっ」


 何をおっしゃられているのだろう。

 目が節穴かなにかでらっしゃるのだろうか。


「何を、おっしゃられてるんですか?」

「美しい、と言ったんだ。君の名は? なんという」

「え、エルザ……と申します」

「エルザ? っ……!」


 途端にそのお方は額を痛そうに押さえはじめた。いったいどうしたことかと思っていると、にわかに人の足音が聞こえてくる。

 わたしは急いで周囲を見回した。

 どこかに隠れるところは。

 逃げようにもジェイド様の本たちに囲まれて、壁抜けができそうになかった。壁と同じく、本棚でもすり抜けはできそうだったのだが、なんとなく本を傷つけたり汚したりしそうでできなかったのだ。


「追われているのか。だったらここに隠れていたまえ」

「えっ」


 その高貴であろうお方は、わたしを背後の濃い青のカーテンの中に隠すと、静かにするよう言った。

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― 新着の感想 ―
 ジェイドとそっくりの人物は子孫なのだろうか。しかしエルザの顔を見ても驚かないとは。  その美的センスになってしまったエピソードが明かされるでしょう。  ではまた。
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