12 王城に到着
村の詰所で事情聴取を受けたが、わたしは「ここでは扱いきれない」と判断され、王城まで急きょ護送されることになった。
がたごとと二時間ほどかけて、王城に到着する。
七十年の時が経っているが、ここはまったく変わっていなかった。途中の街はかなり様変わりしていたのに、ここだけは変わっていない。まるで時が止まったように、かつてわたしがお父様と訪れた時のまま存在していた。青い屋根の、白亜の城……。
「さあ、出ろ!」
城門をくぐると護送用の馬車の檻が開けられ、わたしは憲兵に連れられて外に出た。
久しぶりに城の中に入る。
当然わたしは、以前のように表の方からではなく、裏口に近い憲兵の詰所があるあたりに向かわされる。ここは軍の詰所でもあるので、あのころはめったに近寄らない場所だった。なるほどこうなっていたのか、とついあちこち見回してしまう。
「こいつが西の農村に現れたという、【沼の魔女】か……」
「魔女というよりはカエルの魔物ではないか?」
「なんとも奇妙な……」
詰所に到着すると、並みいる上級憲兵たちが物珍しそうにわたしを取り囲んだ。
わたしを王城まで連れてきた若い憲兵が、背筋を正して答える。
「いえ、それが人語を話すのです。村の者はそれゆえ魔物ではなく魔女だ、と。こちらが、すでにある程度聞き取った調書になります。意外と整合性もあってなかなか……」
「ああ、よいよい。あとはこちらで引き継ぐ。護送、ご苦労だった」
「はい、失礼いたします」
そう言うと、若い憲兵はさっさと出て行ってしまった。
残されたわたしは奥の取調室に移動させられる。
「さて。村ではどう話していたのか……」
机を挟んで向かいに座っている上級憲兵は、渡された調書を一枚一枚めくって確認していた。
「ふむ。かつて人間だったころは……今は図書館として寄贈された屋敷に住む娘だったと。それから沼に身を投げて死んで、七十年間は骨の状態だったと。そして最近、流れ星の力でカエル顔の【沼の魔法】……を使う魔女としてよみがえったと。それはたしかか」
「はい、たしかです」
「ふむ……。本当に人間の言葉を話せるようだな。それに先日、たしかに流星群もあった。百年に一度の。あれは普通の流れ星ではないという話だったが、まさかこんなことが起こるとはな。にわかには信じられん」
「わたしも、自分でも信じられずにいます」
ヒゲ面の上級憲兵は調書を閉じると、それを乱暴に机の上に置いた。
「貴様自身が信じられぬ話を、我々にも信じろと言うか!」
「信じてもらえなくてもかまいません。ただ、わたしは人を襲おうなどとは思ってもいません。困っていた方を助けたかっただけなんです。農家のあの娘に出会わなければ……ずっとあの沼にひきこもっているつもりでした」
「まあ、人前に出れば、こうした騒ぎになるのはわかっていただろうからな。そうするのが最善だっただろう……。それが人助け、とはなあ。しかし、地元の図書館となった屋敷に住む娘でもあったとは。これはかなり大きな屋敷だったのでは? 貴様は、七十年前にはいったいどんな家の娘だったのだ」
「……」
わたしは話すべきか迷った。
家のことを話せば、いずれジェイド様とのことも知られてしまうかもしれない。
「話したくない、もしくは話せない、か……。まあいい。これからじっくりと調べてやる。ここでは嘘は通じないからな。おい、文官を呼べ。あの西の農村についてわかる文献を持って来させろ」
そばにいた別の憲兵に命じると、しばらくして眼鏡をかけた学者風の文官が連れてこられた。
「お、お待たせいたしました。ええと……西の村の記録ですね」
「ああ、さっさとしろ」
「あのあたりは、七十年前には下位の貴族――男爵の領地でした。今は断絶して王家のものとなっておりますが。ええと……ああ、ありました。トードストーン家ですね。最後の領主はフレデリック・トードストーン」
お父様の名前。
久しぶりにその名を聞いて、わたしは目の前がにじんだ。
「また、妻はオリビア、娘はエルザ……となっております」
「エルザ。調書にあるこの者の名と同じだな……」
「……」
「どうした? 合っているのだろう。どうして急に口を閉ざすようになったのだ」
「あの、この男爵家についての備考欄に興味深い注意書きが……」
文官がひそひそとヒゲ面の憲兵に耳打ちする。
「なに? 王家と並々ならぬ関係があった?」
「はい。詳細に書かれてないのを含めると、どうやら意図的に消された可能性が。ちょっと我々だけで判断するのはよろしくないかと……」
「ふむ……わかった。もう少し上の者に確認を取ってこよう」
にわかに慌ただしくなり、わたしはひとり取調室に取り残されてしまった。
外に見張りを一人だけおいて、おとなしくしていろと扉を閉められてしまう。
「うーん。どうしましょう。このままここにいたらやがて……」
バレてしまう。
わたしはどうにか逃げ出すことを考えはじめた。




