11 憲兵たちとの対峙
「ま、魔法を行使していた魔物というのはお前か! 大人しくしろ! さもなくばこの剣で退治する!」
憲兵は五人いた。
そのうちの一番偉そうな男が、わたしに向かってすらりと剣を抜く。
全員よく鍛え上げられた体をしていた。まともに立ち向かっては、周りの人々に迷惑をかけてしまうかもしれない。ここはおとなしく従った方がよさそうだと、わたしは判断した。
観念したそぶりを見せて、背けていた顔を向ける。
「うわああああっ! か、カエル!?」
ついでに被っていたショールを外してみせると、憲兵たちはみなすごい顔をして後ずさっていった。ああ。そんなに怖い顔だったかしら。
「わたしは、この森の奥の底なし沼に住む魔女――エルザと申します。そこの農家の娘さん、ベラさんが困ってらっしゃったので、彼女の畑の様子を見にきたのです。畑は、毒に侵されていたので魔法で浄化いたしました。あと、川の水も汚染されていたので毒を除去する水門を魔法で作りました。みなさまに危害を加える気はございません。ですので安心してください」
「なっ……なんと……。魔物が人間の言葉をしゃべっている? どういうことだ……」
憲兵たちは、わたしが魔法で行ったことよりも、流ちょうにしゃべっていることの方にとても驚いていた。
「ちょっとちょっと、憲兵さんたち。失礼にもほどがあるよ! エルザは元は人間。だから魔物じゃなくて魔女。そんな化け物みたいな扱いはしないでほしいね!」
「なっ、なんだお前は」
ベラが騒ぎに気付いて駆けつけてきてくれる。
憲兵に何者か尋ねられると、胸を張って答えていた。
「アタシはベラ。エルザはね、うちの畑の毒を無くしてくれたんだ。つまり恩人。農家にとって恩義はあれど、敵なんかじゃまかり間違ってもないんだよ!」
そう言って腕を組み、啖呵を切ってみせる。
そんなベラはとっても心強かったが、憲兵を連れてきた農夫は慌てたように言い返してきた。
「ベ、ベラ! 本当に毒がなくなったかなんて、また作物を育ててみなきゃわからないだろ。それに……そ、その顔だ。どう見たって人間とは思えない。心配になって当然だろう!」
「ネストルさん!? 魔女さんの見てくれだけで憲兵たちを呼ぶなんて。アタシは見損なったよ!」
この男性はどうやらベラの知り合いらしい。
まともな感性の持ち主だとわたしは思ったが、ベラのあまりの剣幕にたじたじとなっていた。
「本当に、心配だったんだ。情けない話だが、自分じゃ直接聞くのが怖いから憲兵様たちを呼んできたんだ。いろいろ俺の代わりに問いただしてもらおうと思って……。悪かったよ」
「ネストルさん……」
なんだ、本気で心配してくれてる人がいるんじゃないか。
わたしは少しホッとした。誰にも頼れないならベラは今後も危ういと思っていたけれど、これなら大丈夫かもしれない。
「なあ、ベラ。どうしてその『魔女さん』をここに連れてこれたんだ? 森の中と言ったが、どうしてそんなところに行ったんだ」
「……」
ベラは急に黙ると、自宅の方向を見やった。
「父さんと、母さんが……」
「まさか。嘘だろおい!」
ネストルがベラに駆け寄って、その両肩を強くつかむ。
「わたしも後を追おうとしたんだ。でも、森の中でエルザに出会って……。それで畑のことを見てもらって……助けてもらった」
「そうだったのか……。すまない。何にも気づいてやれなくて……」
「ネストルさんは何も悪くない。ネストルさん家だって、大変だっただろ」
「……」
二人の会話を聞いていた憲兵たちはみな警戒を解き、一番偉そうだと思われる憲兵も剣を収めた。
「底なし沼に住む魔女、エルザと言ったか。くわしい事情は署でゆっくりと聞く。とりあえず我々に同行してもらえるか」
「わかりました」
いままでのいきさつを理解してもらえるかどうかはわからない。
それでも今、「逃げる」という選択肢は考えられなかった。それは「この国をより良くしたい」という思いが、わたしの中に生まれてきたからかもしれない。彼らについていけば、今のこの国の現状がもっとよくわかるかもと。
ベラは、わたしの様子に気づいてまた駆け寄ってきた。
「エルザ、あの……」
「気になさらないで。わたしはわたしのやるべきことをするだけです」
「本当にありがとう。話が終わったら……またうちに寄ってくれ」
「はい、ではベラさん。また」
「ああ」
わたしはベラとの挨拶を済ませると、憲兵たちについていくことにした。




