第十四話② 弟子の可能性
銀弾──この武器の力は、もっと知っておくべきだ。
魔獣への進化間近だった共食い幼魔獣。正直、クシャナといえど一刀の攻撃では歯が立たず、かなり厄介な戦闘だった。
それを打開し、共食い幼魔獣の斃殺を果たしたのがこの銀弾だ。
幼魔獣の肉体に着弾するや、内側で爆ぜた独自の威力はクシャナも初めて目にするものだった。
これまでおとぎ話をもとにしたお守りアイテムに過ぎなかった銀弾。
だが──現実に目にしたあの威力があれば。
魔獣をも斃せるのでは。
〈真髄〉が必要のない魔獣の討伐。そんなことが実現可能なら。
それはつまり剣聖が必要なくなる、ということを意味する。
あの剣聖の選抜も、〈真髄〉を生み出す悲劇も、存在せずに済む──
「──可能性がある」
誰にともなく、クシャナは口にしていた。
声音に微かな希望が滲み出てしまう。
「?」
何かを思い、虚空に視線を置くクシャナの様子をナタリーは不思議そうに見つめている。
討伐すべき幼魔獣を周辺から排除できたので、二人はその土地からさらに西へと向かった。
大陸の内陸部分に位置する、人口二十万を擁する中級都市エーベン。
領境の門をくぐり、まずすることはやはり掲示板のチェックだ。
「さてとっ、手強いやついるかなっ」
「手前の森には多かったなぁ。瘴気も多かったし」
「へへーん、でもかなり余裕で斃せるようになったもんね。複数でもまとめてかかってこいって感じ」
「絶好調だねえ、お前さんは」
──途中立ち寄った町や村でも、ナタリーの討伐成果は徐々に知られている様子だった。
役場で討伐を引き受けるため名前を名乗ると「おお」と反応されることもあり、ナタリーはまんざらでもない顔になっていた。
「やっぱり共食い幼魔獣を斃せたっていうのが大きいよねっ。どう師匠? そろそろあたしにも剣聖の選抜のお声がかかるんじゃないかなー!」
「選抜は剣聖の誰かが欠けたらでしょ」
「あれ、今七人いるんだっけ。ここ最近はずっと同じ?」
「二年前の選抜以来、〈七聖〉には変化なかったと思うけどなぁ」
「でもさ、備えあれば憂いなしっていうしっ、〈七聖〉の補欠枠にでも入り込めればっ」
「スポーツチームじゃあるまいし。そういうシステムあるのかね」
「じゃあ師匠、同期の剣聖に頼んでくれない? 次の選抜にあたしも混ぜてもらえるようにさっ」
「百五十年は早い」
「そのどんどん年数が増えていくのなんなん⁉ あたしの剣聖への道が遠ざかってるんやが!」
隙あらば剣聖や選抜の話を持ち出すナタリー。その一方でクシャナの「剣聖はやめとけ」という主張を受け入れた上での弟子入りなので、それ以上食い下がることはなかった。
忙しない弟子だね──頬を膨らませたナタリーを内心笑って眺めつつ、クシャナはこの中級都市エーベンに入る手前、森で遭遇した幼魔獣の討伐を思い出す。
依頼になくともナタリーの修行がてら幼魔獣は斃すようにしていた。ここに来るまでに相手にしたのはソロ討伐が可能な程度だったので銀弾を使うまでもなかったが、気になったのはその出没頻度だ。
さほど広くない森にかなりの数の幼魔獣が現界しており、瘴気の濃度も高かった。
この気配にクシャナは覚えがある。
靄と見紛う高い濃度の瘴気、討伐を重ねても一向に晴れない空気、幼魔獣の現界が重なりピリついた空間──
魔獣が現界を果たす兆候に、通じているのだ。
「あれ? ……え⁉」
掲示板を前に考え込んでいたクシャナの横で、依頼書に目を通したナタリーが怪訝になる。
「ちょお、師匠っ、討伐依頼が全然ないよ。近くの森に幼魔獣がまだたくさんいるはずなのに、」
クシャナは静かに依頼書の一点を指さした。
「領土騎士から招集依頼なら来てるぞ」
「招集依頼? ……なにそれ?」
ナタリーが指し示された依頼書に目を凝らす。
「んえ? 『剣客・冒険者経歴問わず。討伐の参戦者求む』──、──え」
次の一文を目にすると、ナタリーは瞬きも忘れてその言葉を食い入るように見た。
「うそ……」
「お出ましだってさ」
驚きに声が浮いたナタリーに、クシャナはそれだけ言う。
二人が目にする領土騎士からの招集依頼、その文面には太字でこう記されていた。
『魔獣現界の可能性を受け、〈七聖〉が当地に出征 本討伐は剣聖と行うものとなる』
つまり。
この土地に、剣聖が現れる。




