第十三話 迷いなき銀の弾丸
「射撃隊! 撃ぇッッ!」
ボーデンが抜刀した大剣を共食い幼魔獣に振り上げてがなる。
一度は退きかけたが、まずは一番巨大な共食いを葬るべく隊を整えていた。
銃持ちの自警団員が一斉に引き金を絞る。共食い幼魔獣目がけた大量の火線が迸る。
ドドド──ッ、と重剛な音が空気を震わせる。文字通りの集中砲火。
だが、そのほとんどが分厚い鱗に弾かれて小さな火花を散らすのみ。
──まるで効いたように見えなかった。
「──クソッ⁉ なんなんだ! まさかこいつ魔獣になったのか⁉」
ボーデンは愕然とその巨体を凝視する。
「団長! こいつはまだ四つ足ですッ! デカすぎて銃弾が効かない──っ」
「っ、わかってる! 陣形を崩すな! 他の幼魔獣にも注意しろッ! ──近接班!」
『応!』
ボーデンの声に、弾丸に代わり飛び出したのは近接武器を手にした団員だった。
巨大なハンマーや斧、身の丈ほどのバスターソードを手にした巨漢が、共食い幼魔獣の後方から攻め込み、後ろ脚目がけて重量武器を振り下ろす。
一斉攻撃が巨体の脚に叩き込まれる。爆音じみた轟音が地面でくぐもる。
──が、その場でうめき声を上げたのは団員たちだった。
岩山のような分厚い鱗はいずれの刃も硬く弾き、団員らの集中攻撃にもびくともしない。
「──⁉ 重量武器も通らないだとッ⁉」
持てる火力と刃──尽くせる攻撃力の限界を前にボーデンが声を引きつらせる。
次いで近接攻撃に第二陣が向かう。すると共食い幼魔獣は上体を天高く持ち上げ嘶くように吼えた。直立を支えるようにまず尻尾が地面に叩き落とされ、付近にいた自警団らが巻き込まれる。
さらに巨体が波打ち、今度は前脚が大地へと振り落ちた。
団員が悲鳴とともに四方へと吹き飛ばされる。
「!」
こちらの攻撃は受け付けず、大山でありながら俊敏な全身攻撃を繰り出す──まるで悪夢だ。
あれがこれまで幾度も相手にしてきた幼魔獣だというのか? 共食いをしたことで、こんなとんでもない存在に変貌するなんて。
「! 二時の方向ォッ!」
背後の団員が叫び、斜め前の瘴気が割れて別の幼魔獣が飛び出してきた。
何度も討伐してきた二等ランクのサイズ。
「──くそっ……!」
共食い幼魔獣に気を取られ刃が間に合わない。防御より速く爪牙が迫ると。
目の前で剣閃が疾る。
瞬きのうちに幼魔獣の首が吹き飛んでいた。
その瞬間を見切れた者などいなかった。次には太刀を鞘に納めたクシャナが目の前に立っており、彼が幼魔獣の首を斬り飛ばしたのだと理解できる。
たっぷりと宙に滞空して舞う幼魔獣の首が、地面に落ちる寸前。
その場で身を翻したクシャナが回し蹴りを叩き込んだ。
抜刀の土台たる尋常ならざる脚力、その蹴撃で幼魔獣の首が大砲と化す。瘴気を破り、その向こうにいたまた別の幼魔獣の胴体に、強烈な一撃となって食い込んだ。
「これ以上共食いさせるな! 手を付けられそうな幼魔獣から斃せ!」
有無を言わせぬ鋭い声に、ボーデン含む自警団員が反応する。
「──っ、三時の方向だ! 頸を狙えーッ!」
もはや討伐勝負をしている場合ではない。
エサになりうる残りの幼魔獣から一瞬でも早く斃さなければ。
クシャナは立ち込める瘴気に目を凝らす。
──自警団員も機能し始めた。彼らなら共食いを除く幼魔獣には対処できるだろう。
問題は──やはり共食い幼魔獣だ。
幼魔獣による攻撃の大半を太刀でいなせるクシャナだが、こいつはかなり手強い。容易に銃火器を通さない鱗がこの討伐に暗雲をもたらしていた。
──頸の骨は鱗以上の硬度がある。どの武器なら通用するというのか。通常、捕食量が個体の強さに比例するが、共食いが並みならぬ個体の強化を招いているようだ。
天を衝く咆哮を前に、クシャナは不吉を覚えた。
共食いにより加速した凶暴性と獰猛。
それは、いかなる剣客も紙切れのように千切り、蹴散らし、粉々にした──かつて対峙した魔獣を彷彿とさせる。
あと一体でも食い尽くしたら、魔獣に進化するのでは。
だとしたら、今の時点で剣聖の〈真髄〉でなければ斃せない──?
その懐を。
「っっだああああっ、ぜんぜんっ、斬れないっっ!」
襲い来る牙や爪をかいくぐりながら、ナタリーが奔走していた。
銃剣の攻撃が一向に通用しないにも拘らず、共食い幼魔獣の腹の下という最も危険な間合いで微塵も怯まず猛攻を展開している。
慄いている暇などないと言わんばかりに。
クシャナは援護すべく疾駆した。




