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第十一話② モメてる場合かね?

「…………討伐だと?」


 それは自警団にとって領主たち相手の交渉の切り札だ。

 訝し気なボーデンに、ナタリーは堂々とした口調で続けた。


「そうっ。そもそもあんたらは領主側とモメてるけど、幼魔獣(コクーン)の集団を討伐しなきゃいけないのは事実でしょ? 領地が幼魔獣に襲われたら、元も子もないんだから。

 いっそ今から幼魔獣をどっちが多く討伐できるかでモメごとの決着つけようって話だよっ!」


 ナタリーの提言に自警団員らは顔を見合わせる。


「討伐で勝負?」「今から出るってことか?」「それで決着つけるって──」


 周囲の自警団員の注視に応えるように、ナタリーはさらにまとめ上げてきた。


「勝敗も単純になるよっ。(たお)した幼魔獣(コクーン)の数なんだから。あんたらが勝てば領主の地位を手に入れられて、あたしらが勝てば自警団は領主への脅迫は今後一切やめて討伐の仕事に勤しむの。

 どう? どっちが幼魔獣を多く斃せるか、これで勝負だっ!」


 ──そうか、とクシャナは内心納得する。


 ナタリーの言う通り、領地に接近している幼魔獣はず討伐しなければならないのだ。自警団と領主、どちらが折れるかのチキンレースになってしまっているだけで。

 まったく、モメている場合ではないというのに。

 そこでナタリーは勝負という形で今すぐに討伐する状況に持ち込んだわけだ。

 ものごとを冷静に見ているし、頭の回転も利いている。

 我が弟子ながらなかなか考えたものだ、とクシャナは感心する。


「……ほう、なるほどなあ……」


 ボーデンも話の明快さを理解したのか、にやりと口の端を吊り上げた。


「この俺が率いる自警団と、小娘──キサマのお仲間とで討伐数を競うと。

 フン、いいだろう! その勝負に乗ってやる!」


 ついに討伐へ、それが勝負になるという状況に周りの自警団員らもざわつき始めた。


「で、他の仲間はどうした?」

「他? いないよ。あたしと師匠の二人だよ」


 途端、ボーデンだけでなく周りのざわめきもしん、とする。


「………………なんだと?」

「だから、あんたら自警団と勝負するのはあたしと師匠の二人だって言ってるの」


 ナタリーはさっとクシャナを腕で示して周囲の注目を寄せる。

 いや待て、よせよせ──とクシャナが頬を引きつらせているのにも構わず、


「へへん! あんたみたいな剣聖候補とちがって、師匠は十年前に剣聖になった本物だもんね!

 あんたらが束になっても──」

「おい待て! 十年前で、剣聖で──まさかそのオッサン、『三日剣聖』のクシャナか⁉」

「うん!」


 話を遮って問い質したボーデンにナタリーが即答する。と。一拍ほど間を置いて──


『だーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!』


 どーん、と爆発のような大笑いが自警団本部を揺るがした。


「…………なっ……」


 びっくりしているナタリーに対し、クシャナは「でしょうな」と厚ぼったい瞼で悟ったような半眼だ。


「ちょ……っ、なんだよもう、いきなりうるさ──」

「がーはははぁ! よもや! 『三日剣聖』だったとはなあ! これは傑作だ!」

「はあっ? なにが傑作だっての──」


 むっと詰め寄るナタリーだが、ボーデンは腹を抱えて嗤い続けている。


「とんだ笑い種だあ! 十年前の剣聖で今は隠居したオッサンだろう⁉ 最前線を生きる我ら自警団の力を見せてくれようではないかぁああーはははははは! 勝ったなこの勝負ぅわーははは!」


 高笑いと嘲笑を混じらせながら、ボーデンは団員とともに笑い転げている。


「な……っ、なんなの……っ。笑い方がすごい腹立つ……!」


 徐々に怒りを沸騰させているナタリーのもとに、クシャナはぬっと身を寄せた。


「ナタリー、別にいいって。世間だと俺は『三日剣聖』なんだから大体こういう反応で」

「良くなーーーいっ! だってこいつら……っ、すんごい失礼でしょーが⁉」

「それはそうかも」


 人の素性をあだ名付きで大笑いする、というのはよく考えたら失礼だ。

 ナタリーのごもっともな指摘が腑に落ちてしまう。

 しかしここで怒る必要はない、とクシャナは話題をさっさと転換した。


「討伐するって場面に持ち込んだのはお前さんのお手柄だけど──勝負にしてよかったの?

 ロルフに相談もなしに、勝敗の結果まで勝手にきめてなかった?」


 ちらりと端を見ると、自警団本部に同行してくれたロルフが真っ白な顔をしている。

 困っている現状をクシャナたちに相談したのは事実だが、まさか領主の権限含めた命運まで勝手に担ってしまうとは思っていなかっただろう。


 自警団は二百人規模の戦力で、この土地で幼魔獣(コクーン)を討伐し続けてきた大ベテラン。

 間際に迫る幼魔獣の討伐を無事に果たしたとて、彼らと討伐数を競うには圧倒的にこちらが不利だ。

 勝負に負ける可能性については──


「大丈夫っ!」


 ナタリーは力強く、クシャナに頷いてみせた。


「単純な話だよっ。あたしがたくさんいる幼魔獣をどんどん討伐するでしょ。んで、自警団の連中よりもたくさん斃すでしょ。そしたら勝負に勝つんだから! つまり負けない!」

「そういう話ではあるが……そういう問題じゃない気も」


 幼魔獣は複数だし、討伐数を競う相手は三ケタ規模の団員だ。

 彼女は不利な勝負を自ら仕掛けてしまったのではないだろうか──


「大丈夫だよ、師匠!」


 歯切れの悪いクシャナに対し、ナタリーは自信たっぷりだ。


「師匠は今まで通りサポートしてくれれば、あたしがたくさん斃すし!

 ぜーんぜん大丈夫! あいつらぎゃふんと言わせたいし、師匠のすごさもわからせる! 任せてっ!」

「お前さんの『大丈夫』はやけに頼もしいんだが……」


 目を爛々とさせているナタリーを見て、クシャナはぼやく。


「もーちょい根拠くれ」


 なかなか機転が利くじゃないか、と感心したのもつかの間。

 勝手に勝負を仕掛けて、この領地の統治機関の命運を背負っちゃってるけど。


 クシャナは再び、弟子の危なっかしさに振り回されつつある。

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