第十話 討伐で生きるとは
四等分にした報酬を各自受け取ると、クシャナは今回の討伐参戦者を見回した。
討伐を果たした満足感でほくほくしているナタリーと。
表情を翳らせ、目を合わせようとはしないエンブリオとマーヴィンとを。
「──ナタリー、ちょいとどっかで時間潰しててもらえるか?」
「うん?」
ナタリーはクシャナの眼の奥に何かを感じ取ったのか、ちらっとエンブリオとマーヴィンに視線だけを向け──何も問わず頷いた。
「じゃあその辺にいるよ」
「悪いね。ほれ、お小遣いをあげるからアメでも買っておいで」
「アメでつられるかっ。あたしだって報酬持ってるんだもんねっ。なんか食べてくる!」
軽やかな口調と足取りで、ナタリーが往来へと姿を消す。
──一呼吸分間を置いて、クシャナは二人の青年に向き直った。
「こういうやり方は、いつから?」
クシャナは単刀直入に問うた。
複数人での討伐で戦闘のどさくさに紛れて共闘者を暗殺し、報酬を割り増しで獲得する「やり方」──それを把握した上での質問だった。
「……二年前、くらいすね」
ぼそりと答えたのは、それまで無言に徹していた狙撃手マーヴィンの方だった。
エンブリオはすでに顔面蒼白で、唇の震えを抑えるためか顔面に力を籠めている。まともに喋れそうにはないのを、長年の連れが見越したのだろう。
「命懸けの討伐で、よく思いつけるもんだ」
怒りとも呆れともつかない──糾弾からも程遠い淡泊な声に、マーヴィンは視線こそ合わせないもののぼそつく声で、
「討伐のたび、報酬の取り分について頻繁にトラブルになってたんで。いい加減鬱陶しくて──」
だから、厄介な共闘者に向けて引き金を引いた。
討伐自体は成功することもあれば失敗することもあった。だが、幼魔獣の攻撃に紛れた狙撃や流れ弾に見せかけて厄介者を削除すると、確実なことがある。
討伐後のトラブルは着実に軽減し、報酬が増幅するという事実だ。
クシャナが言う通り「命懸けの討伐」には死者が伴う。
その現実を悪質にも利用したやり方だ。
さすがに他人との討伐で毎回実行しているわけではあるまい。共闘の度、死者が出る二人組だなんて噂が治安機関に嗅ぎ付けられたらおしまいだ。ただの殺人なのだから。
クシャナは視線を下にしたままの二人を見て、内心息を吐いていた。
こういうやり方をする者は今に始まったことではない。
幼魔獣と戦う人類にはこういう現実がある。
過酷な状況をあえて悪用する、人が人を陥れる所業が。しかしそれを取り締まるべき治安機関の対応は不充分だ。最たる脅威である幼魔獣の討伐こそが優先される情勢で、戦死者は犠牲者として片付けられるだけ。
人の命が軽んじられている側面が「討伐で生きる者たち」にはある。
正直、ナタリーを外したのは、彼女にこういったシビアな面をまだ知らせたくなかったからだ。
ナタリーは今、純粋に過酷な討伐に挑み、戦闘能力を磨き上げて上り調子だ。ここで共闘する人への不信感を抱かせるなんて、彼女の意気を濁らせてしまう。
いずれは行き当たり、思い知るシビアな現実だとしても、今はまだ。
──判決を待つ罪人のような二人に、クシャナは告げた。
「俺の立場では、きみらが過去やって来たことを暴くことはできないよ」
二人がぴくりと反応する。
だがクシャナの声音に赦しとは程遠いものを感じたのか、視線は下のままだ。
「ただ、もうそのやり方は二度と使うな」
クシャナは頼むような気持ちもこめて、そう言った。
「俺たちは一時的にお互い命を預け合って戦うだろ。それが出来ない相手とはそもそも一緒に討伐なんてするべきじゃないし、気に入らなければ排除するなんて簡単な手段を覚えるべきじゃない。
きみら、腕は確かなんだから。そういう生き方で台無しにしてほしくない」
エンブリオもマーヴィンも身動きひとつ取らない。
ただ、目元だけは瞬きを繰り返して視線を巡らせていた。クシャナの言葉は聞いているのだと判る。届けばいいと思いながら、クシャナは硬い声で一つだけ忠告した。
「あと──もう気づいたのかもしれんが、自分の都合で誰かを簡単に削ることができるって事実は、きみらにも当てはまるんだぞ」
『…………っ』
二人が一瞬、息を硬くする気配があった。
この二人が行ってきたこと──共闘する仲間を背中から撃つという手段は、言ってしまえば誰でも実行可能なのだ。
今後誰かに邪魔だと思われ、気分や感情で排除したいと思われたら──的になるのは自分たちだ。
今回の討伐で、クシャナがマーヴィンを『見た』ことで、彼らはそれを思い知ったはずだ。
この先、二度とこんな真似はできないという抑止力になった。
──そう願いたい。
二人を告発しようにも物証はない。過去の所業についてはもはや裁こうにも裁けない。
クシャナはエンブリオとマーヴィンに視線を据えたまま、がりがりと頭を掻く。
「武者修行で北上してるんだっけか……まあなんだその、二人とも元気でやってくれな」
年配者として、もっと厳しい説教とかありがたい説法とかすべきなのだろうが──柄ではない。
クシャナは我ながらグダついた挨拶をすると、その場を歩き去った。
背後で二人がしばらく考え込むようにしている気配は感じ取る。
それでもクシャナが二人の青年の面倒を見られるのは、ここまでだ。
クシャナは弟子と、次の旅路を進める。




