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ココロ・ノート〜心の音が聴こえる世界で、少女は伝説の調律師になる~  作者: 名雲
第2章「王都への旅」

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第28話 商人の思惑

「誰の差金でここへ来た……?」


 アレクの冷たい言葉。

 その言葉と冷たい眼差しに、ヴィヴァーチェさんが顔を引きつらせた。


 アレクは剣に手を掛けて、鋭い目でヴィヴァーチェさんを睨みつけている。

 そんなに警戒しなくてもいいと思うんだけど……どうしよう、止めた方がいいかな?



「待たせたな」


 アレクを止めようか迷っていると、父が遅れて居間に入ってきた。

 良かった、父なら上手くアレクを宥めてくれるよね?

 そんな期待を込めて父を見るけど、その顔は険しくて――。



「俺も聞きたい。アリアに何の用で訪ねてきた?場合によっては覚悟しろ」


 ……ああ、父もアレクと同じだった。



「え、ええと……僕の事、何か誤解してませんかね?」


 思わず椅子から立ち上がって、敵意は無いと両手を軽く挙げている。

 アレクの剣幕に顔を青ざめさせながら、必死に誤解だと訴えている。



「話し……」


「へっ?」


 アレクの地を這うような低い声。



「アリアの話を聞いてどうする?話を聞き終えたら満足して帰るのか?」


 彼から聴こえるチェロが、警戒の音をかき鳴らす。



「あ……いや、それは……」


 アレクの迫力に押されて、ヴィヴァーチェさんがジリジリと後ろに下がる。

 顔は青ざめていて、額には汗が浮かんでいる。



「お前は商人なんだろう?商人が人助けの話を聞くだけで満足するのか?」


 一歩、アレクがヴィヴァーチェさんに近づく。

 すると、押されるようにヴィヴァーチェさんが一歩下がる……



「いや……その……」


 アレクの迫力がすごい。私だったら泣き出しちゃいそう……



「本当の目的を言え。ただし、嘘をつけば、心の音を聴けるアリアに筒抜けだ」


 アレクが悪そうな顔でニヤリと嗤う。

 ……これじゃ、どっちが悪者かわからないよ。



「さあ、吐け。嘘が通じない以上、お前は正直に目的を言うしかないんだよ」


「ひいい〜っ!」


 とうとう壁際に追い込まれて、耐えられなくなったヴィヴァーチェさんが悲鳴をあげた。



「僕はただの行商人です!何も怪しいものじゃありませんよ!」


 涙目になりながら、必死で訴えているけど……



「アリア、どうだ?」


 えっ!?どうだって言われても……



「んー……なんというか、悪意は聴こえてこないんです。ただ、奥に何かを隠しているというか……」


 聴こえた音を素直に話すと、アレクの顔がさらに怖くなった。



「どういうことだ!なにを隠している!?」


 剣を持つ手に力が入って、今にも斬りかかりそうな雰囲気。

 私の言葉を聞いて、アレクのチェロがもっと怖い音になっちゃった!?こ、これは、なんとか宥めないと!



「ちょっ!怖い怖い!ちょっとやめてくださいよ!本当に怪しいことなんて考えていませんって!金貨を賭けてもいい!」


 ほとんど泣いてる。必死に逃げようとしても、背中には壁、正面には剣の柄に手をかけているアレク。

 これはホントにかわいそう。何とかしてあげなきゃ!



「アレクさん!その人は悪い人じゃありません!落ち着いてください!!」


 アレクに駆け寄って、剣を掴む手に縋りつく。

 こんなところで剣を抜いちゃ駄目だ!



「アリア……おい、お前。アリアに免じて斬るのだけは勘弁してやる。だが、隠している事を正直に話せ」


 私が腕に縋りついたから、アレクは剣で脅すのを諦めてくれたみたい。


 でも、威圧感は変わらなくて、むしろもっと怖い。思わずアレクの腕から離れてしまった。

 とりあえず話が出来そうな雰囲気になったので、私からもヴィヴァーチェさんにお願いしてみる。



「ヴィヴァーチェさん、私からもお願いします。正直に教えて下さい。私の話を聞きに来ただけじゃなくて、他に目的があるんでしょう?」


 私がそうお願いすると、ヴィヴァーチェさんは観念するようにうなだれて、大きなため息を吐いた。



「はあぁ……わかりました、正直にお話します。まずは座って話してもいいですか?立ちっぱなしだと、ちょっと疲れまして……」


「駄目だ」


 アレクが即答した。



「立ったまま話せ。怪しい動きをしたら、斬る」


「ひえっ!斬らないんじゃなかったんですか!?」 


 ヴィヴァーチェさんが悲鳴をあげて、アレクから距離を取る。

 彼の心から萎れたようなトランペットの音が聴こえてきて、心底怖がっているのが伝わってくる。



「あの、アレクさん」


「何だ」


「この人、悪い人じゃないと思います」


 私は、ヴィヴァーチェさんの心の音をしっかりと聴きながら言った。

 彼からは、確かに何かを隠している音と、焦りの音が聴こえてくる。でも、人を騙そうとか、傷つけようとか、そういう悪意は感じられない。



「さっきも言っていたが、本当か?」


「はい」


 アレクが、渋々といった様子で剣から手を離したのを見て、ヴィヴァーチェさんが、ほっと息をついた。



「ありがとうございます、アリアさん!あなたは天使です!」


「調子のいい奴め……で、用件は何だ」


 アレクが、まだ厳しい顔つきで聞く。


 ヴィヴァーチェさんは、一度大きく深呼吸をしてから軽く咳払いをした。

 気持ちを落ち着けたようで、こちらを見てニッコリと笑う。



「実は……アリアさんを訪ねた目的は、素晴らしいビジネスのお話をしたかったんです!」





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