第22話 お城でお泊り
ピアニッシモ辺境伯様とセシリア様の、すれ違いから生まれた拗れた関係。
それを解決するお手伝いをさせてもらって、無事に誤解も解消。
すっかり仲良しの父娘に戻った二人を見て、これにて一件落着、かな?
さあ、お城を後にしようとしたら――セシリア様に引き留められてしまった。
「アリア、今日はお城に泊まっていって」
え……泊まる?
こんなお城に泊まるなんて、緊張しちゃって無理だよ……。
丁重にお断りしようとしたら、セシリア様が少し吊り目がちの綺麗な目をうるうると潤ませて、お願いしてくる。
「アリアともっとお喋りしたいの……だめ?」
……ああっ、そんな可愛く言われたら、断れるわけないじゃない!
というわけで――今日は領城にお泊まりです。
もうたくさんご馳走はいただいたので、お茶を飲んでリラックスするための部屋に移動する。
辺境伯様とアレクは、一緒にお酒を飲むようで、違う部屋へと行ってしまった。
アレクもお酒を美味しそうに飲んでるのを見たことあるけど、辺境伯様もお酒が好きそうだな。
一緒に飲める相手が居て嬉しいと、彼のヴィオラが楽しげに弾んでいる。
私とセシリア様が来たこの部屋は、サロンって言うらしい。
田舎育ちの私でも、なんだか落ち着く雰囲気。
壁には落ち着いた色彩の絵画が並んでいて、温かみのある模様のタペストリーと調和している。
この絵もアデル様が描いたものなのかな?
それとも、セシリア様の作品?
「ここに飾ってある絵も素敵ですね。色合いもとても落ち着いた雰囲気の風景画で、部屋の雰囲気にあってますね。この絵はアデル様の作品ですか?」
「あら、この絵は私が描いたものよ。その隣の風景画がお母様の作品なの。アリアに素敵と言われて、とても嬉しいわ」
セシリア様が、嬉しそうに目を細めて教えてくれる。
やっぱりセシリア様の絵も、とっても素敵だ。
辺境伯様が才能を活かしてほしいと考えるのも、納得しちゃうな。
「私、芸術については良くわかりませんけど、セシリア様の絵も、アデル様の絵も、とても優しくて好きです。古い我が家には似合わないですけど、居間に飾って眺めていたいと思うような絵ですよね」
お世辞抜きで、本当にそう思う。
家には絵を買う余裕なんてないけど……それでも、頑張ってお金を貯めて飾りたい。そう思えるような作品ばかりなんだ。
「ふふ、お世辞でも、そう言ってくれると嬉しいわ。そうだ、気に入った絵があったら、アリアにあげるわ。お母様の作品はあげられないけど、私が描いたものなら、いくらでも持って帰っていいわよ」
なんてことを言うんでしょうか!?
さすがお姫様だけあって、太っ腹だけど、流石にいただくわけにはいかない。
「とんでもない!こんな素敵で高そうな絵を、いただくなんて出来ません!また、ここにお喋りしに来て良ければ、その時にまた見せてくだされば、それで充分です」
絵の具だって、キャンバスだって高価なものだ。
おいそれと頂いていいものじゃない。
「もちろん、アリアならいつだって歓迎よ!なんなら、ずっと領都に住んでいて欲しいくらい」
「あはは、お父さんの仕事もあるので、今は領都に住むのは難しいですけどね。成人したら、領都で仕事を探して住むのもいいですね」
「あら、アリアなら、お城の仕事をいくらでも紹介するわよ?」
……コーダの街に住むのも、ちょっといいかも?
そんな風に思い始める。
セシリア様と気軽に会うことは出来なくても、たまに会えて、こうやってお喋り出来るだけでも楽しそうだ。
それからも、お喋りは続いていく。
お互いの母親の話をして慰め合ったり。
父親の愚痴を言い合ったり。
理想の恋愛について語り合ったり……。
お喋りが途切れることなく、ずっと続いていく。
あと、当然……遠慮はしたんだよ?
したんだけど。
一緒にお風呂に入ることになっちゃった。
メイドさん達が綺麗に洗ってくれて、マッサージまでしてもらって……。
ああ……ものすごく気持ち良かった。
さらに、背格好が近い私に、セシリア様がシュミーズとナイトガウンを貸してくれて、セシリア様の部屋で一緒に寝る事に。
大きなベッドに二人で横になりながら、ずっとお喋りは続いていたんだけど、途中で私の眠気が限界になって、セシリア様と二人で夢の世界へ……。
朝、目を覚ました時はびっくりしちゃった。
見慣れない部屋で、隣には綺麗なお姫様が寝てるんだもの。
……そうだ、お城にお泊まりしたんだっけ。
窓からの眩い光が室内を照らして、朝を告げる鳥の囀りも聞こえてくる。
今日も天気が良さそうだね。
ベッドの上で軽く伸びをして、さて、これからどうしたらいいものか?
そんな風に考えてるうちに、セシリア様も目が覚めたようだ。
「おはようございます、セシリア様」
「おはよう、アリア。よく眠れたかしら?」
お互い笑顔で朝の挨拶を交わす。
「おかげさまで、ぐっすり寝れました。あんなにたくさんお喋りしたから、ちょっと喉が痛いですけど」
我ながら、よくあんなに話し続けたものだと感心してしまう。
セシリア様は聞き上手だし、話題が尽きないし、ついついたくさん話してしまうのだ。
「私もちょっと喉が痛いわ。後で、ハチミツ入りの紅茶で喉を潤しましょうか」
そう言ってベッドの脇に置いてあるベルを手に取って、優雅な仕草で響かせた。
すぐに扉が開いて、お世話係の女性が挨拶をしてくれる。
「おはようございます、セシリア様、アリア様」
「おはようございます」「おはよう」と、私達も挨拶を返して、ベッドから降りる。
「それでは、朝の準備に掛からせていただきますね」
朝から小気味よいピッコロの音を響かせる女性が、柔和な笑顔でそう言うと、セシリア様と私の着替えを手伝ってくれようとする。
私の着替えまで手伝おうとしているから、慌てて私は遠慮した。
「じ、自分で着替えられますから、お手伝いしてもらわなくも大丈夫です!……あ、私の服って、何処にありますか?」
「ご遠慮なさらずとも結構ですのに……。アリア様のお洋服でしたら、そちらの棚にご用意してあります。今、お持ちしますね」
彼女の手が指す先を見てみると、見慣れた自分の服があった。
「あと、勝手かとは思いましたが、綻んでいたところを縫い合わさせていただきました」
そう言って、私に服を渡してくれる。
「服の繕いまでしてくれたんですか!?あ、ありがとうございます!旅の間に直せなくて、気になっていたんです」
ここ最近の忙しさで、服を直す時間も取れなくてずっと気になっていたんだ。
直してくれたなんて、ありがたいなぁ。
しかも綺麗に洗濯されてるし、染みになっていたところも綺麗になってる!
「うわぁ……ここにあった染みまで綺麗になっている……。ありがとうございます。とっても嬉しいです」
「どういたしまして。そんなに喜んでいただけて、こちらこそありがたいです」
そう言って、また柔和な笑顔で返してくれた。
粗い布地を縫い合わせた服だけど、私には大事な服だ。
綺麗にしてもらって、とてもありがたかった。
「昨日、アリアに服をプレゼントしようと思ったんだけど、ビアンカ達に止められてしまったのよね。アリアが村に戻っても、普段の生活の中で着る事が出来ないし、傷まないように保管するのも大変だからって言われちゃった」
セシリア様が、着替えを手伝ってもらいながら、そんな話をしだす。
ビアンカとは、昨日もお世話してもらった、美人メイドさんの内の一人。
そんな話しになっていたんだね。
確かに、いい生地の服をいただいても着る機会がないし、お手入れの仕方もわからない。
宝の持ち腐れになっちゃいそうだ。
「そんな話をされていたんですね。気持ちは嬉しいですけど、ビアンカさんの言う通り、お手入れの仕方もわからないので……。いただいたとしても、困ったでしょうね」
「やっぱりそうなのね。あ〜あ、アリアに似合いそうな服もあるから、プレゼントしたかったのよね。でも、それなら諦めるわ」
昨日から引き続き、お喋りが始まったら止まる気配が無い。
侍女の人もちょっと苦笑いしてるし、喋り過ぎ?
「あ、そうだ。エネリア、ハチミツをたっぷり入れた紅茶を用意してくれるかしら?昨日もたくさんお喋りして、私もアリアもちょっと喉が痛いのよね」
「はい、かしこまりました。セシリア様、茶葉はいつものでよろしいですか?」
「そうね、いつもの茶葉がいいわ。お願いするわね」
着替えを手伝っていた侍女の方は、エネリアさんというらしい。
セシリア様の支度も終わったから、このまま朝食が運ばれてきて、この部屋で食べるようだ。
「ダイニングに行ってもいいんだけどね。でも、ダイニングだとアレク様もいらっしゃるから、しっかりと用意しなきゃいけなくなるのよ。寝起きからお化粧するのは、勘弁してもらいたいのよね」
セシリア様が、少し面倒な態度で毒づいたけど、確かに、朝からお化粧するのは大変そうだ。
「アレクさんは、そんなの気にしなさそうですけどね?私もお化粧なんて、した事ないですし」
「確かに、アレク様なら文句も言わないでしょうけど。でもね、アリア。アレク様がどうこうではなくて、淑女としての問題なのよ」
セシリア様がため息を吐いている。
「寝起きそのままの顔を、客人に、ましてや殿方に見せるわけにはいかないの。そんな事したらエドワードに怒られちゃうわ」
肩を竦めながら、おどけて言うセシリア様だけど、本心は面倒なだけだと、彼女のコルネットが教えてくれる。
はぁー……お姫様も大変なんだね。
それからは、運ばれてきた朝食を一緒に食べて、お城の中を案内してもらった。
天気も良かったから、美しい中庭にも行って、初めて来た時に見えたガゼボでお茶もいただいて、あっという間にお昼の時間になってしまう。
「セシリア様、アリア様。ご歓談のところ申し訳ありませんが、旦那様がお呼びです。ダイニングまでご足労いただけますか?」
いつの間にか近くに来ていたエドワードさんが、ホルンとティンパニを丁寧な調子で奏でながら、恭しく頭を下げて要件を伝えてきた。
「わかったわ。アリア、もうお昼のようだから、ダイニングに行きましょう。ここからだと中庭を通り抜けた方が早いわね」
あ、もうお昼なんだね。
お喋りが楽し過ぎて、時間があっという間だった。
席を立って手を繋ぎながら、一緒にダイニングまで向かう。
私達の様子を、エドワードさんがとても優しい眼差しで見ている。
お姫様にこんなに気安く接していても、誰も嫌な顔をしない。逆にニコニコと笑顔を向けてくれる。
どんどんセシリア様との距離も近づいて、私もついつい甘えてしまう。
友達……なんて言ったら不敬だけど。
でも、こうして仲良くさせていただけることは、本当に嬉しかった。
さあ、第2章が始まりました。
辺境伯という大きな権力を持つ人物とも良い関係を築けたアリアは、これからどんどんと広い世界で活躍していきます。
”人の役に立ちたい”というシンプルな想い。それを抱いて進むアリアには、どんな物語が待ち受けているのでしょうか?
アリアが新たな仲間たちと共に”王都ハルモニア”を目指す旅。
「王都への旅」編、スタートです。




