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ココロ・ノート〜心の音が聴こえる世界で、少女は伝説の調律師になる~  作者: 名雲
第1章「調律師の目覚め」

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第10話 噂の行方

 次の日、また別の村へ。

 北のハーモニーヒルという村で、親子の確執を解決した。


 父親は息子に家業を継いでほしい。でも、息子は別の夢がある。

 二人の心の音を繋げると、父親は息子の夢を認め、息子は父親の想いを理解した。



「ありがとう……本当に、ありがとう……」


 親子が、抱き合って涙を流す姿を見て、私の胸も温かくなった。


 村を出る時、アレクが呟いた。



「お前のその力……本当に、不思議だ」


「そうですね。私も、まだよくわかってないんですけど」


「だが、確かに人を救ってる」


 アレクが、私を見た。



「お前は……すごいな。武力だけで人々が救える訳ではないと、頭では理解しているつもりだった。」


 少し遠くを見るような、何かを思い出しているような、そんな表情で彼は続けた。



「村人たちの心の音を聴いて寄り添う事で、何人も救ってきた。お前はもっと誇っていいと思うぞ」


 ぶっきらぼうだけど、心からの賞賛。

 私は、少し照れくさくなった。




 それから数週間。

 私たちは近隣の村々を巡り続けた。


 夫婦の不仲、兄弟の諍い、友人同士の誤解——。

 様々な問題を、心の音を繋げることで解決していった。


 そして、旅を重ねるうちに、アレクとの距離も縮まっていったと思う。


 ある日の道中、馬に乗りながらアレクが言った。



「なあ、アリア」


「何ですか?」


「お前、馬に乗るの下手だったよな」


 アレクが、ニヤリと笑った。

 いたずらっ子のような表情で、からかっているだけだとわかっていても、つい反応してしまう。



「え!? そんなことないですよ。ちゃんと乗れてたじゃないですか」


「いいや、下手くそだったね。最初の頃なんて体がガチガチで、顔も凄いことになってたぞ」


「凄いことって何ですか!? 馬に乗るなんてしたことなかったんですから、仕方ないでしょう!」


 私は頬を膨らませて、精一杯の不満を込めて睨みつける。

 アレクが声を出して笑った。


 ……彼が声を出して笑うのを見るのは、初めてかもしれない。

 笑うと本当に——優しい顔になる。


 ちょっと、ズルい。



「まあ、今は少しマシになったけどな」


「……ありがとうございます」


 褒められているのか、けなされているのか。

 微妙な気持ちになりながらも、彼の笑顔につられて私も笑ってしまった。


 アレクのチェロが、明るく穏やかな音色を奏でている。

 私の心の音も、穏やかなハープの音。

 2つの音が、心地よく調和していた。


 

 また別の村で依頼を解決した後のこと。

 村人たちが、宴を開いてくれた。



「アリアさんに、乾杯!」


「乾杯!」


 村長さんの音頭で宴が始まり、村人たちの歓声が響く。



「こんな宴を開いていただいて、ありがとうございます」


 こんなに大勢の人にお礼を言われることに慣れていない私は、緊張しながら挨拶をした。

 特にアクシデントもなく、無事に挨拶を終わらせられて、ほっとする。



「おい、アリア」


 アレクが、機嫌良さそうに私の隣にやってきた。



「お前、酒は飲めるのか?」


「いえ、まだ……」


「だろうな。酒が飲めないと思って持ってきた。これ飲め」


 アレクが果物のジュースを手渡してくれる。

 水に果物を絞った飲み物。

 この地方ではよく飲まれるもので、さっぱりとして飲みやすいから好きだった。



「ありがとう」


 アレクからジュースを受け取って、喉を潤す。

 ……こういうところ、さりげなく気を遣ってくれるんだよね。

 ぶっきらぼうに見えて、実は優しい人なんだ。

 そんなことを考えていると、村の子供たちが寄ってきた。



「ねえ、お姉ちゃん!」


「お歌、歌って!」


「歌?」


「うん! お姉ちゃんの歌、聞きたい!」


 子供たちが、キラキラした目で見てくる。

 こんな大勢の人がいる中で歌うのは恥ずかしい。

 でも、子供たちの期待に満ちた表情を見ていると……応えてあげたくなっちゃう。



「……わかった」


 私は少し考えてから——母が歌ってくれた子守唄を歌い始めた。


 優しく、ゆったりとした旋律。

 家族を想い、喜びを伝える温かい言葉。


 歌いながら、母のことを思い出す。

 私が眠れない夜、いつもこの歌を歌ってくれた。

 母の声は、温かくて、優しくて。

 聴いているだけで、安心できた。


 子供たちが、静かに聴いている。

 村人たちも、手を止めて聴いていた。


 やがて歌い終わると、大きな拍手が起きた。



「素晴らしい!」


「美しい歌だ!」


 みんなの心の音が、温かく響いている。

 喜びと、感動の音。私の歌が、みんなの心に届いたんだ。

 ……嬉しい。



「……お前、歌上手いな」


 ふと横を見ると、アレクが少し驚いた表情で私を見ていた。



「お母さんから、教わったんです」


「そうか」


 アレクが、優しく微笑んでくれる。

 彼のチェロが、穏やかな音色を奏でていた。

 その夜は、子供たちとたくさんの歌を歌って、楽しい時間を過ごさせてもらった。







 ——そして、私たちが様々な村を巡っているという噂は、さらに広がっていった。


 

 メロディア村から数日の距離にある大きな城。

 この地方の領主である、ピアニッシモ辺境伯の居城。


 質実剛健とした城内は、国境を守護する砦にふさわしい威容を持ち、見上げるほどの城壁は、幾度も敵の侵攻を跳ね返してきた。


 そんな辺境伯城の奥——執務室では、辺境伯が家臣の報告を聞いていた。


 辺境伯の執務室は、城の外観と同じく、無駄を省きながらも洗練された雰囲気を持つ室内。

 石造りの床には鮮やかな青の絨毯が敷かれ、石壁にはめ込まれた窓から中天に差し掛かった太陽の光が差し込んでくる。

 壁に飾られた絵画や骨董品などが整然と並び、書棚にはぎっしりと本が詰まっている。



「ほう……アリア・カンタービレ」


 ピアニッシモ辺境伯は、四十代半ば。知的な顔立ちで、穏やかな雰囲気の男性。



「はい。近隣の村々で、人々の心の問題を解決しているとのことです」


 家臣が、報告書を差し出した。



「心の音を聴き、不協和音を協和音へと変えると申しているそうです——まるで、伝説の調律師のような力だと」


 辺境伯は、報告書に目を通しながら、興味深そうに呟いた。



「面白い……」


「旦那様?」


「その娘を、城に招く」


 ピアニッシモ辺境伯が、そう家臣に告げた。



「本物であれば良し。詐欺を働くニセモノであったとしても、余興として愉しめばよかろう」


「この辺境伯家で、詐欺まがいの事を働かれては困りますな。ぜひ、本物であることを期待しております」


「そうだな。私の悩みも解決してくれる事を願うよ」


 家臣が、深々と頭を下げた。



「すぐに使者を派遣して、御前にお連れ致します」


 辺境伯は頷き、窓の外を見た。

 遠くに見える響骨山脈にはまだ白く雪が残り、日を浴びて輝いて見える。

 その雄大な山の麓に広がる、小さな村々。



「アリア・カンタービレ……会ってみたいものだ」


 辺境伯の心から、穏やかなヴィオラの音が響いていた——。




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