ファンタジーの醍醐味
「皆さん。魔法の実技演習・一回目へようこそ。周知の事実だと思いますが、改めて基礎基本から入っていきましょう」
校庭にA~Fクラスの生徒が集まっていた。午後の授業は合同でやるみたい。
「魔法とは、古代の神秘を紐解こうとした人類が脈々と導きし叡智の結晶」
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「魔力という汎用的なエネルギーで奇跡の再現を目指した奥義」
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「それすなわち、世界とのつながりを密接に――」
あー、なるほど。大体理解した。
分からんことが。
偏見かもしれないけど、乙女ゲーってそこまで設定にこだわるの?
イケメンのバリエーションだけ、被らないようエクセル管理じゃないん?
「――以上です。この辺りは聞き飽きた内容でしょう。習うより、慣れろ。失礼、講師の私が言っていいセリフじゃありませんか」
シュバルツ先生の冗談に、ハハハと歓声が広がった。
毎年最初の授業でやってそう。テッパンである。
理屈を知らなくても、使えればいい方針で。現実でもITとかそうでしょ。
魔法の使い方、ずっと気になっていた。ゲームでは実に簡単。スキルを選択すれば発動する。あくまでモニター越しだ。じゃあ、こちら側の人間目線では?
はたして、どんな整合性を取られたのか。
「今は、このブランクカードが主流。あらかじめ魔法を保存し、任意で発動できる記録媒体」
先生は、名刺を一回り大きくした真っ白いカードを取り出した。
「レコード」
呟くと同時、指先から赤いインクのような跡が白紙へ滲んでいく。
縁が赤く染まったカードに火球が飛ぶようなイラスト付き。
「リリース」
10メートルぐらい先に並んだ人形へ向け、カードを突き出した。
手元で炎のようなエフェクトが弾けると、サッカーボールくらいの火の玉が発射された。真っ直ぐ飛んだそれが人形に直撃。ボォッと一瞬燃え上がった。
「おおっ」
「すげー」
Fクラス側から熱いリアクション。
「これくらい常識では?」
「田舎者は騒々しいですね」
Aクラス側から冷めたリアクション。
家庭教師で予習ばっちりなエリートたちには退屈で、いわばアフターヌーンティー前。
うん? 少なくとも朝飯後? ややこしっ。
「ブランクカードは基本使い切りです。中には何度も魔法をストックできる物もありますが、そちらは貴重品なのでまた次の機会に」
使ったカードはまるで燃え尽きたかのように、破けた紙片が風に乗って空の彼方へ。
ブランクカード……カード……デッキ……デッキ構築型ローグライク……整合性っ!
あたしがマジオブ(ゲームの略称)をプレイ中、ブランクカードなる用語は出てこなかった。間違いない、ダンジョンパートはしっかり画面の情報を注視していたからね。イケメンの顔と名前を覚えるより、ダメージ計算のミスでボスに負ける方が重大事案ゆえ。
「私が学生の頃は、杖を振って声帯認証で魔法をコントロールしていたんですよ。いやはや、技術革新とは川の流れより速いものですね」
しみじみと物思いに耽った、シュバルツ講師。
「えー、嘘だぁ~」
「いちいち、ファイアボールッ! って叫びながらファイアボール撃つのダサくない?」
「先生、絶対話盛ってるし」
Cクラス側から今時なリアクション。
これが現代っ子か(異世界)!
あたしも魔法使いと言えば、杖やステッキを持ってるイメージ。
え、ジェネレーションギャップ? フレッシュ新入生に交じったドライ新社会人?
あたしの価値観、もう片足突っ込んでんの!? おばさんの――領域にッ!
ガタガタガタガタッ! 精神世界の支柱がいっぺんに崩れた。耐震強度なんて飾りだ。
フラフラと脳が揺れる感覚。頭痛が痛い。世界は反転していく。
否、それでも! 倒れるなど許されない。
――地に伏すとは己の品格を汚す事。礼を欠いた行為。
――万が一、横転の予兆があれば、まず一礼して「これから倒れます」が最低限のマナー。無言で倒れるのは相手の意志を無視した反抗的態度とみなされる。
鬼マナー講師が研修で放った謎マナーが脳裏に反響した。
呪いの言葉が膝と腰まで絡みつき、あたしの姿勢は揺るがない。
「アンジェリカ様をご覧になって。どれだけ退屈な講義でも、身じろぎひとつなさらないわ」
「流石、公爵家ご令嬢。体幹までその辺の貴族とデキが違うのよ」
近くでヒソヒソ話が聞こえた気がする。ごめん、今ちょっと忙しいっす。
「それではブランクカードを配布します。それぞれ受け取り、十分距離を取ってから使用してみてください。分からないことは質問するように。解散ッ!」
Aクラスから順に、ぞろぞろと隊列が動き出した。
魔法が使えるのは楽しみ。だってファンタジーの醍醐味じゃん。
あたしは風魔法が使える。レベル低いし才能ないけど、まともな分だけマシ。
なんせ、厄介なブツを抱えている。
マナー魔法。地水火風が基本のテンプレ設定なのに、異彩を放つイロモノ枠。
「マナーって何属性だよ……」
魔法とは、古代の神秘を紐解こうとした人類が脈々と導きし叡智の結晶。
魔力という汎用的なエネルギーで奇跡の再現を目指した奥義。
それすなわち、世界とのつながりを密接に――
畢竟、総じて‘不思議属性’だ。
杖を一振り、とってもワンダー。
そういえば、あたしが高校生の頃見てたアニメ。
魔法少女。大体武器で戦ってたなあ。
呪文? 詠唱? 礼儀知らずも殴った方が手っ取り早い!




