アンジェリカ・ジェントレスの優越
「入学おめでとうございます。ジーニアス魔法学園へようこそ」
担任講師・フランツ先生が喋り出した。
入学式がつつがなく終わり、新入生たちは各クラスへ配属された。教室は大学の講義室みたいな構造。一番下の教壇を囲むように、一段ずつ席が上がっていく。
クラスは成績順にA~Fまであり、もちろんあたしはFクラス。
アンジェリカは勉強も運動もすこぶる嫌い! 努力を怠るためなら努力を惜しまない! 圧倒的な権力を振りかざせば、不思議と人生チョロすぎですわぁ~――残り僅かだけど。
ジェントレス公爵家令嬢が最下位のクラスでは見栄えが悪いらしく、ツーランク昇格でCクラス入り。国立学校も寄付金には逆らえないのか。職員室の備品が綺麗になって良かったね。
もちろんルミナはAクラス。
努力で上位、平民出身、類稀なる才能。
うーん、悪役令嬢ポイント高しっ。こりゃ目を付けられますわ。
イジメられる原因あれど、イジメていい理由にあらず。現代と異世界、そこは一緒だ。
ところで、悪役令嬢ポイントって何だろう? 自問自答は続く。
「本校では皆さんに、ダンジョンを踏破する者。通称・シーカーを目指してもらいます。そのために魔法の修練、スキルの拡張、ダンジョンに挑む心構えなど。様々な分野を学んでもらいます」
この辺り、ゲームの基本的な流れを解説していた気がする。
授業→校内活動→イベント発生→ステータスを伸ばしたり攻略対象と交流→課題→ミッション達成→アイテム獲得→スキルやデッキ編成→ダンジョンでボス撃破→次の章へ。
改めて説明されると、新鮮だ。あたし、テキストパートはほとんど飛ばしちゃったもん。
「カリキュラムは二年セメスター制です。卒業に必要な単位は多く大変でしょうが、講師陣は皆さんを全力でサポートします。これから学友たちと切磋琢磨し、輝かしい未来を育む青春を謳歌してください」
クラスメイトたちがパチパチパチと拍手を送った。
貴族の子息子女ゆえ生意気の権化かと思えば、意外とちゃんとした態度である。目つきも性格も悪い公爵令嬢の前じゃまだデカい顔できないか。地元で有名なヤンキーと同じクラスって、気が引けるよね。しかも席が隣(経験者)。
別に、全ての貴族が嫌な奴じゃない。名門私立へ行った中学の友達、性格も良かったし。まあ、アンジェリカと比べたら可愛いものだ。
わたくしが睨みを利かせて、我がCクラスの風紀を守りますわ。
「次。アンジェリカさん」
「……っ!」
何だ? え、自己紹介?
内心ビクッとしちゃう。淑女たるもの顔に出していいのは微笑まででしてよ。
あたしは優雅に教壇へ降りていき、恭しく一礼。
「アンジェリカ・ジェントレスですわ。皆様方と級友になれたこと、誇らしく思います。この縁を大事に、実りある一年間を築いていきましょう。何か困りごとがあれば、ぜひご相談を。公爵家の口利きは、早朝のニワトリより人に響きますのよ?」
公爵家ジョークが通じたらしい。
教室に笑い声が漏れた。緊張した雰囲気が僅かに弛緩していく。
「あれが公爵家のご令嬢……ふつくしいっ」
「怖い人かと思ったけど、意外とノリがいい人かも?」
「お近づきぃ~。絶対お近づきぃ~」
アンジェリカの堂々とした態度は見習いたい。あたし、皆の前で発表系すこぶる苦手。
「ですが一つ、忠告を」
それにしても口が勝手によく回る。忠告って何かな?
「ただの貴族には興味ありませんの。この中に無礼、無作法、マナー違反がおりましたら、わたくしの元へお出でなさい。徹底的に再教育して差し上げますわ! 以上」
図らずも、昔読んだラノベのセリフにそっくりだった。憂うつとは無縁そう。
「「「っ!?」」」
悪役令嬢ここにあり。そんなプレッシャーが教室を巡っていく。
アンジェリカはもう少し、物腰を柔らかくしようね。友達できないぞ?
貴族はプライドが命! 舐められたら、終わりでしてよ!
まるで、発想がヤンキーだと思いました。
不良……? 確かに、間違ってはいないなあ。