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そして、幕が開ける

 入学式まで時間があるので、一緒に学園内を散策していたところ。


「おや、アンジェリカ。珍しい子を連れているね」


 庭園と講堂を横切る通路にて、イケメンが話しかけてきた。

 爽やかな表情で気さくな雰囲気を携えた、美男子。はて、誰だこの金髪碧眼。


「まあ成り行きと言いますか」


 やっべ、名前が出てこない。極めてハンサム、絶対メインキャラでしょ。

 制服にマントを羽織っていたが、この格好どこかで……


「初めまして。ルミナ・イノセンスと申します! レオン王子」


 ぺこぺこと頭を下げていた、ルミナ。

 レオン王子! 攻略対象じゃんっ。

 親の顔より見てないイケメンのはずである。


 だって、あたしはローグライク目的でゲームやってたし。恋愛パートがにわかで、攻略対象の容姿と名前が一致しないのは仕方がないよね。その代わり、0コスト圧縮ループコンボとか、強いデッキパターンなら10種類覚えてるんだけどさ。


「ルミナ……? 話は聞いているよ。平民出身ながらトップクラスの成績で合格したそうじゃないか。学園に光魔法の使い手が入学するのは数年ぶりだ。ぜひ、君の類稀なる才能を伸ばして我が国の発展に助力してほしい」

「はいっ。が、頑張ります!」


 朗らかなイケメンスマイルを放った、レオン。

 遠巻きに眺める女子生徒たちがキャーキャー黄色い歓声を送っていた。


「あまりわたくしのお友達にプレッシャーをかけないでほしいですわ。魔法を学ぶ生活以前に、貴族の見栄の張り合いすら慣れておりませんの」

「……っ!?」


 ルミナが目を丸くしていた。豆鉄砲のくだり、もう終わったよ?


「これは驚いたね。気位の高いアンジェリカにもう友ができたなんて。私は君を誤解していたらしい」

「他人を理解するのは国を動かすより困難でしてよ。レオン王子」

「フ、アンジェリカは少し雰囲気が変わったようだ。これからは認識を改めよう」


 レオンは今度こそ本当に驚いた様子だった。

 そういえば、この人アンジェリカの婚約者だっけ?

 へー、ふーん……おっとぉ~!?

 あたし、結婚? あなた、夫?


 いやいや待て待て落ち着け冷静になれ慎重かつ大胆に泰然自若な俯瞰せよ!

 先方、乙女ゲーの攻略対象。主人公、ルミナ。あたし、ヒロインにあらず。

 悪役令嬢はどのルートでも同じような結末を辿る。追放か断罪。


 せめて破滅フラグを回避しよう。それが当面の活動方針じゃん。

 大丈夫、あたしは自由恋愛に理解を示す女よ。身分の差、乗り越えろー。


「ではまた。学園では一生徒として共に精進しよう」


 レオンが優雅にマントを翻すや、颯爽と校舎へ向かうのだった。

 あたしは呆然と立ち尽くす――わたくしが王子を見送っていると。


「アンジェリカ様っ。先ほど、わたしをおおお友達って!」

「えぇ、ごめんなさい勝手に。自分でも馴れ馴れしいと思ったのだけれど」

「そんなことありません! 嬉しかったです。正直生徒のほとんどが貴族で、誰とも仲良くなれないかもって不安でした」


 金持ち御用達の私立校に、一般家庭の子が入れても環境格差キツいよね。

 白名井真奈は生粋の公立っ子でした。修学旅行でハワイとか行きたかった!


「努力を重ねる限り、いずれ理解者が現れますの。前向きな気持ちを大事になさい」

「それならもう叶ったと思います……」


 ルミナは恥ずかしそうに頷くばかり。

 なるほど、流石この世界の主役。すでにその魅力が誰かに伝わっていた。

 あたしもいい奴認定され、最後の登場シーンでお許しを受けなければ。


 ヒロインの好感度を稼がなきゃいけないのが悪役令嬢の辛いところ。乙女ゲーなのに、自分だけ美少女ゲーをやらされる気分。選択肢のヒントある?


「ところで、ルミナ。レオン王子の印象を教えてくださる?」

「え、レオン王子ですか? 素敵なお方だと思いますけど」

「ありがとう。参考になったわ」


 ルミナが気になる相手との仲をできるだけ取り持とう。あたし、善の悪役令嬢よ。

 動機が綺麗じゃないのはさておき、とりあえずキープね。まだ共通ルートだ。

 カーンカーンと鐘が鳴った。


「入学式の時間ね。講堂へ向かいましょうか」

「はい。お供します」


 妙に懐かれたなあ。公爵家令嬢・アンジェリカ、お安くなくってよ?

 畢竟、光のヒロインを中心に様々な運命の歯車が回り始めていく――


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