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乙女ゲームの世界ですわ!

 乙女ゲーム<マジカル・オブリュージュ>。

 なんちゃって中世ヨーロッパが舞台の剣と魔法が栄えた学園アドベンチャー。様々なイケメンたちと出会い、ぶつかりながらもやがて恋に落ちる王道乙女ゲーム。


 さりとて、それはただの一面。いわば、パッケージの表部分。

 裏部分といえば、ローグライク要素が盛りだくさん。

オリジナリティを誤解したのか、製作者の自己満足か、流行っていたからなのか。真相なんて分からない。


 ストーリーの途中、何度もデッキ構築型ローグライクに挑戦しなければならなかった。もちろん、クリアできなければ次章が読めないのだ。

 救済処置? イージーモードで攻略したら、攻略対象のCG解放されないよ!


 ――好きなライターと推しの絵師だから買ったのに、余計な手間増やすな。☆3。

 ――カードゲームのクオリティ高し。イケメンと恋愛を強いられてストレス。☆3。

 アマゾンレビュー、乙女ゲー好きとローグライク好きが低評価の引っ張り合いだった。


 あたしはローグライク要素に興味があった方。確かに、乙女ゲーのオマケとは思えない歯応えだったかな。デッキ構築のテーマが豊富で、コンボを考えるの楽しいじゃん。

 ストーリー展開、恋愛パートは正直あまり覚えていない。ほぼ倍速&スキップを駆使して、あたしはダンジョンに潜り続けていた。持ち帰った秘宝はオンリーワンでナンバーワン。


「乙女ゲー、舐めんなッ」


 三度の飯より乙女ゲーマニア、友人の凛子には怒られた。

 先方は、このシーンにときめいた、攻略対象のあの表情に胸キュンした、などと夢女子談義に花を咲かせたかったらしい。

 あたしも同じゲームをやったはずなのに……ごめん。


 このアイテムにときめいた、あのコンボに脳汁ブシャー、なんて言っちゃったね。

 あたしは、凛子が布教せんがために熱弁を振るったマジカル・オブリュージュの概要について必死に記憶を巡っていく。


 頑張れ、あたし! 悪役令嬢の名前は憶えてたんだ。もはや天啓と化した友人のアドバイスを我が身に下ろしたまえ~。

 ここは、ダンジョンで繁栄した魔法都市が舞台。魔力を操り、ダンジョンから金銀財宝を持ち帰って富を得た者たちが貴族の起源。


 魔法が使える貴族と、使えない平民の間に明確な格差が生じたのは語るに及ばず。

 マジカル・オブリュージュの主人公、ルミナ・イノセンス。

 彼女は平民の出ながら、極めて珍しい光魔法に目覚めた少女。明るくて努力家で、貴族子女の嫌がらせにも負けず、やがて己の運命と向き合っていく……みたい。


 攻略対象その一、レオン・グラントリオ。

 グラントリオ王国の第三王子。アンジェリカの婚約者。王子の中で最も人気者だが、等しく他人に興味を抱いていない。


 攻略対象その二、アシュフォード・ジェントレス。

アンジェリカの義弟。魔法の才能を認められ、分家から引き取られた。承認欲求が強いが、反面他者を認められない。


 攻略対象その三、ガルバイン・フォルテ。

アンジェリカの片思い相手。幼少の頃に友好関係だったが、家が没落して疎遠に。努力嫌いで、チャラ男となっていた。


 攻略対象その四、タリウス・ブル。

 えぇと……流石に四人目だとプロフィール忘れちゃった。多分、イケメン!


 そして、このゲームで一番の悪役令嬢。アンジェリカ・ジェントレス。

 格式と伝統を重んじる由緒正しき魔法学園に平民の分際で入学したルミナが気に食わず、次々と嫌がらせや理不尽を押し付ける階級社会の権化。

 畢竟、どのルートでも嫌な奴で、最終的に国外追放か断罪の運命。


 残念ながら、攻略対象たちはそっくりそのまま存在確認済み。ヒロインはまだ会ってないけど、ここが乙女ゲーの世界。もしくは極めて酷似した異世界だと結論付けた。

 あたしはベッドに寝そべりながら、どうしたものかと呟いた。

 急募、破滅フラグから逃げる方法。


 悪役令嬢になった以上、主人公を原作以上にイジメ抜いてやるぜッ!

 もちろん、そんなモチベーションはない。二年後に破滅が確定しちゃう。公爵家令嬢の肩書がなければ、アンジェリカはシンプルに性悪女。魔法が使えるけど、まるで大したことなかったし。一番才能が伸びる子供時代、修練をサボった結果かな。


 魔法学園は魔力の扱いをレクチャーしてくれるけど、能力の向上はあまり見込めない。

 じゃあ、主人公に近づかなきゃいいじゃん。誰もイジメません。わがまま言いません。

 アンジェリカ、いい子になる!

 でも、ルミナの邪魔をしなきゃいけない状況に陥るかもしれない。ストーリー展開の都合? 神の見えざる手的なやつで?


「ストーリー改変は凛子が怒るだろうけど、あたしは生き残るんだ! 転生しちゃった以上、楽しめるとこは全力で。公爵家の権力で自堕落ローグライフを満喫する!」


 スローライフ、時々刺激を求めてダンジョン探索。最高じゃない。え、最高じゃない?

 流石に、ゲームの仕様通りは望み薄。ダンジョン内でカードバトルは難しいかな。

 日本へ帰還する方法は不明。なんとなく、ヒロインが攻略対象と結ばれてめでたしめでたしが区切りかも。エンドロールの中、生き延びた悪役令嬢は用済みで舞台からフェイドアウト。


 それでダメなら諦めよう! 大丈夫、今のわたくし実家が極太でしてよ!

 一生働かなくても好きな生活ができると考えれば、やる気がぐんぐん出てきた。定額制働かせ放題なブラック会社でこき使われない……こんなに嬉しいことはないよね。


「ステータス、オープン」


 もう一つ、気になる点。

 ステータス画面が開ける理由じゃない。多分、ダンジョン攻略で必要だから?

 この世界の能力は、スキル制。


スキル『火魔法』を持っていれば、魔法<ファイアボール>が使えるし、『片手剣』の熟練度が高ければ必殺技<アーツ>が発動できる。


 ゲームだと――多種多様のスキル特性を見極め、レベルを上げるほどデッキに組み込めるカードが増えていく仕様だった。学校で特訓したり、イベントで習得したり、怪しげな商人からカードを入手する……

 ネームドキャラはそれぞれ、専用スキルが使用できた。


 たとえば、主人公は光魔法。攻守回復とあらゆる面で活躍できる万能系。

 ゲームプレイ時。あたしがソロでラスボスを倒せたのも、光魔法の圧倒的汎用性のたまもの。攻略対象は置いてきた、この先の戦いに付いて来れないから。


 はたして、悪役令嬢の専用スキルは何だろう? 公爵家の血統ゆえ、それはそれはレアに違いない。データ上存在するけど、プレイヤーが使えない能力って触りたくなるよね。

 あたしは高揚感と共に、アンジェリカの秘密のベールを御開帳――


「え?」


 目を疑った。ついでに正気も。

 ・『風魔法』。

 うん、それはいい。レベル1だって許容しよう。権力に胡坐をかいたお嬢様ですし。

 座り方がはしないですわ! などとおっしゃる場合ではなくて。


 ・『マナー魔法』。


「マナー魔法?」


 ――マナー違反に対して、ルールを敷くことができる。

 レベル1習得スキル、<マナー・クリエイション>。


「なんじゃそれ?」


 あたしは、おもいっきり首を傾げるばかり。

 記憶は曖昧だけど、お世辞にもアンジェリカと礼儀が結び付かない。

 であるならば……あたし由来の魔法ってこと?

 白名井真奈。マナーの強要を嘆いた結果、異世界転生しちゃったもん。


「これって、転生ボーナスってやつ? 生前の未練が強く反映されたとか?」


 あくまで仮説をミルフィーユした推論である。

 どうせなら、ゲームで集めたカード全部持ち込みにしてよ! 悪役令嬢のダンジョン攻略RTA無双ですの!

 それこそチートな夢想だなと思いました。


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