幕間
ダンジョンの帰路。
ボスを倒したら、入口まで転移する魔法陣が開通されないん?
などと心中、ダンジョン管理委員会へクレームをお出ししたところ。
「お役に立てなくて申し訳ございません」
「構いませんわ。現状、ドラゴンなんてあなたでも負担が過ぎましてよ」
「ですがっ。アンジェリカ様は乗り越えてみせました。格上に臆せず、怯まず……なのに、わたしは後ろで何もできなかったんです」
「マナーが分かる相手ゆえ、助かっただけのこと。礼儀作法で通じ合いましたの」
あたしが振り返ると、ルミナはしょんぼりと俯き加減。
「わたくしが臆さなかったのは背後にお友達がいたからですわ。公爵家令嬢のへっぴり腰を晒すなんて、マナー違反も甚だしいですもの」
乙女ゲーの主人公の手を取った。柔らかく、温もりに満ちていた。
「情けないアンジェリカ・ジェントレスに希望の光を照らしたのは、あなた。一緒に戦ってくれてありがとう」
「……!? あ、アンジェリカさまぁ~~っっ!」
うえ~んと泣いちゃった、ルミナ。
鼻水垂らすんじゃないって、乙女でしょ。チーンしなさい。
あたしがハンカチーフでゴシゴシ顔を拭いてやれば。
「わ、わたしっ。鍛えますから! 光魔法を、マスターして……どんなモンスターも一撃で倒せるくらい、強くなりますからっ」
「勇ましいじゃない。火力特化はおススメしないわ」
スキルビルドは相談してよ。あたし、光魔法詳しいんで!
「絶対に! 絶対に従者になれるよう頑張りますぅ~」
「従者やめて。ミヤゲ失職しちゃう」
こいつはあたしが守ってやらねばと思ってしまう、健気で頑張り屋の女の子。
一等星のヒロイン、ほんと眩しいもんだ。
攻略対象のイケメン連中、なぁ~んでルミナを放っておくかな?
今すぐ知らん奴にかっさらわれても知らんぞ。
けれど、彼女には良きパートナーを作ってほしい。公爵家の権力で応援するぜ。
なんせ、悪役令嬢は理解者ポジで追放&断罪なる破滅フラグを回避するのだから。
「これからもずっと、アンジェリカ様をお慕いしています。運命の出会い……素敵ですっ」
やっぱ、デッキ構築型ローグライクやりたかったなあ。胸キュンより脳汁ブシャー。
あたしが、異世界転生の一抹の虚しさを感じる反面――
ルミナは鼻水を引っ込めながら、持ち前の明るさを取り戻していくのであった。




