無事クリア?
「ガハハハ! まさか本当に我を転倒させるとは見事だ、娘ッ」
起き上がるや、盛大に咆哮を上げたドラゴン。
「しかし、マナー魔法を繰り出してくるとは予想外だったぞ。あの偏屈妖精連中の顔を思い出したわい」
待ってましたと言わんばかりに右手の痣が熱くなる。
「エレガントッ! 久しいザマスね、ウィズダム」
「げえ!? き、貴様、ミヤビかっ」
勝手に出てきたマナー妖精を見て、ドラゴンは目を丸くする。表情豊かじゃん。
「あいかわらず、怠惰に過ごしているのね。守護者の誇りはどうしたザマス」
「ふん、頼まれたから受けてやっただけのこと。貴様には関係ないわ!」
「たるみきった態度と腹回り。またエレガントに教育し甲斐があるザマス」
「絶対に断る。ミヤビはスパルタが過ぎる! ストレスで何度尻尾が生え変わったことかッ」
悲報、ドラゴン。ストレス性脱尾症になる。
あたしは、カリスママナー講師のご指導で結構脱毛したぜ。風呂場の排気口に髪が詰まって大変ふざけろ!
「その娘にマナー魔法を教えたのは貴様か。なるほど、実に理不尽な衝撃なり」
「ワタクシが教育する前から礼儀に心得がある人間は稀有ザマスよ。転生者は面白い」
あたしの肩に乗らないで。カブトムシやセミなら大丈夫なんだけど。
「ウィズダムさん。懐かしい再会を喜んでいるところ失礼しますわ」
「全く嬉しくない。むしろ一番見たくない奴よ」
「次はそちらの番でしょう? あいにく、火竜の攻撃を防ぎきる手段がありませんの」
「だろうな」
部屋全体にブレスを吐いて、上級魔法のおまけであっさり全滅。ルミナがトラウマになったら嫌だなあ。ま、あたしは一度死んだ人間なんでっ。
「そちらに戦闘継続の意思があるならば、降参させていただく所存ですが」
「いや――構わん。脆弱な人間の一撃で吹き飛ばされた。お主の生き様を現わしたその佇まいこそ、我に実力を認めさせたのだ。奥の宝などくれてやる。元々、我には必要ないからな」
「では、お言葉に甘えて」
「真の実力を備えた時、再び相見えようぞ。救国の聖女……その生き写しもな」
ドラゴンは器用にもナプキンで口を拭って、眠りについた。
「遥か北には、死期を悟った幻想種が自然へ帰る最後の地があるという。ゆえに、死を連想させる北枕は避けるべし。アナタ――マナー違反ザマス!」
「みやびぃぃいいいーーっっ!?」
ゆら~りと舟をこぎ始めた途端、瞬く間に沈没するドラゴンであった。




