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ダンジョン最深部には、ボスが待ち受けている。
乙女ゲーだって、ファンタジーのお約束をちゃんと守っていた。
ならばこそ! どうしてあたしのやりたかった部分をカットした!
ローグライク、女性人気があまりないから? 知れたことっ。白名井真奈を転生させた以上、本人が活躍できる分野を用意しなくちゃ顧客満足度が上がらないでしょ!
じゃあ最初から、原作にデッキ構築バトル入れないでいいじゃん!
思い返すと、ムカムカしてきた。
あたしは最善、最短の判断でダンジョンを駆け抜けていく。
「――着きましたわね。ここが最後のフロアでしてよ」
「あれ? あれれ?」
「ルミナさん、何を呆けていますの? もうすぐゴールでしてよ」
「えっと……実技試験にそぐわない難易度という話では? あまりモンスターと遭遇しませんでしたね。トラップも全然起動せず、運が良かったのでしょうか?」
ルミナは困惑顔で、首を傾げるばかり。
デッキ構築型ローグライクは死んだけど、ダンジョン内の脅威等はほぼ使い回しだった。モンスターの種類や出現パターン、トラップのバリエーションに発生条件。その辺りはマジオブで経験済み。攻略対象のプロフィールは覚えられないけど、攻略データは暗記できちゃうもん。
だから、初見の敵(久しぶり)も特に苦戦しなかったよ。楽チンって悲しいね。
「ワタクシが鍛えてあげた賜物でザマスね」
呼んでもないのに勝手に召喚されるマナー妖精が手柄を誇っていた。
すいません、サモンしてないのでお帰りください。
「ノンッ、ワタクシはエレガントゥッ! マナー妖精ザマス!」
文字通り、圧を強めたミヤビが目と鼻の先。顔面ハラスメントはマナー違反だぞ。
これ、アレだ。カリスママナー講師にカリスマ付けないと不機嫌になるやつ。おかげであたし、何度も謎マナーの標的にされたっけ。いやぁ、懐かしふざけろ!
「召喚魔法なしで、スピリッツを呼び出せるアンジェリカ様の技量には驚かされます」
「不肖の弟子が心配でこちらから出向いてあげたの。労いの茶菓子の一個でも出したらどうザマス」
「ミヤビ様、わたしが焼いたクッキーでよければ召し上がってください」
「ふむ、ルミナは見所があるザマス。光魔法の継承者と認めましょう」
和むな、認めるな。
バリバリとクッキーをかじった、ミヤビ。全然お上品じゃないですの。
マナー魔法の大本なら、礼儀に無頓着でも頷けちゃう。
マナー魔法とは、エレガントマナー妖精が生み出した屁理屈難癖言いがかりその他諸々。
誠に遺憾ながら、魂に謎マナーがこびり付いた白名井真奈とシナジーばっちし。
ほら喋ってないで行くよ。ピクニック気分でダンジョンへ潜るのは困るんですけどね。
閑話休題。
予想外の事態が起きた。
あとはボスを倒して、奥の祭壇から宝箱を回収すれば合格。帰還するまでが試験と内心ツッコミを入れたところ。
「……当てが外れましたわ」
わたくし、開いた口が塞がりませんの。
一年次テストで乗り越えなければならない強敵は本来、ゴーレムかデュラハン。
しかし、待ち受けていた存在はもっと原始的恐怖を本能へ訴えかけるような――
「え、あれって……ドラゴン!?」
目が合っただけで鳥肌が立ち、膝が泣くほどの迫力がそこにあった。
本物の、幻想種である。




