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四番目の男

「タリウスさんと言ったかしら? あなた、木の上で何をなさっていたの?」

「んにゃ、気持ちいい陽気に誘われてちょっくら相棒と日光浴にしゃれ込んだってわけ。あいにくハンモックを失念しちまってよお、樹木と直接ねんごろするのもオツってね」


 やれやれと肩をすくめた、タリウス。貴族っぽくないのがキャラ、か。


「男爵家の三男坊は風変りが多いと聞き及んでいます。なるほど俗説が流れる理由に納得できるというもの」

「おんや、まさか公爵家レディのお墨付きとは! ブル家の風来坊としちゃあ、オレも鼻が高くなるってモンよ」


 アンジェリカ・ジェントレスの顔を知らない者など同学年にいないらしい。

 わたくし、また何かしてしまいましたの?


「アンジェリカ様! この方、変な人ですっ。危ないですから下がってください」


 ルミナがあたしの前に立ち、両手を広げた。なぜか、肩のシマリスも両手を広げている。


 人助けに躊躇せず、不審者と対峙する。流石、主人公。でもこういうのって、攻略対象がヒロインを守ってこそ映えるんじゃ? 悪役令嬢はか弱くないんで、大丈夫です。


「アンソニー! すっかり裏切り者だなあ! 涙なしじゃ語れねぇオレたちの友情物語はどうしちまったんだっての」


 アンソニー、プイッとそっぽを向いた。


「小動物は心が清らかな人間に懐く。わたくし、貴重な場面に遭遇しました」


 あたしだって、マスコットキャラやるなら美少女担当したい。乙女ゲーの魔法学園……つまり、魔法少女の使い魔的なやつ! 君は光のマジカルパワーに選ばれたジェリカッ!


「ところで、オメーさんはどちら様なんだい?」

「わたしはルミナ・イノセンスです」

「あー、へぇ? 噂の光の救世主かい?」

「何ですか、それ。ただの平民ですけど」


 ルミナが顔をしかめ、タリウスはニヤケ面を作るばかり。

 光の救世主とは、物語終盤にルミナが冠する称号。


 確か……救国の聖女の生まれ変わり何だっけ? 出自が平民庶民一般人でも、やはり乙女ゲーの主人公ゆえ――実はすごい経歴が後に判明する。世界に選ばれた存在だからね。


 ふーん、攻略対象が一通り揃った辺りで伏線ばら撒いていたんだ。

 あたしが原作プレイ時、倍速&スキップ多用したので全く気付かなかったよん。そんなことより、光の救世主イベントで習得する上級魔法が強い! ソロプレイ必須なぶっ壊れだぞ!


「この人胡散臭いですし、そろそろ行きましょう。今日はお供させてくださいっ」

「扱いひどくない!? 平民レディ、オレも男爵子息だぜい?」

「あなたはちっともアンジェリカ様を敬っていない気配がしますから」


 控えめなルミナでさえ、すぐに雑な対応で済ませるお調子者。

 タリウス・ブル。ある意味、注目せざるを得ないかも。

 公爵家令嬢に美辞麗句を並べず、悪役令嬢にまるで動じず。へー、面白ぇ男っ!

 自分で言うのもおかしいけど、、珍しく攻略対象に興味を持った。


「この後、ブランチタイムのお茶会を嗜みますわ。もしよろしければ、ご一緒なさらない?」

「っ!?」


 信じられないといった表情で振り向いた、ルミナ。あとシマリス。


「公爵家レディに誘われるたあ、オレもまだ捨てたもんじゃないってか」


 生徒会メンバーじゃないタリウスとルミナの接点を補強できる機会だ。

 親しみやすさで他のイケメンより好感度稼ぎやすいと思う。

 彼女と攻略対象の個別シーンを提供し、あたしは主人公の好感度稼ぎ。


 アンジェリカ、役に立つじゃん。結構、良い奴?

 最後に追放? 断罪されるん? かまへんかまへん。ええで、光の救世主が許したる。

 念願のデッキ構築型ローグライクはすでに死んだ! さりとて、破滅フラグと戦わなきゃいけないのが転生系悪役令嬢の辛いところ。


 ここで生存する以上、他に楽しいこと面白いこと好きなことを見つけねばならぬ。

 恋愛はスルーかな。あたし、ハンサムで騒ぐより美少女を愛でる方が滾るぞ。

 ――畢竟、生きねば。


「オレは田舎の没落貴族なもんでお上品なパーティーは苦手も苦手。すまんが遠慮させてもらうぜ。誘ってくれてありがとよっ」


 タリウスがてへぺろめんごと手を合わせた。

 友達か。


「あ、アンジェリカ様のお誘いを断るなんて……っ!」

「あなたが憤慨する必要なくってよ」

「憧れの人のご厚意を裏切られて黙っていられません。これ、マナー違反だと思いますっ」


 珍しく荒ぶっていた、ルミナ。もしかして、機嫌悪いの?

 淑女の誘いを断り、恥をかかせるなんて、マナー違反。

 あたしが叩き込まれたのは謎マナーであり、ガチマナーは専門外。


「おっと、こいつは劣勢ってわけかい? 退散させてもらうとするぜ。よぉ、ルミナ。しばらくアンソニーの世話は任せてやろうじゃないか。光栄に思いたまえハッハッハ!」

「ちょ、待って」


 言うが早いか、タリウスはあっという間に男子寮へ向かうのであった。


「失礼な人」


 ルミナがむぅと頬を膨らませた。

 あと、シマリス。きみはハトサブレごっくんしなさい。


「タリウス・ブル。あなたのお名前、憶えておきましょう……」


 わたくしはそれっぽい雰囲気で小さな笑みを残し、踵を返しますわ。


「負けません……絶対に負けませんからっ」


 背後から主人公の決意表明を感じた。

 よく分からないけど、遠慮がちなルミナがやる気なのはヨシ。

 ところで、ライバルじゃなくて攻略対象だよ? 忘れないでね。

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