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念願の

 日曜日は休み。

 世界の真理である。

 さりとて、ブラック企業はそんな大事なルールを平然と打ち破っていく。土日などお構いなしにマナー講習をぶちこまれ、一時の安息すら踏みにじられた。


 日曜日に、報告・連絡・相談させるな。会社外じゃ、繋がらないのがマナーでしょ。

 新人研修の憤慨を思い出して、イライラ。


 わたくしは悪役令嬢。優雅に華麗に怒りを鎮めましょ。ウフフフ!

 邪悪な笑みがこぼれちゃうのも仕方がなし。

 だって、今日は待ちに待った日。予定なしの日。念願叶う日だもん!


 目的の場所へ一目散なわたくし。されど、足取り優美たれ。

 体育館の隣。地下鉄の入口みたいな階段を下っていく。

 出迎えるは、厳かな鉄門扉。

 まるで、挑戦者にこれから待ち受ける試練を告げるような重圧じゃん。


「こんにちは。トレーニングですか?」


 併設された詰所の窓から、制服を着た男子がひょっこり顔を出した。


「えぇ、日曜日でも潜れると伺ったのだけれど」


 一年生でダンジョン初体験と伝えれば。


「へー、一年生ですか! この時期に来るのは珍しいっすね。確か、ダンジョン演習のカリキュラムって夏くらいでは?」


 ローグライクやりにきました! そんな本音がポロリ寸前。


「あぁ、自己紹介が遅れたっす。僕はディグ・アホール。二年生で今はダンジョン管理委員の仕事中ですねえ」


 ジーニアス魔法学園は文武両道がモットー……なんて話は聞かないけど、生徒は部活や委員会加入が推奨されている。アンジェリカは生徒会所属。原作だとうん、完全に忘れた。


 ダンジョン管理委員会とは、構内のダンジョンを管理・運営する団体。


 学園所有のダンジョンは主に、シーカー育成が目的な修練場。いわば、トレーニングジムみたいな扱いを受けている。講師が提案したレベルに応じた難易度調整に協力し、ダンジョン検定の実験台として日夜ダンジョンを踏破する物好きたちとよく揶揄されていた。


「アンジェリカ・ジェントレスですの。それで? 利用しても、よろしくて?」

「う~ん、そうですね。いやあ、別にダメじゃないっすけど」

「煮え切らない態度ですわね。何か問題がありまして?」

「一年生は演習を何度かこなし、テスト前になったら特訓し始めるのが通例っす。まさか、こんな早い時期に来るなんて予想外すぎて」


 アハハと少し呆れていた、ディグ。

 まあ、ほとんどの生徒が本校の志望理由なんて貴族で魔法が使えるから。国立の名門だし、卒業すれば箔が付く。


 本気でダンジョン攻略が目的で、地位と名誉と一攫千金狙いの兵など少数派。そんなマイノリティーこそ、ダンジョン管理委員会へ所属するだろう。


「ここは、修練場レベル1。新入生でもクリアは容易ですわ。配置されたモンスターとトラップは全て人工物。あくまで基本の動きとダンジョン内のトラブルを経験させるのが目的」

「詳しいっすね。誰か先輩からネタは仕入れ済みかぁ~」


 いや、チュートリアルで少々。二週目以降はスキップしちゃったけどさ。

 散歩間近のワンちゃんよろしく、あたしは小刻みに震えていた。待て。待たないよ!


「察するに、初級者へアドバイスを与えるチューターとお見受けしますの。杞憂ですけど、監視カメラから目を離さないでくださいませ」

「当たり。下調べ、バッチリっすか。無理だと思ったら、非常口使ってくださいよ?」

「心配には及びません。わたくし、ガチ勢ですもの!」


 それはそれは公爵家令嬢に似つかわしくない、ドヤ顔であった。

 いざ、ローグライクの世界へ。飛び込め、ダンジョン。

 悪役令嬢がまかり通れば、その道に残るものなし。

 全てを薙ぎ払い、蹂躙して差し上げましてよ! お覚悟、よろしくて?


 鉄門扉がギギギと甲高い音を響かせていく――

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