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光魔法は主人公らしい万能タイプですのよ

 たまにはCクラスの学友と交流を深めよう。

 破滅回避の道も一歩から。悪役令嬢、どぶ板営業でしてよ。

 あたしが右を向けば、ふいっ。左を向けば、ふいっ。

 クラスメイトたちの視線がより遠くへ流れていく。


 全く以って関わりたくない雰囲気を感じたね。無視やめて。

 第三者委員会もたまげるほどの徹底的な他人行儀の構え。

 ひょっとして、わたくし……嫌われていますの?


 思い返せば、クラスでいつも孤高。自己紹介のアレがマズかったらしい。ただの貴族に興味ないって、何だよ。こっちはただの庶民だよ!

 元々友達少ない方だけど、ぼっち令嬢は寂しいもんだ。


「おい、お前。声かけて来いよ」

「嫌よ。あなたが言い出しっぺでしょう?」

「男のくせに情けないわ。少しは度胸を見せなさいよ」

「ハッ、レディファーストだろ。普段、散々順番譲れってごねるくせに!」


 ヒソヒソと噂話が聞こえた。


「そもそも、抜けがけなしの約束でしょ」

「アンジェリカ様はCクラスの希望。こっそりお近づきは禁止だって決めたじゃない」

「あの人の権力にすがるだけじゃ、文字通りただの貴族」

「アタシたちみたいな半端な家柄にチャンスを与えるため、わざと下位のクラスへ入ったに決まってる」

「レオン王子……生徒会長から新入生全体の底上げを任されたと専らの噂だしな」


 きっと、公爵家令嬢ざまあみろって感じかな? わたくしの評判、芳しくありませんもの。


「アンジェリカ様が、私たちの振る舞いを試されていますわ」

「皆さん、あのお方に恥をかかせてはいけません」

「Cクラスに在籍する者を先導せんとするお心得遣い。流石、アンジェリカ様」

「その期待に応えるのが我々の使命! ミス・ロードに忠誠を!」


 あたしが小さなため息をこぼした隙に。

 級友たちはペアやグループを作って、さっさと魔法の練習を開始していた。

 フッ、体育っぽい授業で余り者か。

 まさか乙女ゲーくんだりまで来て、二人組作ってぇ~の洗礼を味わうとはね……


 ヒロインならば、オロオロ中に攻略対象が救いの手を差し伸べる展開である。

 でも、残念! 白名井真奈、悪役令嬢につき! 悲哀と謎マナーだけが友達さ!

 ま、別にいっか。迷惑をかけない以上、あたしも好きにやらせてもらうよ。


 人形当ての列は長く、人の密集が少ない方へ移動。

 ついぞ、ちゃんとした魔法デビュー。楽しみだった。

 マナー魔法なんてパチモンは認めない。だって地味じゃん。


 受け取ったブランクカードをじろりと眺めていく。触り心地は違和感なし。中世ヨーロッパは羊皮紙のイメージだけど、上質紙やコート紙でも今更驚かない。


 この世界の製紙技術は飛躍したのだ! 多分!

 ディティールを追及するほど、そもそも転生とは何ぞやのロジックを紐解かねば――


「アンジェリカ様っ」


 可愛らしい金髪の乙女がピョンピョン跳ねるように向かってきた。


「ルミナさん。あまりはしゃぐのは感心しませんわ。今はまだ授業中だとお忘れなく」

「あの、もしよろしければっ。一緒に魔法の練習をしませんか!」


 全然人の話を聞いてないね、これは。鬼マナー講師にいびられるよ。


「あなたはあちらへ参加しなくてよいのかしら?」


 的当て会場は盛り上がってた。

 ちょうど今、アシュフォードが土の塊を飛ばしている。

 直撃した人形の上半身部分に大きな穴が開くほどの威力。

 歓声が上がる中、あいかわらずメガネをくいっとしていた。新調しなって。


 ……へー、あの人は土属性なのかー。ユニットとして使ったことがあるはずなのに、完全に忘れていた。やっぱ、ルミナ単騎運用なるセルフ縛りがマズったみたい。ちゃんと全キャラを使いこなしてこそ、マジオブプレイヤーだよね。


「Aクラスの方が優先されるのが暗黙の了解。実に魔法学園らしい風土ですこと」


 うっ、謎マナーがアップし始めました。ずっと準備運動してて。

 まあ、エリートが威張り散らさなきゃストーリー的にも困りそう。

 まあ、アンジェリカは落ちこぼれでも家の力で威張り散らす所存。

 わたくしのその胆力だけは見習いたいものでしてよ。


「Aクラスに入れたのはまぐれですよ。入試もヤマ勘が当たっただけですからっ」


 胸の前で両手を振った、ルミナ。

 忖度でCクラス入りしたアンジェリカ、激おこ案件。

 きぃ~っ! 主人公の謙遜が不協和音に聞こえるぞ、特に悪役令嬢の耳には。

 心中、わたくしがシルクのハンカチーフを千切れるくらい噛んでいれば。


「アンジェリカ様に魔法を見てほしくて、つい走ってしまいました……迷惑でしょうか?」

「変わり者ね。構いませんわ。希少と謳われた光魔法、拝見させていただきましょう」

「ありがとうございます! わたし、頑張りますっ」


 なぜか笑顔になり、グッと拳に力を込めていた。

 どちらかと言えば、助かったのはこっち。主人公のおかげで、ぼっち脱却。あたしがヒロインだったら、好感度爆稼ぎされたところ。悪役令嬢ルート、ないんだなあこれが。


「アンジェリカ様、至らぬ点があればご指導よろしくお願いします」

「ちょ、ま」


 ルミナはぺこりと頭を下げ、空いたスペースを確保した。

 わたくしの実力はFクラス。逆立ちしたってAクラスの才女にご指導なんて浮かば――


「レコード」


 ブランクカードを掲げた、ルミナ。

 ダイヤモンドダストよろしくエフェクトが弾け、白い光がカードへ収束していった。


「リリース」


 数メートル先の上空へ魔力が放出されるや、白く輝いたカーテンがふわっと降り注ぐ。


 初級光魔法<イルミネーション>。

 光の柱で対象を取り囲み、一時的に拘束する。原作では、エネミーの行動力を一ポイント減らす汎用補助技だ。被弾を減らしてくれるので、ついノータイムで使っちゃう。


「わたしが最初に覚えた魔法です。まだ頼りないと思いますが、如何でしょうか?」


 恥ずかしそうに赤面するんじゃない、キミ可愛うぃーね!

 ナンパはガルバインの役目、か。攻略対象とキャラ被りはマナー違反だぞ。

 乙女ゲーの流儀。ちゃんと嗜んでおくべきだったよ。助けて凛子!


「入学して間もなく、イルミネーションを使いこなすとはやりますわ。ルミナさんが積み重ねてきた特訓の成果が出ているじゃない」

「ありがとうございます!」


 相手を称賛しても、そう簡単に自分が劣っているなんて認めないけどさ。断じて、わたくしは平民などに負けてなどおりません! 面倒じゃなきゃ、敵役はできないもん。

 プライドの高さこそ、悪役令嬢たる所以。


「この調子なら、<ブレッシング>や<フラッシュ>も大丈夫そうね」

「はいっ」

「<セイヴァー>と<ライトアロー>はどうかしら?」

「セイヴァー……ライトアロー……?」


 ルミナはきょとんと首を傾げる。


「ごめんなさい。その技はまだ、分からないです」

「そういえば、習得レベルはまだ先でしたわね。忘れてちょうだい」

「アンジェルカ様、もしかして光魔法に詳しいのですか?」

「……」


 背中に冷や汗ブシャー。あたし、脇汗あまりかかないタイプ。


「魔法の属性は、地水火風が大半を占めている。それ以外、特に光属性は珍しくて詳しいスキル内容は開示されていない。そんな触れ込みだったのですが」


 知ってるに決まってるじゃん。ゲームで散々ルミナを使ったんだから! ペン持ってきて、光魔法のスキルツリー書いてあげる。

 白名井真奈が何度ダンジョンをクリアしたと思ってやがる。ついでに世界を救った!


 エンドレスモード実装してくれと開発にお便り出すくらい――

 お前のことが好きだったんだよ(デッキ構築)ッ!

 なぁ~んて、言えるかぁぁあああーーっっ!

 どうするどうするどうする~!? 考えろ考えろ考えろ言い訳言い訳を言い訳をッ!


「それは……」

「それは?」


 アンジェリカは都合が悪ければ権力で黙らせるタイプ。さりとて、あたしはどう誤魔化そうか必死で、肉体と精神の天秤がアンバランスに揺れまくり。

 謎マナーで切り抜けようと一瞬過った。ダメだ、全然思いつかない。


 ネットで散見した半数以上の謎マナーを創造せしあの鬼ババア……ある意味、すごい人だと思いました。流石、カリスマ失礼クリエーターの異名は伊達にあらず。


 いっそのこと、全部告白しちゃおっか。あたし、実は新社会人が転生したかくかくしかじか。電波系令嬢なるネタキャラへシフトし、破滅フラグと無縁もしくは死亡フラグブレイカーの地位を確立――


 突如、妄想を吹き飛ばす轟音。

 そして、悲鳴。


「キャァァアアアッ」

「うわぁぁあああーっ!」

「暴走だぁ!?」


 ぴちゃり、と。

 頬に水滴が飛んできた。

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