第五章 そして、一歩ずつ
これはAIが書いたものです
下山道を歩く健介の足取りは、登ってきたときよりも軽かった。
森の中を縫うように続く小道。柔らかな木漏れ日が揺れ、鳥の声が遠くから聞こえてくる。昨日までは気にも留めなかったはずの景色が、今日はやけに鮮やかに映る。まるで世界が、少しだけ色を取り戻したようだった。
「こうして歩くと、時間がゆっくり流れてる気がしますね」
背後から陽一が声をかける。健介は軽くうなずいた。
「うん……前は、ただ登って、ただ帰ってくるだけだった。でも今日は……何かが、少し違う」
自分の中で何が変わったのか、言葉にするのは難しかった。ただ、心のどこかにずっとあった“止まったままの時計”が、ようやく動き出したような、そんな感覚があった。
二人はときおり言葉を交わしながら、ゆっくりと下りていった。途中、健介が立ち止まる。
木の根元に、小さな青い花が咲いていた。彼女が「下山途中で必ず立ち止まる場所」と言っていたポイントだった。
「ここも、彼女の“お気に入り”の一つだったな」
しゃがみこんで花を見つめながら、健介はそっと微笑んだ。
陽一が尋ねた。「……もし、彼女が今も生きていたら、何を話したいですか?」
健介は少し考えて、答えた。
「ありがとうって、言いたいな。……こんなにも、俺のことを見てくれてたんだって、今さら気づいたから」
言葉にしてみると、胸の奥にあった澱のようなものがすっと溶けた気がした。
陽一は少し微笑んで、「僕もそう思います」と言った。
やがて登山口が見えてきた。
見慣れたはずの場所が、どこか違って見える。健介は振り返って山頂を仰いだ。
——君の声は、もう聞こえない。
でも、君の思いは、ちゃんと届いたよ。
そのことが、健介にとって何よりの救いだった。
「じゃあ……そろそろ、行こうか」
陽一が頷く。二人は登山口を後にして、町へと続く舗装路を歩き出した。
足取りは、しっかりと前を向いていた。
そして、健介の胸の中で、小さな約束が生まれていた。
——いつか、あの山を、誰かとまた登ろう。
君が見せてくれた景色を、今度は誰かに伝えるために。




