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君の頂でまた会おう  作者: やしゅまる


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第四章 君の頂で

これはAIが書いたものです

頂上は、想像していたよりも静かだった。


 風は穏やかで、空はどこまでも澄んでいる。あの日、彼女と一緒に見た景色と、まったく同じように思えた。いや、少しだけ違っていたのかもしれない。彼女の声が、もう隣にないこと。それ以外は、すべてが変わっていなかった。


 山頂の一角にある平らな岩に、健介はそっと腰を下ろす。ザックから、彼女のメモ帳と登山日記を取り出し、膝の上に広げた。陽一は少し離れた場所で、静かに周囲を見渡していた。


 ——あの時、君はここで、空を見上げていたね。


 「ここ、風が気持ちいいね」と、笑っていた彼女の横顔が浮かぶ。


 健介はそっと日記の最後のページを開いた。


 「この山に、私の全部を置いていくよ。


 だから、健介くんがまた登ってきてくれたら——


 その時は、きっと、新しい一歩を踏み出せるって信じてる」


 風がページをめくりそうになり、彼はそっと押さえた。胸の奥が、じわじわと熱くなる。


 「……ずるいよな、お前」


 誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。最後まで、自分よりもずっと先を見ていた彼女の優しさが、今さらながらに沁みてくる。


 隣に座った陽一が、静かに言った。


 「……本当に、ここが好きだったんですね」


 「ああ。……彼女にとっては、“生きてる”って感じられる場所だったんだと思う」


 二人はしばらく無言で景色を見ていた。眼下には森が広がり、その向こうには街が小さく見える。ビルも車も、すべてが遠くにあった。ここでは時間の流れが違って感じられる。


 健介は深く息を吸い込んだ。冷たい空気が肺に満ち、心の奥の曇りを少しずつ押し流していく。


 「……これで、前に進めそうな気がする」


 そう言うと、陽一がうなずいた。


 「きっと、彼女もそれを望んでたんだと思います。過去に縛られるんじゃなくて、背負って、生きていくこと」


 健介は、手帳と日記を丁寧にザックに戻した。そして、ポケットから折りたたんだ小さな写真を取り出し、空へとかざした。


 そこには、自分と彼女が並んで笑っている姿があった。


 「——また来るよ。今度は誰かを連れて」


 そう言って、彼は写真をそっと胸にしまった。


 陽一が笑う。「そのときは、僕も誘ってくださいよ」


 「もちろん。……あいつも、たぶん、文句言いながら喜ぶだろうな」


 二人は立ち上がり、もう一度、頂の空を見上げた。


 その青は、どこまでも澄んでいた。まるで、彼女の声が今もそこにあるように——。

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