第二章 山頂で出会うもの
これはAIが書いたものです
稜線へと続く急な坂を、健介は無言で登っていた。息は少し上がっていたが、心は静かだった。
道端には、彼女が好きだったミヤマキリシマの小さな花が、薄紅色に咲いていた。ノートには「この時期、あの花が咲くの。見つけたら、少しだけ立ち止まってね」とあった。
言われたとおり、健介は足を止め、しゃがみこんで花を見つめた。小さな花弁は風に揺れ、陽を浴びてやさしく光っていた。彼女が、今もこの山にいるような気がした。
坂を登りきると、視界が一気に開けた。山頂はもうすぐそこだった。
だが、その手前。人の気配がした。
尾根の岩陰に、ひとりの青年が座っていた。濃紺のジャケットにザック、登山靴もしっかりしたものだ。すれ違う登山者かと思い、健介は軽く会釈をした。
すると、その青年が立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。
「……桐谷健介さん、ですよね?」
思いがけない声に、健介は驚いて足を止めた。
「え? あ、はい……そうですが……」
青年は黙ってリュックから一枚の写真を取り出し、差し出した。
それは、健介が彼女と天鹿岳の山頂で笑っている写真だった。たしかに、自分が写っている。撮影したのは、彼女だ。
健介の胸がざわついた。どうしてこの人が、その写真を——?
「彼女が、僕に託したんです。……僕、彼女の妹の婚約者でした」
風が、笹を揺らした。
その言葉は、予期せぬ重みを持って健介の耳に届いた。
「婚約……?」
「まだ正式にはなってなかったけど、彼女は、僕の姉のような存在でした。家族ぐるみで付き合ってて……彼女は、ずっと健介さんの話をしてました」
青年——高坂陽一は、まっすぐ健介を見つめていた。
「彼女は、最後の登山の少し前に言ってたんです。『あの人が、もう一度山に登ったら、きっと自分を許せると思う』って」
健介は言葉を失った。
ずっと彼女に背を向けていた。彼女が逝ってから、山を見ようともしなかった。でも、こうして歩き出したことが、彼女の思いと重なっていたのだと知って、胸の奥が熱くなった。
陽一は、写真の裏側を見せた。そこには、彼女の文字でこう記されていた。
「この人に会ったら、話してほしい。私のことを。私たちのことを」
風が、ふたりのあいだを吹き抜けた。




