第一章 君の道しるべ
これはAIが書いたものです
山道に、朝の陽が差しはじめていた。
風は静かに木々を揺らし、湿った土の匂いが春の終わりを告げる。登山口の標識を見上げて、健介は小さく息をついた。今日は晴れ。絶好の登山日和だ。けれど、心はずっと曇ったままだった。
ザックの中には、水筒と食料、そして一冊のノートが入っている。白い表紙に、細い文字でこう書かれていた。
「天鹿岳日記 〜健介くんと、また会うために〜」
それは、彼女の遺品だった。事故で帰らぬ人となってから一年、整理しきれなかった彼女の部屋をようやく片付ける気になったとき、ふと見つけたものだ。ページをめくれば、彼と一緒に登ったときの思い出、風景のスケッチ、彼女の目線で描かれた山のすべてが記されていた。
——また、登ってみようか。
そんな気持ちになったのは、ほんの出来心だった。けれど、今はもう、足を止められない。
「……見晴らし岩まで、あと五十歩」
ノートの一節にあった言葉を思い出しながら、彼は足元を数えながら進む。途中、名も知らぬ小鳥が枝でさえずり、日差しが木漏れ日となって差し込んだ。
そして、五十歩目。
ぽっかりと開けた場所に、平たい岩があった。そこに腰を下ろすと、眼下には谷が広がり、遠くには町が小さく見えた。
彼女は、ここでおにぎりを食べていた。笑いながら、「この景色の中で食べると、何でも美味しいね」と言っていた。
健介は、リュックから彼女の日記を取り出し、岩の上でそっと開く。
「ここはね、健介くんと登ってきた中で、一番好きな場所なの」
文字は柔らかく、楽しそうだった。読みながら、ふいに涙がこぼれた。拭おうとしても止まらなかった。
どれだけ時間が経っても、彼女の声はまだ耳に残っていた。
けれど、不思議と、今のこの涙は重くなかった。ただ、懐かしくて、あたたかい涙だった。
健介は立ち上がり、再び歩き出す。山頂はまだ先だ。けれど、彼女がこの道を案内してくれるような気がしていた。
——君がいた場所に、もう一度、辿り着こう。
そう心に決めて、彼は静かに登り続けた。




