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イルカ

作者: hinokahimi



 その朝、彼はイルカに生まれ変わったんだと分かった。

 それは確信だった。彼が抱いた強烈な喜びは、その分強い閃光となって、この世界へと放射された。彼はイルカになれたことがあまりにもうれしかったんだ。彼の意図せず発振された信号を、私は夢を通して受け取った。私は、彼のその大きな喜びに感応して、夢の中で泣いていたのだろう。目覚めると、頬が濡れていた。私はそのできるだけ優しく教えてくれている事実を、ただ静かに受け止めていた。


「Good morning!」

 夢の鮮明なイメージがずっと脳裏に焼きついたままだ。たぶん、一生忘れないだろう。そして、これからふいに思い返したりするのだろう。

「Today I gonna…」

 10年前の私が、英語を話す仕事をしている今の自分を見たら、きっととっても驚くだろう。

「We're planning the summer festival for students…」

 毎朝込みあげてくるこの感覚。この仕事をさせてもらえる幸せな気持ちや有難い気持ち。この仕事のやりがい、この職場の素晴らしさ…

「Mana-san, Are you OK?」

「あっ、Yes, sure.」

 課長のカレンさんの笑顔が目に入って、慌てて飛んでしまっていた意識を引き戻した。

「Are you still in a dream?」

「No. I'm OK!」

 みんなの笑顔も私の方へ向いている。私は、笑顔を返して、頭を下げた。

 

 日星大学国際交流センターには、私を含めて6名のスタッフがいた。日本に滞在している留学生や留学を考えている日本の学生たちの相談、留学生と地域との文化、教育を通した交流のバックアップを行っている。この仕事を始めて半年が経った。この職場の人たちの作り出す雰囲気のおかげで、私は少しずつではあったが、仕事にやりがいを見出し始めていた。様々な国からいろんな価値観を持ってやってくる学生と接している人たちは、やはり心もグローバルなのだ。その考え方や姿勢には、排除や批判といった考えではなく、みんながよりよくなるために働いているんでしょっていう気持ちが軽快にどこかしこで流れていた。自分自身がしっかりと自分の役目を楽しむこと、協力し合うこと、それぞれを尊敬し合うこと、感謝し合うこと。その4本柱がこの職場をしっかり支えていた。

 課長のカレンさんは、オーストラリア出身で、日本人の旦那様との国際結婚をして日本へやって来た。彼女のポジティブシンキングには、いつも感動すら覚える。カレンさんのおかげでこの部署の雰囲気は数段に明るいものになっていることは間違いなかった。働き始めた頃の私は、自分でも気付かないくらい緊張が抜けきらず、いつも肩に力が入っていたのだろう。そんな私にカレン課長は、時折声を掛けてくれた。ハイタッチをして通り過ぎる清々しい風のように、ちょっとした言葉に、肩の力が一瞬で抜けて自然体に戻れる魔法を掛けてくれていた。他に外国国籍の2人の男性、ポールさんとマイケルさん、ポールさんは英語にフランス語とスペイン語、もちろん日本語も堪能のイギリス紳士。マイケルさんは、カナダ出身、フランス語と英語がペラペラで、日本語と中国語を勉強中という心優しい男性。後の3人は日本人。私の他に、留学生のお母さん的存在で、いつも豪快に笑い、とっても情の深い大西さん。大西さんにハグされると、安心して眠ってしまえるくらい心地よい。それから韓国に留学経験があり、もちろん韓国ドラマにはまっているという沢口さん。とても頭脳明晰で、機転がよくきく。素晴らしいアイデアウーマンだった。そして、涼しい顔をして冗談をいうのが得意である。

 今朝のミーティングが終わり、みながそれぞれの仕事を始めた。夏休みの2週間留学生向け地域イベント交流会が予定され、今は、みながそれに向けて様々な準備を進めていた。私もデスクの書類に目を通しながら、みなが動く室内の雰囲気を感じていた。そして私はふと思った。今朝の夢のイメージは私に教えてくれていた。私たちはまさにイルカの群れのようだと。私たちは和を形作りながら、自在に形態を変化させ大海原の泳ぎを楽しんでいるイルカの仲間たちだと思った。


「Have a lovely weekend!」

「you, too!」

「See you!」

「Bye!」

 みな定時になり、それぞれの生活へととびっきりの笑顔で切り替わっていった。

「まなさん、おつかれさま」

「あっ、お疲れ様です。カレンさん」

 デスクの片付けをしている私の元にカレンさんがやってきた。

「きょうはすこしつかれたかんじがしたけど…、Are you OK?」

「えっ?はい、大丈夫です。私、疲れた表情してましたか?」

「ううん。そんなかんじをうけただけよ」

「ありがとうございます。気に掛けてくださって」

 カレンさんのこの向日葵笑顔は、すごい力を持っている。目の前の人の笑顔を誘うんだ。

「よかった。らいしゅうから、あたしいしごとをおまかせしたいから、どうぞよろしくね。Have a wonderful weekend! See you next Monday!」

「Yes,sure. Thank you, you too.あっ、And have a lovely meal with your husband tonight! See you!」

「ハハ、まなさんもね!」

 カレンさんは、手を振りながら自分のデスクへと去っていった。そして、私は足早に職場を後にした。ビルを出ると、湿気を多く含んだ空気が体に勢いよく押し寄せてきて、一気にくるみ込まれた。雨は降ってはいなかったが、いつでも降り出せますよ、という雲が空に控えている。私は、絡み付いてくる風を上手にあしらって、足取り軽く先を急いだ。スキップを踏み出すような気持ちが飛び出してくるのを、タイミングよく抑えが入った。私はポケットから震えるスマホを取り出した。

”ごめん。仕事が長引きそうです。よかったら、いつもの店で待っててくれるとうれしい。ごめんね”

 再び落ち着きを取り戻した心で、

”了解。お疲れ様です。気をつけて来てね”

 と返信した。

 彼がお気に入りのホットサンドが有名なお洒落な雰囲気のカフェを、いつも待ち合わせのお店にしていた。居心地のよいお店で、私はよく訪れた。お気に入りのハーブティーを飲みながら、1冊の本を読み終えることもあった。店内外にはお店の人たちが大切に育てているという植物たちが茂っていて、私はいつもその庭を見渡せる席を選んだ。そして、いつものようにハーブティーを注文した。私は、鞄から英語の参考書とペンを取り出した。TOEFLのテストに再挑戦しようと決めていた。お店はちょうど夕食の時間へと切り替わるところで、大小の動きが起こっている。落ち着くまで私は、庭の植物たちを眺めることにした。彼らは重々しい空気に身を預け、夢見がちにユラユラと揺れていた。頬杖をついて、少しぼんやりとしていると、今朝の夢の映像が甦ってきた。


 私は、海底に座って、海面の方を見上げていた。海の中は心地よくて、苦しいこともなく、穏やかな波がゆらめく海面の光を見つめていた。すると、イルカたちが集まってきた。円陣を組んで、海面へと上昇していく体勢で一斉に上を向いていた。私は、イルカたちの視線の先を追った。そこには、青白い光の球体が浮かんでいた。優しい光をあたりに放っている。その光の玉は、ゆっくりと海面へと昇っていく。その球体自体が昇っていっているのか、イルカたちが押し上げているのか、イルカたちもその光を追いかけて、どんどんと円陣が小さくなっていった。そして、海面に近づき、光が海の中から見えなくなった瞬間、イルカたちは一斉に力強くジャンプをした。海はひととき泡だけが残り、しばらく静かになった。そして次の瞬間、円陣を組んだイルカたちは大きく円を描いて海に戻ってきた。水圧が勢いよく私に押し寄せてきた。圧倒的な喜びの塊だった。すると、小さなイルカ、赤ちゃんイルカが海へと飛び込んでくるのが見えた。その赤ちゃんイルカは、すぐに私を見つけて微笑んだ。その時フィルだと思った。そう、フィルだった。記憶にあるフィルの瞳が宿っていた。イルカたちは、赤ちゃんイルカを大切そうに取り囲んで、海の闇へと姿を消していく。すると、その後にイルカが残した輪っかが残っていた。私は急いで浮上して、その輪っかを追いかけた。その水泡が指先で弾けた時、私はフィルのあの手のぬくもりだと確信した。


「何の絵、描いてるの?」

 背後からの愛しい人の声が響いて、私を白昼夢から呼び起こした。

「ごめん。遅くなって。1時間遅刻だな」

 そう言って、手を合わせながら、私の目の前に愛しい顔を見せた。

「隼人!お疲れ様!」

 私は、うれしさが瞬間にこみ上げてきて、笑顔になった。

「真奈もお疲れ様」

 お互いを笑顔で見合うことの幸せがまたやってきてくれた。

「待たせてごめんなさい。急に学生対応が入って」

 彼は、丁寧に頭を下げて腰掛けた。隼人は、同じ大学の教務事務室で働いている。

「とんでもない。気にしないで」

「TOEFLの勉強か」

「うん。でもできなかった」

 そうして、手元に目を落として、イルカの絵を見つめた。私は夢でのイルカたちを、参考書の空白部分に描き込んでいたのだ。

「イルカ?」

「うん」

「あっ、そうだ。今日お土産でこれ、もらったんだった」

 隼人は鞄からお菓子の包みを取り出した。

「イルカ饅頭だって。イルカの形してる、ほら」

 隼人は、早速包みを開けてみせた。

「ちょっと申し訳ないな」

 そう言って、イルカの体を二つに割ってくれた。

「ありがとう」

 二人とも一口でほおばった。

「美味しい」

「うん。真奈って、絵がうまいんだな」

 隼人は、人形焼のイルカ版を味わいながら、身を乗り出して、私の手元のイルカの絵を覗き込んだ。

「今朝、この絵のような夢を見たの」

「へぇ、覚えてるのか」

「うん。とっても鮮明で」

「なんか、いいな、その絵」

「ありがとう」

 

 彼との出会いは、カナダのトロントだった。私が留学しているとき、彼はワーキング・ホリデーで来ていて、同じ語学学校に通っていた時期があった。私たちの出身地が同じだと判明してから、彼の方からよく話しかけてくれるようになった。学校以外で会いたくないことを、なるべくやんわり言葉の端々に含ませて会話を交わし続けた。なぜなら私がストイックに日本人と仲良くして日本語を話すことを避けていたからだ。しかし彼が別の街へ移動する日、“日本に帰って、よかったら会ってください。よかったら友達からでもいいので仲良くしてください。”と言われ、連絡先の書かれた手作りの名刺をもらったのだ。私は今でもその時の隼人の表情をしっかりと覚えている。緊張感がビリビリと伝わってきて、初恋を告げる中学生の男子のように見えた。彼が小さな青春をきらめかせて走り去った後に残された私はその甘酸っぱい匂いに頬が熱くなったんだ。私は日本に戻ってから、先に帰国していた彼に連絡を取り再会した。彼の誠実さが溶け込む雰囲気は、一緒にいると心地よく、ゆっくりと優しく彼の存在は私の中で大きくなっていった。そして、より繋がりが深くなったのは、彼が働く大学の国際センターで人員を募集していることを、彼が教えてくれたことからだ。当時、英語を使う仕事を探していた私は、教えてくれている彼が救世主のように輝いて見えた。そして、挑戦した私は、運よく高い倍率の中、合格した。その喜びと感謝を彼に伝えるため会った日、彼からの告白を受け、付き合い始めたんだ。それが、私たちの甘い思い出である。


「イルカが精神的な疾患を抱えている人の治療に力を貸してくれるって話、知ってる?」

「あぁ、聞いたことある。イルカって高度な知性なんだよな。このイルカ饅頭で、頭よくなるかな」

「ハハハ、なったらいいねー」

 冗談なのか、真剣なのか分からないような隼人の表情が笑いを誘う。

「私ね、イルカにその力を貸してもらったことがあるのよ。今日、この夢を見て気付いたの。イルカに助けてもらったんだなって」

「助けてもらった?」

「うん」

 今まで彼に打ち明けたことのなかったことを、私は話そうと思った。今の私がここにいられて、素晴らしい職場、素晴らしい人たちと出会えて、毎日が充実しているのは、あの闇を抜けることができたからだ。あの闇の中には数多くの支えがあった。あの闇の中を踏破させてくれたのは、たくさんの力のおかげだったと改めて感じた。その力のひとつが、フィルだったことを、何で今まで忘れていたのだろうと思った。

「わたし、カナダに行く前、実はうつ病になったの」

「そうだったんだ」

 隼人は驚いた顔をしたが、すぐに優しい顔になった。

「イルカの力が、病気を治す自分の力を引き出してくれたって、今日実感したの」

「イルカと泳いだの?」

「そう、イルカと泳いでたんだと思う」

「思う?」

「うん。まさにイルカの人と」


 10年前、私はうつ病という病気にかかった。いろんな理由が積み重なっていたのだろうけれど、その大きなきっかけとなったのは、当時勤めていた職場での人間関係だった。私は短大から実家を離れ、学校推薦の地元企業に事務職として働いていた。勤め始めて2年が経って、異例の人事異動があった。その頃、業績が悪化した会社が大幅な人事の変更を行っていたのだ。私は肩をたたかれることがなかったことに感謝しなければならなかったが、その異動先の部署の環境は、その感謝の気持ちをどんどんと奪っていった。いわゆるお局さんが存在する、典型的な猿山部署だった。お局さんのその日の機嫌がその日の部署内の雰囲気を決定付けた。部長さえも気を遣う始末で、みなが機嫌取りをしていたのだ。新参者である私は、初日早々に仲間外れを宣告されていたのだ。その宣告を私は徐々に気付かされていった。部署内の女性5人は、すべてお局さんを中心としてタックを組み、縄張りを作り出し、決して入り込むことを許さなかった。イジメのような積極的な働きかけはなかったが、排除と拒否というメッセージが日々どこかに落とされていた。私は、仕事のため、お金のためと、心に言い聞かせながら、何とか踏ん張った。しかし次第に力が容赦なく奪われていく状況を、踏みとどめることができなくなっていったのだ。今なら、自分の心地よくない環境からは速やかに逃げる選択も思いつけたかもしれない。しかし当時私は、自分にはこの状況を変化させられると思っていたのかもしれないし、心の持ち様でどんなこともすべてよくなるんだと思っていたのかもしれない。ただ、職を失うということに異様な恐怖心を抱いていたと思う。当時の経済状況もその気持ちに拍車を掛けた。一人暮らしの家計は厳しかったからだ。私は自己啓発本なんかを読み漁りながら、毎日をやり過ごすという日々だった。

 半年を過ぎた頃、限界の警報が鳴り始めた。眠れなくなったことをきっかけにして、私は心療内科の個人クリニックを受診することに決めた。気持ちの転換と睡眠さえ上手くいけば、なんとかやっていけると、病院に行ってからも信じていた。そして、何とも辛い一つの決定打もあった。高校から仲良しだと思っていた友人にランチを誘われて、何とか普通を装って出かけた。話の途中で、今の自分の状況を打ち明けてみようと思った。学生時代から何でも話してきた友人が、勇気づけてくれるのではないかと期待があった。しかし、彼女の一言に目の前が真っ暗になった。“そんなの無いと思おうよ。そんなの病気にしてるだけで、そんな病気なんてないよ、ただ怠けたい気持ち、頑張れない気持ちに名前を付けただけだよ、だから、大丈夫。頑張って!”彼女なりに勇気づけてくれたのだが、頑張ってという言葉にはどうしようもないやるせなさを感じた。追い打ちをかけるように、最初の病院の選択が、少しの希望さえも奪っていった。大量に処方された薬が合わなかったのか、私は起きることができなくなり、外出することができなくなった。ひたすら眠り続け、そして、私はついに退職するという結末へと行き付くことになってしまったのである。


「ごめんね。急に過去の告白なんかしちゃって…」

「ううん。大変だったんだね」

「会社を辞めさせてもらったおかげで、今、こうして隼人と出会えてるから、感謝しなきゃね」

「おぉ、うれしいねー。真奈は俺たちの出会いのために、辛い道を選んでくれたんだねー」

「フフ、そうよー」

 私は隼人の口調を真似て言った。そして、思わず笑い出した。隼人も目を細くして笑っている。

「でも、よくがんばったな」

 隼人は急に声色を変えて、まっすぐわたしを見つめて言った。私は少しドキっとした。人はそれぞれ悲しいこと、辛いこと、嬉しいこと、楽しいこと、いろんな経験をし、自分が主人公の貴重な物語を味わっていく。その人が選んだ独自の物語を、その人は自分で懸命に読み解くしかない。誰も代わることなんてできない。人が人に対して、どんな状況であっても、唯一投げかけられるのは同志としての労いだけなのかもしれない。そんなことを思いながら、私は隼人からの気持ちを素直に受け取った。

「ありがとう。ねぇ、おいしいもの食べたいな」

「あぁ。何食べようっか?」

 隼人とは、これからもきっといい関係でいられると思えた。今は旦那さまだったらいいかも、ハートマーク、なんて気持ちが芽生えているのだが、たとえどんな関係性であろうと、生涯続けていける自信みたいなものが確実にあった。

 私は、残っていたハーブティーを飲み干して、身支度した。そしていつもよりも高揚指数の高い金曜の夜の街へと飛び出した。


 深い深い闇の中にいたあの頃の自分自身に教えてあげたいと思う。大丈夫だよ、もうすぐで光が射すからねって。そして闇だと思いこんでいたのは、実は慈悲深い大きな森の中だったんだ。私は、闇の中に丸まって止まっていたんじゃない、光の差さない深い森の中を歩いていたんだ。


「起きられる?」

 母がホットミルクを持って、部屋に入ってきた。私は重く感じる体を何とか起こして、頭を下げた。

「ごめんなさい。お母さん、迷惑かけてほんとごめんね」

「何言ってるの。ちょっと休みなさいって神様から時間をもらったのよ。また良くなるから、大丈夫」

 退職はあっという間に済んだ。休職という選択肢は、結局提示されることはなかった。

「お母さん、今日は仕事どうしたの?」

「有給が溜まってたから、もらったのよ」

「有給もらえるようになったんだね」

「そうなのよ。病院も看護師たちに優しくなり始めてるのよ。だから、あなたも自分に優しくしてあげなさいね」

「ありがとう」

 母は総合病院で看護師をしていた。救急外来で働いていた時期は、今より少しピリピリした感じで働いていたが、内科に配属されてまた違った雰囲気で仕事をしている。

「そうだ、今夜、お父さん早く帰ってくるみたい。一緒にお鍋でもしようっか」

「うん」

 

 母親には子どもに関することを察知できる鋭いアンテナが立っているじゃないだろうかと思う。あの日、どうしても会社に行けなくて、休みを取ってアパートで布団に丸まって潜んでいた。なんとか抜け出そうともがいていたけど抜け出せなくて、足掻いていた時、玄関のチャイムが鳴った。就業しているであろう時間に、玄関に立っていたのは母であった。なぜそこに母が立っているのか、一瞬で理解することができず、パジャマ姿のボロボロの私は、その場でしゃがみこんだ。私は、両親には辛い状況に陥っていることを話さずにいた。そういえば、小さい頃から、自分の辛いことを素直に話すことをしてこなかった。両親もそれぞれ働きに出ていたし、その頑張りを側で見ていて、私も何か役に立ちたいと思っていた。それは、両親の私に対する思いの呼応だった。二人とも、自分も疲れて辛い状況だったのに、できるだけ私と妹に心を掛けようと努力する姿を見てきた。そして、淋しい思いをさせて申し訳ないという気持ちを持ちながらも、それを直接表現できずにもがいている姿も知っていた。だから、必要以上の負担をかけないようにしたいという気持ちが芽生え、ずっと続いていた。それは、わたしにとって心地の良い気持ちの持ち方で、無理をしているということではないと信じていた。


「薬、やめたの?」

「うん」

「医療関係者の立場からいうと、薬は途中でやめてほしくはないけど…でも、今は真奈の気持ちが大切だからね」

「また別の病院探そうと思ってるの。でもなんだか、仕事辞めたら、少し楽になって」

「そう」

「実はね、真奈にひとつ提案があるの」

「え?」

「しばらく、私の友達のお家に行ってみない?」

「え?」

「沖縄に住んでる友人がいるの。救急の看護師時代にすんごく仲良くしてたんだけどね」

「沖縄?」

「ええ、沖縄。麻子さんっていって、今も沖縄で看護師の仕事をしてる。アパートから実家にちゃんと自分の足で帰ってこられたんだから、沖縄へもきっと自分の足で行けるわよ。沖縄だから自分の足だけじゃ無理だけど」

「どうして?」

「昨日、お父さんと話したの。お父さんの友達にもうつ病になった人がいてね。その人、自然の中で暮らすようになって、今すごく元気になったんだって。ここにいて、病院に頼ることもひとつの選択肢だけど、自然の中で体を動かすって、私いいと思うの」

「自然の中で」

「そう。麻子さん、海の見える一軒家で一人暮らししてるの。半自給自足を目指してるらしくって、畑もしてるんだって。手伝うことはいくらでもあるみたいよ」

「私が行ってもいいの?」

「実は、麻子さんもうつ病になったことがあってね、いろんなことが重なって沖縄へ移住したのよ。向こうの小さな診療所でも働いてるのよ。こないだ電話があってね、真奈のこと話したの。そしたら、麻子さんから来なさいよって言ってくれて。真奈はどう思う?」

「…分からない」

「そうね、今夜、お父さんとも話しましょう」

「うん」

 私の状況が両親に見つかってから、忙しいはずの両親が、なぜか私のためにものすごい速度で動き始めた。アパートを引き払い、引っ越し作業を行い、そして、実家には、高校生だった私以上に快適な私の空間が用意されていた。実家に戻ってからも睡眠障害と無気力さに押さえつけられ、相変わらず動けないでいた。私は、ここを離れてどこかへ行くという考えは全くなかった。動きにくくなってしまった心と体の奥底にまだ残っている、何とかしなくちゃという気丈を、どうにか振るわせていた。病院を変えれば、また大丈夫になれるんだと、その気持ちだけを増やそうとしていた。でも、これからどうなるんだろうという思いや、今の状況を卑下する思いが、容赦なく押し寄せてきた。何度振り払っても暗雲はいつでも私の回りに立ち込めていた。そんな中で、私に差し出された一筋の光だと感じた。布団の中で、私は少しずつ沖縄へ行こうという気持ちが膨らんでいった。

 夕食の時、両親に私の決断を伝えた。両親はその決断に前向きな光を見出しているように賛同してくれた。二人は、私がうつ病になってどれほど心を砕いていたのかが、ひしひしと伝わってきて、私は涙を隠すことができなかった。

「大丈夫よ。すべて笑顔になれる方へとちゃんと進んでる。そう信じて。ほら、よく言うじゃない、明けない夜はないし、止まない雨はない。必ず朝は訪れるし、必ず晴れもやって来るってね」

「そうだ。山より大きいイノシシは出てこん」


 そして私は、本島より一足早くに梅雨明けした沖縄へと飛び立った。その日、那覇空港に麻子さんが迎えにきてくれることになっていた。私は、お母さんの友人と出会うのは、初めてだった。私がまだ赤ちゃんの頃、麻子さんは何度か私の家へ遊びに来たことがあったそうだが、私にとっては、麻子さんは初対面の相手と同じだった。けれど、到着ロビーで、麻子さんのことを、すぐに見つけることができた。麻子さんだ、とすぐに分かった。赤ちゃんだったとしてもちゃんと記憶は残っていたのかもしれない。私は、麻子さんへと近づくと、麻子さんも私だと気付いたようだった。

「よう、来たね」

 麻子さんは、少し日に焼けた顔に満面の笑みを見せた。細いけれど引き締まった腕を伸ばして、私の肩を何度かたたいた。

「はじめまして。真奈といいます。色々とありがとうございます」

「真奈ちゃんが赤ん坊の時、会ってるのよ。私にとってはお久しぶりになるわね」

 そう言って、麻子さんは笑った。

「さぁ、行きましょ。車で1時間くらいだから」

「はい」

 沖縄にはもうすっかり真夏の太陽が輝いていた。光の強さや量さえも全く違うと感じた。ずっと布団の中で包まっていたせいで、より眩しく思った。麻子さんは軽トラックをかっこよく乗りこなして、北へと走らせた。全開になった窓からは、海の匂いが混じっている気がした。

「暑いでしょ、ごめんね、エアコン壊れちゃってて」

「いいえ。気持ちいい風です」

 大きなエンジン音をくぐって、大きな声を上げた。こんなに大きな声を出すのは久しぶりだと思った。しばらくすると、麻子さんは、左へと進路を取った。

「ちょっと、お参りしたいところがあるの。いい?」

「えっ、あ、はい」

「私、あんまり那覇へは出てこないんだけど、こちらに来ることがあったら、必ずお参りに行くところがあるの」

「はい」

 しばらく進むと、神社の鳥居が見えた。麻子さんは、鳥居の横に伸びる道を、アクセルを思い切り踏み込んで上がった。

「波上宮という神社。熊野って行ったことある?」

「いいえ」

「熊野の神様をお祀りしてるんだって」

「そうなんですか」

 麻子さんは車を軽快に降りていった。私は急いで降りた。そして私たちはお社へと階段を上っていった。手水でお清めをして拝殿へと向かった。私は、熊野の神様がお祀りされているとはいえ、沖縄の神様にも通じるようにと、ご挨拶をした。沖縄でしばらくお世話になります、そう心の中でお祈りした。お参りを終えると、麻子さんは、笑顔が一層際立っていた。

「私の大切な仏様がもうひとかた、いらっしゃるのよ。こっち」

お参りが終わったと思って車に向かっていた私に、麻子さんは言った。私は急いで麻子さんの背中を追いかけた。坂を下っていくと、海が見えてきた。

「海」

「これから、嫌でも見続けられるわよ」

「はい」

 石碑に手を合わせて、左の方へと歩を進めた。

「戦争で亡くなった方々の石碑ね」

 しばらく進むと、少し階段を上ったところに、お地蔵様が立っていらっしゃった。私は、そのお顔を見上げて、思いがけず涙がこみ上げてきた。お優しく柔和なお顔のお地蔵様だった。よく来たねとおっしゃってくれているようだった。私は、麻子さんに泣いていることを気付かれないように、懸命に堪えた。そして、麻子さんと同じく、目を閉じて手を合わせた。心にぬくもりが湧いてきている。その嬉しいあたたかさは、涙を誘い続けた。麻子さんは、しばらくそのままでいた。私は、思わず立ち上がって、後ろを向いた。するとそこには太陽がちょうど目の高さに輝いていた。私は頬を拭うと、大きく息をついた。ここに来られたことをありがたく思った。

「お待たせ。行きましょう」

 そうして、私たちは車へと戻った。

「私が、沖縄に初めて来た時、この神社とお地蔵様にご縁があったの。特にお地蔵様は、あの頃の私のすさんだ心にね、ものすごい光を与えてくれたの。和光地蔵菩薩様ってお名前なんだけど、まさに和やかな光をくださったのね。お母さんから、ちょっと聞いてるの。大変だったわね。私もうつ病になったことがあるから、その辛さとか私なりに同感できるところはある。でも、大丈夫よ。今の私、見て」

 麻子さんは、運転しながら両手を広げて、私に笑顔を向けた。私が驚いた顔をしたのを見て、麻子さんは慌ててハンドルを握って大きな声で笑った。

「ハハ、ここ那覇だった。安全運転、安全運転」

 私も笑った。麻子さんは、私の様子を見て、微笑んだ。

「手伝ってほしいことがいっぱいあるの。一応、居候という形になるから、一日何時間か仕事を提供してほしいの。それで食事と1部屋ってことで」

「ありがとうございます。はい、色々と言ってください」

「結構、ハードよ」

「は、はい」

「ハハ、大丈夫、大丈夫。無理だけはしないでね」

「はい」

 麻子さんの軽快な笑いは、私の心を解きほぐしてくれていた。1時間ほど車に揺られて、麻子さんの自宅に着いた。途中、小さな集落の中を通って、麻子さんの働く診療所も紹介してくれた。麻子さんのお家は、小高い丘の上に建っていた。白いコンクリート地で、かわいらしい建物という印象だった。

「ここ、夕陽の絶景ポイントよ」

 美しい夕陽が、ちょうど水平線と交わっている瞬間に立ち会えた。玄関の前は、広めの広場になっていて、一角には畑がつくられ、パラソルやチェアーも置かれていた。夕陽がすっかりと姿を隠してしまうまで、私はその美しさに動けなくなった。麻子さんもチェアーに腰を降ろして眺めていた。久しぶりだった。こんなにきれいな夕陽や夕焼けに染まる素晴らしい空を見たのは。

「さぁ、夕食でも作ろうっか」

 そう言って、麻子さんは家の中へと入っていった。私は、大きな鞄を荷台から降ろすと、麻子さんの後を追いかけた。

 玄関を入ると、右手に広い部屋がありキッチンとリビングになっていた。正面の廊下の奥には、お風呂場などがあり、左手には、2部屋ある平屋のお家だった。

「ねぇ、さっき1部屋って言ったけど、ここ、ごめんね、いっぱい荷物あるね」

「いいえ」

 8畳ほどの部屋の三方に荷物が色々と積まれていて、その中心部分に4畳ほどの空間があった。

「急いで片付けたんだけど、これぐらいしか空かなくて」

「ありがとうございます」

「布団は敷けるから」

 そう言って、片隅に積んである布団を教えてくれた。

「ありがとうございます」

 その日は、簡単なものと言って、ゴーヤチャンプルを作ってくれた。初めての沖縄の夜は静かにふけていった。

 次の朝、私は日の出と共に目覚めることができて、久しぶりに体を起こすことができた。この当たり前のことが、ひとときできなかったのだ。その辛かった分、私は一日で起こった自分自身の変化に驚いていた。家族ではなく、麻子さんという大切な存在となりつつある他人と同居しているという緊張感が、私にとってはいい方向へと働いているのかもしれない。そう思うと、沖縄に来てよかったと、安堵する私がいた。私は、診療所へと向かう麻子さんを見送って、任された仕事である掃除と洗濯に取り掛かった。時間はかかったけれど、やり終えた時は嬉しさが心を動かした。次の休みに畑仕事を教えてもらうことになっていたので、それまでは、家の中の仕事を終えるとやることがなくなってしまった。私はリビングの床に寝転んで、空を眺めていた。麻子さんは、おやつの時間に戻ってきた。後で知ったのだが、その日は早めに仕事を終わらせてもらっていたそうだ。一人にしていることを心配してくれていたのだ。それから、麻子さんは、早めに夕食の準備をはじめて、その日は、歓迎会といってたくさんの料理をご馳走してくれた。

「真奈ちゃんは、泳ぐの好き?」

 麻子さんは、ジーマミー豆腐を美味しそうに食べながら言った。

「はい。中学生の頃は水泳部に入ってました」

「へぇ。ねぇ、水着持ってきてる?」

「いいえ」

「そっか、じゃあ、次の休みに近くのショッピングセンターに行こう。水着買いなよ」

「は、はい」

「その後で、畑のことやってもらおうかっな。それから、何か自分でしたいなーってことができたら、気軽に言ってね。あっ、そうだ、前田のおじいのところに使ってない自転車があるんだって。自転車あると、色々まわれるし、買い物なんかもお願いできるから、借りてこようか」

「はい」

「よし、きまり」

「ありがとうございます」

「いいえ。ホームシックとかになってない?大丈夫?」

「大丈夫です。今のところ」

「ハハ、まだ1日だもんね」

 私はその夜、家に電話をした。電話に出たお母さんからは、少しほっとしている様子が伝わってきた。そして、麻子さんに電話を変わると、二人の電話はしばらく終わない様子だった。私は麻子さんの明るい声を聞きながら、外に出た。空には星が輝いていて、お月様が満月へと向かって膨らんでいた。両手をお月様へと向けて体いっぱいに伸びをした。空へと顔を向けて、思った。この沖縄できっと新しく再生するからね、麻子さんの声の向こうにいるお母さんに向かって思った。


 麻子さんのお休みの日。私たちは、一番近くの街にあるショッピングセンターに行って、私は水着とゴーグルを買った。そして、帰り道に前田のおじいの家へと立ち寄った。おじいに挨拶すると、優しい笑顔で迎えてくれた。おじいは自転車に乗ってみなさいと言った。私は跨ると、ちょうどよい具合に足が地面に着いた。おばあは畑でできた野菜を袋いっぱいに入れて持ってきてくれた。私たちはお礼を言うと、ショッピングセンターで仕入れてきたお饅頭を手渡した。

「また遊びに来なさい」

「はい」

 そう言って私たちは別れた。この町に私の第2の居場所を作ってくれたのは、この前田のおじいとおばあだった。

 それから、私は何かと忙しい毎日を過ごした。麻子さんのお家のことをした後に、前田のおじいやおばあのお家のお手伝いもするようになって、一日に何度か行き来するようになった。おじいから麦わら帽子をもらったのだが、沖縄の太陽は容赦なく、私の肌をこんがりと焼いていった。そんな日々の中で、私は毎日必ず海へ泳ぎに行くようになった。日中は暑すぎて、海には入れないので、朝か夕方に海に行く。いつしか私は素もぐりができるようになっていた。

 8月に入ってすっかり沖縄の生活に慣れた頃だった。私は朝の海へと泳ぎに自転車を走らせていた。すると、海に向かう道の途中で、大きなリュックサックを背負った外国人の男性を追い越した。私は、自転車を走らせながら、少し振り返ると、その男性は飛びっきりの笑顔で手を振った。私は驚いて、急いで手を振りかえした。バックパッカーの旅人が、ここに何しにきたのかなと思った。このあたりは特に観光地があるわけではなかったからだ。色々と聞いてみたいという気持ちは盛り上がったが、なんせ私は全く英語が駄目だった。学生時代、英語の成績はいつも赤点ギリギリを記録し続けた。だから半ば逃げるように、そのまま自転車を走らせた。

 私は、その日いつもよりすこし遠くまで泳ぐことにした。今日も海の中は美しい世界が広がっている。色とりどりの魚たちが、優雅な散歩をしていた。麻子さんから、珊瑚のお花畑があるのよ、と教えてもらっていた。今日はそのお花畑を探してみようと思ったのだ。おおよその場所は教えてもらっていたが、私はどこにあるのか見つけられずにいた。しばらく海底を探索していると、前方に何かが動いているのが見えた。私はその時とっさに、イルカだと思って、一気に心臓が高鳴った。その体の変化で息が苦しくなった。私は急いで海面へと上がると、ちょうど正面に人の頭があるのを発見した。目を凝らすと、さっき自転車で抜かしたあの男の人だった。その人は、すぐに海の中へと潜った。私も急いで潜って、男の人がいた方へと泳いでいった。すると、あの男の人が私に向かって手を振っている。さっき自転車で通り過ぎたときと同じような笑顔だった。私はさっきと同じように手を振り返した。そして、その男の人は、自分の左側に向かって大きく指差す仕草をしていた。私は、何かがあるのだと思い、その方へと泳いでいった。飛び出した岩を周って、目に飛び込んできたのは、まさに珊瑚のお花畑だった。赤や白、青っぽい珊瑚もある。私は、水中でしばし時を忘れた。お花畑が陸の岩場に沿って、長く続いている。私は息継ぎをしながら、しばらくその光景に見入っていた。男の人の姿は、いつの間にか消えていた。私はあたりを見渡したが、どこにもいなくなっていた。午前中に前田のおじい、おばあの家でお手伝いをする約束をしていたので、私は急いで浜へと向かった。砂浜に上がると、そこにはあの男の人の大きなバックが無造作に置いてあった。なんて無防備なんだろう、と微笑むと、急いで自転車に跨った。

 夕方、明日お休みの麻子さんは、嬉しそうにビールを買ってきた。庭のパラソルの下で、飲もうと誘ってくれた。私にとって、久しぶりのお酒だった。簡単なおつまみを作って、私たちは星降る夜に祝杯をあげた。

「今日、やっと珊瑚のお花畑を探し当てられたよ」

「そう。よかったねー」

 麻子さんは、もう顔が赤くなっていた。

「外国人の男の人がね、教えてくれたの」

「あら、フィリップ?」

「え?知ってるの?」

「今日、知り合った」

「フィリップっていう人?」

「そうよ。フィリップ。かわいい男の子よ。とってもキュートでオープンハート」

「麻子さん、英語しゃべれるの?」

「そうよ。救急にいた時は、外国の方が運び込まれることもあったから。必要に迫られて勉強したりしたな」

「すごーい」

「思いなんてね、伝えようと思ったら、いくらでも伝わるものよー。そうそう、話したい言語を習得するには、その言語圏の恋人を作ると、すぐに話せるようになるわよ」

 麻子さんは楽しそうに笑いながら、ビールの缶を傾けた。

「今日は、先生の家に泊まることになったの、フィリップ」

「診療所の?」

「そう」

「へぇ、ここに何しに来たんだろう」

「さぁ、ヒッチハイクして、この近くまで乗せてもらったみたいよ」

「へぇ」

 麻子さんはすっかり酔っ払っていた。

「須藤先生は、私が辛いときにね、手を差し伸べてくれた恩人なのよ」

 私も、少しお酒がまわって、ぼーっとしてきた。それでも、鮮明に麻子さんの話が、頭に流れ込んできて、頷きながら聞き入った。

「須藤先生は、私が救急で働いていた時、同じ病院の医師だったの」

 麻子さんは、急に神妙な面持ちになって話し始めた。

「内地で看護師してた時は、それはそれは忙しい毎日だった。救急医療の現場は、よく言えば、やりがい十分。過酷な時もあったけど、使命感みたいな気持ちが、自分の支えになってた。医師も看護師も、今この瞬間も自分の持ち場で精いっぱい頑張ってる。どの職業もそうだけど、みんな頑張ってる。私は、看護師として、この仕事に誇りを持ってた。だから、少々の辛さも頑張ってこられた。まぁ、今もここで誇りを持って仕事をしてるけどね。…救急で一番辛かったことは、受け入れを拒否しなければいけないときね。すぐそこまで苦しんでいる人が来てるのに、助けてあげることができないの」

 麻子さんは、空を見上げた。私も同じく空を見上げてみた。

「麻子さんの話を聞いてて、私、高校生の時、母の勤めていた病院ではない病院で入院したことがあったの。その時、看護師の方々の強くて優しい対応に感動したことを思い出しました。看護師さんみんなが一人一人に丁寧に対応してくれる」

「素晴らしいね。入院の患者さんの対応には、入浴介助とか排泄のお世話とかあるものね。でも、的確に対応できる看護師みんな、本当に素晴らしいわ」

 麻子さんは、微笑みながら言った。しばらくして、また話し始めた。

「須藤先生のことね…、須藤先生は、医師不足の地域の医療について、ずっと考えていた。都内の大きな病院で自分の経験を積んだら、いつか、自分の故郷で診療所を開くことが夢だって、教えてくれたことがあった。須藤先生とは、科が違ったのに、よく会って話したの。飲みに行ったり。恋人とは違う、親友、同士みたいな話しやすさがあった。そしたら、沖縄で診療所を開いたら、看護師として来てくれなんて冗談言ってたことがあったの。あの頃の自分が、本当にそうなるなんて想像もしてなかったな」

 麻子さんは、ビールを飲み干して、もう一本のプルトップをつまむ音がした。

「私がうつになったのは、たぶん結婚生活の破綻が原因ね。結婚生活は夫婦すれ違いの毎日だった。夫とは、病院で出会った。彼は薬品会社の営業だった。彼から声を掛けられて、なんとなく、付き合って、それで、なんとなく結婚した」

 麻子さんが私を見て、にこっと笑った。

「なんとなく?」

「そうじゃないか。その時は、純愛、熱愛だと思ってた。でも、日々の生活ですれ違っていった。私も悪かった。仕事のストレスをそのまま家に持ち帰ってたりして。結婚して十年経ってたけど、子どもも授からなくてね。夫も居心地悪かったんだと思う。夫の浮気が発覚してね。私はそんなことにも気付けないくらい夫のこと見てなかったのね。その浮気はかなり長い付き合いだったみたい」

 私は視線を麻子さんに向けた。麻子さんは静かに過去へと戻っていた。

「そして、離婚が成立。私はそのことが大きなきっかけ、ね。それまでも兆候はあったんだろうけど、仕事の忙しさで自分自身の精神状態まで気を配ってられなかった。私は全くやる気を失ったの。毎日家に閉じこもって、何にも手につかなくなったの。子どもでもいたら、また状況は変わってたんだろうけど。仕事を休職することになってね。」

 私は黙って、耳を傾けた。

「須藤先生は、ちょうどその頃に、沖縄への準備を始めてたの。私の休職を知って、心配して連絡くれて。そしたら、本当に、看護師として沖縄に来いって。かなり強い口調で言われたの」

「すごいね。すぐに決められたの?」

「ううん、すぐではなかったの。私なりに、救急に戻りたかったし、自分の活躍できる場は、救急の医療現場だと信じてたから。でもそこにいられない自分に腹立たしくって…」

 麻子さんの明るい雰囲気が少し陰っているように感じられた。

「そしたら、須藤先生が何度も何度も、連絡をくれて。看護師が必要だから、元気になったら戻ればいいからって」

「麻子さんのことが本当に心配だったのね」

「今思うと、本当にありがたいことね。須藤先生がいなかったら、あの後私、どうなってたかわからない。それなりにやってるのかな」

 陰っていると感じた印象が、晴れやかな感じに変わった時に麻子さんは大きな声で立ち上がった。

「もう過去は、これでバイバイ!だ!今が、こんなに幸せなんだから、過去ももう大丈夫なんだよ」

 そして、麻子さんは私の方へと向いて笑顔を向けた。

「真奈ちゃんも、そう思える日が必ず来るよ!ってか、もう今、幸せいっぱいに見えるけど。なんくるないさぁ~」

 麻子さんは、ケラケラと笑った。

「そうですね、今、とっても幸せだって分かります」

「どんな病気もね、自分の中にある力で、治るのよ。病気が自分の眠っている可能性を呼び覚ましてくれるの。どんなに辛くても、自分の中にはすごい力が宿ってる。それを信じる。須藤先生は西洋医学と東洋医学を融合させた医療を目指してる。見えない力も病気に働きかけることができるって信じて診療所をやってるの」

 麻子さんは、今夜はお酒がよく進んだ。

「あっ、そうだ。明日は真奈ちゃん、お休みね。自分の好きに過ごして」

「ええ、いいんですか?」

「一日だけね。あさってからは、また色々お願いするから」

「はい、じゃあ、お言葉に甘えて」

「いいぞ!甘えなさい!」

 麻子さんはそうして片手を空に向かって上げると、そのままビールを飲み干した。酔っ払っている麻子さんもとっても愛らしくて、私はますます麻子さんが好きになった。

 

 ずっとお休みの身に訪れたお休みという名の日、私はやはり早朝から海へと向かった。もう一度珊瑚のお花畑を見たいと思ったからだ。そして私は、またあの外国人、フィリップに会えるかなと少し期待していた。また会ってみたい気がしたのだ。それでも海へと向かうサトウキビ畑の間の道にも、砂浜にも、姿は見当たらなかった。もう帰ったのかもしれない。たった1日だけ立ち寄って、今日はまたヒッチハイクで別の町へ行ったのだと思った。私は、水着になって海へと入っていった。昨日教えてもらったお花畑にたどり着くと、なんとそこに、フィリップがいた。フィリップは、水中でも満面の笑顔をしていた。私は思いがけないプレゼントを差し出された感じがして、嬉しさがこみ上げてきた。その気持ちが笑顔になってこぼれたとたん、海水を思い切り飲み込んでしまった。私は急いで海面へと上がった。むせ返って、しばらく苦しい呼吸をくり返した。そこへフィリップがやってきて、私の顔を覗き込んだ。間近になったフィリップの顔に驚いたが、その青く澄んだ瞳を見て、一瞬でとりこになったような心持ちがした。フィリップは首をかしげて、何か英語を話していたが、私には何を言っているのかは分からなかった。心配してくれている気持ちを表情から読み取って、私は精一杯の笑顔を返した。落ち着きを取り戻すと、フィリップは私に手のひらを差し出した。私は握手をするんだと思って、フィリップの手のひらをつかんだ。笑顔だけの挨拶が終わると、フィリップは、また英語をなにやら話して、人差し指を海の中へ向けた。一緒に潜ろうという合図だった。私たちは、手を繋いだまま海の中を泳いだ。フィリップはこの海の中を熟知しているみたいに、私の知らない素晴らしい海の世界をたくさん見せてくれた。私は、繋いだ手から伝わってくるフィリップのぬくもりと彼を流れているものすごいあたたかくて優しい感情を感じ取った。どんどん充足感と安心感が体を満たしていくのが分かった。私たちは、同じテンポで息継ぎをしながら、今まで一人では行けなかったような沖までたどり着いていた。その海底は、今までの珊瑚や岩場がつづく場所とは異なり、水深がかなりあった。白い砂地が海底に広がっている。すると、フィリップは、一人海底へと沈んでいった。そして、私の方に顔を向け体を仰向けにした体勢で、海中のベッドに横たわった。そして、フィリップは、口からたくさんの泡を出した。その泡が昇るにつれて、円が大きくなっていった。私はその輪っかに手を伸ばした。輪はどんどんと昇ってくる。私の体に幾度もぶつかっては消えた。その輪が消える瞬間、あたたかさが体に伝わった。私はしばらく体を浮かせて目を閉じた。そして、体を丸めた。母なる海の中で胎児に戻るように。私は、こうしてまた生まれ落ちるのだ。新しい世界へと。そういうイメージが神聖という言葉とともに浮かんだ。息継ぎをしようと海面へと上がってあたりを見渡した。浜は全く見えない距離にいた。それでも不思議と不安や怖さを感じなかった。太陽の光を顔に受けて、私は海面に浮かんだ。すると、フィリップが海面に浮上してきた。私を見つけると、近くに寄ってきて、また何かを話しながら、指を太陽の方角へと向けた。私は、首をかしげると、フィリップは私の手を取った。その時、浜に戻ろうという気持ちが伝わってきた。私たちは、また手を繋いで浜へと戻った。砂浜へと足が立った時、体は心地よい疲労感に包み込まれていた。それでも体はもちろん心もエネルギー満タンといった感じだった。私は、近くの木陰へと歩いていくと、その場に寝転がった。このまま眠れそうだった。頭上の木々が風にゆれている。少し目を閉じて、私は満たされている感覚を味わった。フィリップが静かにやってきて、私の横に座ったのが分かった。私は体を起こして、フィリップに言った。

「フィリップ…だよね」

「Yes,Why do you know my name?」

 私の耳は、Yesでギブアップだった。私は、手を合わせてから、耳を指差しながら首を振った。

「WHY DO YOU…」

 フィリップは、今度はゆっくりとした英語を話した。それでも分からない私は、悲しい顔になったのだろう。フィリップは、笑顔になって、肩をひとつポンとたたいた。

「ごめんなさい、英語わからないの…」

 とても悔しくなった。英語をもっと勉強しておけばよかったと初めて思った。お互いに話したい気持ちがあることはひしひしと伝わるのに、叶わない願いだった。それでもフィリップは何とか会話を試みようとしてくれた。そんなフィリップに、私は、ひとつだけ自分が感じたことを伝えようと思った。私は砂にイルカの絵を描いた。そして、何度もフィリップとイルカの絵を交互に指差しながら、”貴方はイルカだね”というメッセージを伝えた。フィリップは、笑顔になった。

「Thank you! Glad! I wish I were a dolphin. My wish.」

 イルカの単語が何とか聞き取れて、伝わったのかもしれないと嬉しくなった。

「My name is fillip. but call me fill. call me "FILL".」

 フィリップは、フィリップという単語とフィルという単語を何度も口にして自分の胸に手を当てた。

「フィル?」

「Yes ! Yes. FILL. What's your name?」

 とっても基本的な英語だが、私にとっては奇跡的に意味がわかってうれしかった。

「マナ。わたしは、マ、ナ」

「mana」

「イエス、マナ」

「You are like a hawaiian Mana!」

 そう言って、フィルは笑った。ハワイと聞こえたけれど、ハワイの何かまでは分からなかった。でもなぜかうれしい気持ちになった。それから、そのまましばらく二人は黙ったままで海を眺めていた。私はこのままでいられたらいいな、と思った。その瞬間、フィルは私の方を向いてそのステキな笑顔とともにうなずいた。麻子さんはオープンハートだと言っていたが、確かにその開かれたハートから惜しみなく愛を放射している。側にいる人や、最低半径1メートルにあるものはすべてこの愛を受け取ることができるんだと思った。その愛は、人を幸せにする力があると思う。さっき海の中で手を繋いで泳いでいた時、私が感じた充足感を思い返した。手を繋いでいただけなのに、私たちはひとつになれたような気がした。手を繋いだだけでこんな感覚を味わったのは初めてだった。こんな形で人はひとつになれた感覚を味わえるのかと不思議な気がした。その感覚を味わえるのは、セックスのようなもっと身体を深く交わせることによって得られるものだと思っていた。何かの本で読んだことがあった。セックスは神聖な儀式とされていた時代があった。二つの魂が一つになって、宇宙と繋がる壮大で厳粛な儀式のひとつだと書いてあった。フィルと繋いだ手と体全体で、私たちはまさに海という広大な宇宙につながることができたのかもしれない。フィルとこの海とそして今というかけがえのない時間が私に与えてくれた素晴らしいギフトだった。あの時、心に押し寄せてきた充足感や安心感、そして幸福感は、フィルが開いてくれたドアから流れ込んできた大きな海の愛だったのかもしれない。そう気付いた時、私は大丈夫だと思った。あんなに偉大な愛に私たちは囲まれているんだ。その真実は私をもう大丈夫なんだよと優しく抱きしめてくれていた。

 フィルは、手元へ自分のリュックサックを引き寄せていた。こんなに大きな鞄をどこに置いてあったのか、海に入る前に全く気付かなかった。フィルはその中から冊子とペンを取り出した。砂浜に無造作に広げると、世界地図だった。そして、カナダを指して、自分の胸に手を当てた。フィルはカナダからやってきたのだ。そして、ペンは、太平洋を渡り、東京で止まった。そして、関西のあたりにぐるりと丸をして、それからペンは沖縄へと向かった。フィルがたどった旅の軌跡だった。そして、次にそのペンの先は、沖縄に留まることなく、西へと向かった。そして、フィルは地図に顔を近づけて、小さな一点を差した。私はその一点を覗き込むと、そこはバリ島だった。ペンはそこで動きを止めた。そこが最終目的地なのだと分かった。そして、フィルはまた沖縄へと戻ると、そこに大きなハートのマークを沖縄の島の周りに書いた。そして胸に手を当てると、丁寧に目を閉じておじぎをした。そしてなんとも柔和な微笑みを浮かべた。沖縄が大好きだというメッセージだと思った。私も指でハートのマークをなぞった。そして胸の前で手を合わせた。私たちはできるだけやさしく笑顔を投げかけあった。

 フィルは、鞄の中から、洋服を取り出して、体の砂を払いながら、着始めた。今日、フィルはこの沖縄から旅立つのが分かった。その瞬間、淋しさはもちろん感じたけれど、それよりフィルのこれからの旅路の大いなる祝福を祈っていた。フィルがそのイルカのような愛を、いつまでもこの世界に広げ続けていてほしいと願った。フィルのような魂は、もしかしたらこの星へ愛を広げにやってきてくれた心優しい異星人かもしれないとさえ思った。この星の旅路は歩きづらい時があるかもしれない。でも必ずそんなときにはたくさんのサポートがあるように、そう強く祈る想いだった。フィルは、身支度を整えると、私にきれいな腕を伸ばした。私はその手のひらからイルカのペンダントを受け取った。私は、驚いて、思わず声を上げた。

「present for you」

「プレゼント?」

「Yes, present」

「ありがとう。あっ、サンキューベリーマッチ」

「My pleasure. Thank you so much. You gave me so wonderful time.

Thank you so much for giving your beauty to this world!」

 お手上げだ。あー何で分からないのだろう。悔しくなった。その時私は、英語をしゃべれるようになろうと、決めたんだ。フィルは、リュックサックを持って立ち上がった。私は、同じく立ち上がったが、体が揺らめいた。ここでお別れだと思った。フィルは、私の体に優しく手を掛けると、私たちはとても静かに抱き合った。触れるか触れないかの距離で、思いやりとか優しさとか、人にとって心地のよいすべての感情がフィルと私の間に、光の玉となって膨らんだ。私たちは微笑んで、お互いを見合うと、その光の玉は割れて世界へと広がっていった。私は、フィルを木陰で見送った。フィルはもう姿が見えなくなるという所で振り向いて、満面の笑顔で手を振った。私たちは手を振って出会って、そして手を振って別れた。私はフィルの姿が見えなくなってもしばらく手を振り続けた。腕が痛くなるまで手を振りながら、私は心地のよい涙を味わった。涙はとめどもなく流れ続けた。私は、そのまま木陰に寝そべった。あたたかすぎて、うれしくて、そしてちょっぴり淋しくて。私はそのまま眠ってしまっていた。心地のよい眠りだった。顔に眩しい光を感じて、目が覚めた。すっきり爽快な目覚めだった。そして、私は高熱を帯びた砂の上を走って、海に飛び込んだ。海の中に潜って、私は手を合わせた。感謝という言葉を脳裏に焼き付けて、この気持ちが海に伝わっていくことを願いながら。沖縄という島、この島を取り囲む海、ここに住む人たちは、私に惜しみない愛を与えてくれた。私は、この愛を携えて、新しく歩き出そう。この愛をいつか必ず私も放射できますように。そして、この世界がそれによって少しでも輝きますように。


 8月の終わり、私は麻子さんの家から自分の家へと帰った。それから私は英語をしゃべれるようになるという決断を目標にして、そこからバイトをして資金を貯めた。母の勧めで、総合病院の精神科にいい先生がいる情報を得て、精神の安定を図るカウンセリングと投薬をしばらく続けた。そしてついに、フィルの故郷であるカナダへと留学したのだ。そして2年の留学を終えて、日本に無事戻って来たのだ。

 私は、自分の旅路の途中で、あの時初めて深い森の中へと入ったのだ。そこは光が乏しく、あまりに暗く、聞いたことのない鳥の声に驚き、私は恐怖に縮こまっていた。それでも森の中にはたくさんの導きと祝福と応援があって、私は歩くことができたのだ。決して立ち止まってはいなかったのだ。そうしたら、私は一筋の光が差すのを見た。その光を頼りに歩いていくと、私の目にキラキラと輝く砂浜が広がった。太陽が眩しくて、あたりは光いっぱいで。私はその光を浴びて、また旅を続けることができたのだ。いつかまた、私の旅路は深い森をたどっているのかもしれない。もしかしたらトンネル、なんてこともあるのかもしれない。でも、必ずその先には、光輝く新しい世界が広がっているんだ。私はそうやって、きっとずっとずっとこれからも歩いていくんだろう。お日様の光に力をもらいながら、木々そよぐ風と戯れながら、大いなる海から愛を受け取りながら、このあたたかな大地を歩いていく。笑顔で歩いていく。


「おはよう。みんなげんき?」

 カレンさんは楽しい声を響かせて、部屋に入ってきた。みんなが笑顔で迎える。

「わお、まなさん、すてきね!Dolphin! I love dolphins.」

「Me too.」

 カレンさんは、私の胸元にあるイルカのペンダントを手に取った。そして、向日葵笑顔を向けて言った。

「Your smile is like a dolphin よ!」

「わぁ、Thank you!」

「さぁ、Meeting time!everyone!」

「Yes, Here we go!」

「Here we go!!」


読んでいただきありがとうございます。

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