第43話 家政婦は見たの図
市原悦子さん…好きでした。
3人は思わずリズと王子と二人を眼だけで交互に見てしまう。
いよいよ、その距離がゼロとなり今度は顔が近づいていく!
(ヤババババババ!)
スッと田中が立ち上がってリズの両肩を抱いて違う場所へと誘った。残った野次馬そのまま除きを続行!二人は見た。見てしまった…顔を覆いながらも指と指の間はしっかりと開いていた。
(見ちゃった…)
こそこそとその場をニーナとプリシアは離れリズの方へと行く。
「シッ!」
今度はプリシアがニーナを押さえて隠れさせる。プリシアがこっそりとそちらの方を見たのでニーナもこっそり見る。
リズが田中の胸で肩を揺らして泣いていた…
田中はおそるおそるリズの肩を抱いた。
(田中から心の汗が見える!)
ここで出て行くのは野暮ってものでしょうよ…ニーナはプリシラを連れてその場を離れた。
さぁて!あんの浮気男!!どうしてくれようか!!
怒りに燃えるニーナであった。
※※※※※
カウンターの向こう側にヒロがいる。
「ねぇ、アンタ、もしもよ?友達の彼氏が他の女と一緒にいる所を見ちゃったらアンタならどうする?」
「えぇ?そりゃ友達に言うでしょうよ」
「馬鹿ねぇ。そしたら友達が傷つくじゃないの。その三角関係のトップはだぁれ?」
「友達の彼氏?」
「そうよね?じゃ、その友達の彼氏に『どっちにするの?』って聞けばいいじゃない?それで友達が振られたらそれはそれまでだったのよ。戻ってくるなら戻ってくるでいいんじゃない?」
「えぇぇ?」
「真実だったらなんでも知らせればいいってもんじゃないのよ。『知らない方が幸せ』って事もあるのよ。お子ちゃまね~」
ヒロがカウンターの向こう側から手を伸ばして私の鼻を摘まんだ。
※※※※※
目が覚めた。また前世の頃の夢だった。
(いやいや、ヒロさん、友達もその彼氏の浮気を知っていたら?どぉしたらいいのよ?)
「おはよ~」
「おはよ~、あまりいい感じの朝じゃなさそうだね。なんかあった?」
「う…ん…、友達の婚約者の浮気現場見てしまった…」
「そ、そりゃ…いい感じじゃないね…」
「もし!もしもなんだけど!婚約者が浮気をしているのを見てしまったら…婚約解消ってできるのかな?」
「…相手の爵位の方が上だったら…難しいけど……明らかな不貞行為の証拠があれば…できるんじゃないかな…」
「明らかな不貞行為の証拠…」
(カメラも無いこの世の中で?)
テッド曰くやましい関係の二人はお互いの家には行く事はできないから、舞踏会の休憩室でいたすという事が多いらしい。そんなところを第三者にも見られたら逃げられないのではないかという事だった。
王子がそりゃ爵位的にもトップだからリズから婚約解消なんてできるはずがない…証拠をって言っても王子があの女性生徒とそこまでの関係なのかどうかも分からない…
(どちらにせよリズの心次第よね…私は許したくないんだけど…)
※
今日はいつもよりリズは遅く登校してきた。田中は心配だったらしく無言でガタッと立ち上がってリズを教室の入り口まで迎えに行った。
リズは泣きはらしたのか目の周りが少し赤かったが、それくらいで済んでいるのはきっと公爵家のメイドが上手く隠してくれたからだろう。
ニーナもプリシアも挨拶はしたがやはり何と声をかけていいか分からず、そっとしておいた。その代わり放課後にリズを捕まえ、お茶を飲める喫茶ルームまで連れて行った。田中が心配そうに見ていたが
「ダメ!女子だけ!」
シッ!シッ!と追い払った。
「昨日、今日と頑張ったね」
ニーナがリズを労うとリズの頬はあっという間に大洪水で滝ができた。プリシアがハンカチでそれをせき止めていた。
「リズ…どうしたい?」
「わ…わからないのっ!7歳からよ?あの方の妻になるべくつらい時も頑張ってきたのよ?」
「うん、うん…頑張ったね…」
ニーナに労われたらまた涙が滝になった。プリシアも必死で堰き止める。
「でも、貴族だもの。妾がいてもしょうがないわよね…ましてや王子なんだもの…側妃とかもいても普通よね?」
「えっ?!普通なの?」
プリシラの言葉にニーナは問う。
「このマルクルドではまだ側妃という制度は無いけれど、愛人がいたからアルフレッド様がいる訳よね?だから普通なのよ」
「ねぇ、《《普通》》って何?」
そんな事を考えた事のないプリシラは
「え?《《普通》》って…《《常識》》って事じゃないかしら?」
「《《常識》》?《《常識》》って誰にとっての?」
考えた事の無い哲学的な禅問答みないな質問に少しプリシラはイライラしながら
「知らないわよっ!《《常識》》は《《常識》》でしょ?《《平均的》》って事かしら?」
投げ捨てるように答える。
「《《平均的》》?この身分格差のある世の中で《《平均的》》なんて存在しないよね?《《常識》》だって所変われば…もしくは家庭が変われば《《常識》》なんて全然違うわよね。どこぞのおっちゃんの《《都合のいい価値観》》を《《常識》》って思いこまされてない?」
「ッ!」
プリシラはハッとして何も言えなくなった。きっと何か思い当たる節があるのだろう。
「ねぇ、リズ、私は《《普通》》や《《常識》》っていうのよりもリズの気持ちが大事なんじゃないかなって思ってるんだけど…」
ニーナは優しくリズに問いかける。
「……まだ……すぐ……には決め…られない……」
リズはそう発声するので精一杯だった。
(う~~~ん、やっぱりそうなると三角関係頂点の王子があの女性と本気なのか遊びなのかどうなのかっていうのを知っておきたいところよね)
知りたいと思っても王子と接点がない事には確かめようもない訳で…頭を抱えるニーナであった。
喫茶ルームから出ると田中が心配そうに待っていた。忠犬ハチ公かっ!