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第一話 なんじゃぁ!こりゃぁ!

 晴れた青い空が高く広がっている。高台にいる亜麻色の髪を一つにまとめシャツにトラウザースにブーツの女性は黒い馬に跨ってその下に広がる街を見下ろしていた。奥の方には田畑が広がっている。 手前の街の入り口にはたくさんの人たちが立っている。この女性の見送りの様ですでに距離があるため小さくなっていた。


「みんなぁ!元気でねぇーーーーーー!!」

(みんな!私の『くうねるあそぶ』のために!頑張るのよぉ!!)


 女性が大きく手を振ると随分と小さくなったのに見送りのみんなも振り返してくれる。


「ふふふっはははっ!」

 女性は笑いが止まらない。


※※※※※※※※※



『全米が泣いた!』


 なんていう謳い文句の映画で泣くぞ!って観に行ったはいいものの

一緒に観に行った連れに先に大泣きされると涙が引っ込んじゃって泣けなかった…

そんな事ってない?

今、私は正にそんな状況です。ハイ。


「ね、ねぇ、まだお色直しして戻ってきただけだよ?」

「だ、だってぇぇぇ!綺麗なんだものぉっ!

シーナ!アンタ本当頑張ったよ!

あんな浮気男と別れたはいいけどさ!

養育費なんて一瞬で来なくなって、差し押さえのために駆けずり回って一回は何とかなったけど、結局またトンズラされてさ!

それからは本当、アンタ一人で娘を育て上げてさ!

こんな立派な式もできて、ほんと、あんた頑張ったよ!」


 新郎新婦の親族が座るための末席で私の背中をバンバンとたたきながら横で大泣きしているガタイの良いお姐さんは私の親友のヒロシことヒロミ(♂)である。


 最近のおしゃれな言い方で言うならばLGBT?まぁ簡単に言ってしまえばオネエというヤツで、『ヒロシ』と呼ぶと怒るし、『ヒロミ』って感じでもないので私は『ヒロ』と呼んでいる。


「あら、イヤだ!イイ男!」


 さっきまで大泣きだったのに新郎の友人たちが余興を始めたらもうケロッとしている。

冷めた目で見つめていると


「ちょっと!シーナも見なさいよ!イイ男がいっぱいよぉ」

「いや、娘の旦那の友人だよ。子供と一緒だよ」


「もぉ!まだ50歳よ!100年人生でいったらまだ半分のLv50なのよ!トキメキ無くしてどうすんのよぉ」

「いやいや、彼らはそしたら4分の1のLv25でしょうが。ってか『トキメキ』なんてモノはもうとっくにどこかに紛失いたしましたけど」


「あぁぁ!もう!早いわよっ!もう娘も結婚したんだし!いいわよっ!トキメキ探しの旅に行きましょっ!」


「おっ!トキメキはともかく旅はいいね!城行こう!城!」

「はぁぁ?イヤよぉ!もうアンタと行く城は懲りた!城を攻める気持ちでぇ!とかいって中々城に入れないじゃないの」


「『お城ツアーズ』で『城は攻める気持ちで見ろ』って言ってたもん」

「はい出たぁ!シーナのTVっ子」


 親族が私しかいないため同じテーブルに座っている娘の友人たちがクスクス私達のやりとりを笑っている事に気付き二人で赤くなって黙って肘を突き合う。





「お母さん!シングルでも私の事をしっかりと育ててくれてありがとう!ヒロミンも第二の母として支え続けてくれてありがとう!

これからは幸せになってお母さん達に恩返しするからね!」



 結局式の最後の新郎新婦からのお礼の場にも新郎の両親、新婦の母の私と並び新婦の第二の母?として立つヒロに大号泣されてしまい、会場も正直引いていた。でも良い披露宴で幸せそうな新郎新婦の姿に幸福感ってこういう事かと実感できた。



 式もお開きとなり招待客がロビーの方で賑やかに立ち話に花を咲かせていた。


「二次会はヒロのお店だっけ?」

「うちの店じゃハコが小さいからさ、今日は前の店にお願いして(ハコ)借りたのよ」


「本当ありがとねぇ。ヒロが独立してくれて開店時間までは娘の面倒を見てくれたから私は仕事と子育て両立できた。感謝してるよ。ありがとう」


 こんな時じゃないと言えない感謝をヒロにぶつける。


「イヤだ。まだ涙出ちゃうじゃないの!たまたまアンタの離婚と私の独立が重なっただけよ!私こそ子育てに参加させてもらえて本当に楽しかったわ。普通のオネエじゃ経験できない事をさせてもらえて感謝しているのよ。次は孫ね。孫!」


「バカ!今の時代、そんな事言ったらセクハラだよ!」


「イヤな時代ねぇ。希望くらい言ったっていいじゃないの。

あっ!タクシー来たわ。じゃ、準備があるから行くわね」


 嵐が去って一気に私の横の空気の温度が下がる。

フゥッと一息つく。さぁて私も帰りますか。今日から一人だ。

帰ってシバ漬け食べたい。酔い覚ましも兼ねて歩いて帰りますかねと。


 日が沈んでやんわりと辺りが残りの陽光で赤から紫へと変わりつつあるマジックアワーの中を歩きだす。春でまだ少し朝晩は冷える。その冷たさが火照った身体にはちょうどよく心地が良い。


 娘の凛が小さい頃によく連れて遊んだ公園の前に来た。桜の花がやんわりと光に照らされてとても綺麗で見上げていた。


 すると視界の下の方を何かがよぎった。

あっと思った瞬間には身体がもう反応していた。

荷物を放り投げて、道路に向かってダイブ!

子供を突き飛ばす。

が、自分がもう向かってくる車のライトにかき消されていた。


 全てがスローモーションのようだった。


 視界の半分が地面と赤い液体。

でもその半分で子供が横断歩道の向こうから走ってきた母親に抱きしめられ泣いている。


『無事で…良かった…』

 口から出た言葉は息もまともに出ずに声にもならなかった。

一気に力が抜けて瞼も開けていられず視界が真っ暗になった。





 次に瞼を開けると見たこと無い天蓋がある天井……

豪華な病室?病院?えぇ?あれ?

頭がズキズキして頭を押さえながら上半身を起こす。


「いてててて」

 

 車とぶつかって頭を強打したのだろうか。

ふと手を見てみるとやけに白い。しわもなく荒れておらず少しふっくらしている。

視界に入ってくる髪の毛も黒くない!髪が長い!


 えっショックで白髪になった?



 立ち上がって壁にかかっている全身鏡を見る。そこには亜麻色の髪の長い、ちょっとデ……いや、わがままボディの少女が立っていた。


「な、なんじゃぁ!こりゃぁ!」


 白いジーパンは穿いてないけど叫ばずにはいられないのであった。


初めましてお読みいただきありがとうございます。

白いジーパン…「な、なんじゃぁ!こりゃぁ!」

分かっていただけるかしら…ドキドキです。

応援していただけたら幸いです。

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シーナの人生の転換点を描いた最初のシーンから、友情に溢れた披露宴の様子まで、感情の起伏が豊かで読んでいて引き込まれます。ヒロとの掛け合いが特に面白くて、笑いながらもほろっと来る瞬間があって、人間関係の…
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