宿屋での出会い
「トフィー、これからいろんなところを目指すなら、ちゃんとした装備も必要かな?」
『ええ、そうですね。ミカ様は高地で慣れておりますから軽装でどこでも行っていたようですが、やはりちゃんとした装備はあるに越したことはないわね。』
「そうだよね、私は軽くて動きやすい物が一番いいね。」
『ミカ様は武器を持ちませんから、その分楽だとは思うけど…やはり魔法を付与された装備などがいいかと思うわ。」
「魔法の服か…何かいいものあるのかな?でもそういう物は高価だよね?」
『はい、金貨何十枚もする物もたくさんあるわ….。』
「そう…だよね…。うーん、やっぱりお金を稼がないとだめだね。」
『冒険者になればミカ様と私の能力で、手っ取り早く稼げるとは思うわ。』
「冒険者か…考えてみよう。」
女将さんの店で食事しながら、トフィーとそんな会話をしていた。
今日はこの村に泊まり、明日の早朝に村を出て水晶の砦を目指すことにした。女将さんに部屋が空いてるか聞いてみると、大丈夫とのことだだった。宿泊は銅貨5枚で朝食つき、その他の食事はその都度支払う。
魔物の素材を売ってしまったので、荷物は着替えが少しあるだけだった。私は女将さんに連れられて、宿泊する部屋に案内された。
荷物を置き、まだまだ日が高かったので、村の中を散策することにした。
私はこのトグール村をちゃんと見て回ったことがない。師匠に連れられて素材を売って帰る、たまに女将さんの店で食事する、その程度だった。
村の人達は私を見かけると、気さくに声をかけてくる。師匠はここで武闘僧の仕事をしていると言っていた。主に祭祀や結婚の行事なんかをやっている、そんな話を聞いていた。
私に話しかけてくる人に、ルクスの弟子と伝えると皆笑顔で接してくれる。師匠はこの村で感謝されていたのがわかった。
私は心の中で、師匠に感謝の祈りを捧げた。そしてこの村で師匠が愛されていたのがわかると、私も嬉しかった。
ひととおり村を見てまわり、女将さんの宿屋に戻った。中で食事をしている客が数人いた。
その中で、ひときわ目立つ者がいる。体は大きく、顔や腕に傷跡が目立った。変わった剣を身に着けていた。体も大きく、茶色い短髪の人族の男だった。
ガツガツと料理を食べ、器まで食べてしまう勢いだ。歳は30は超えているだろう。
「女将さん!おかわり!」
「はーい、お待ちください」
一瞬私と目が合うと、その男はニコリと微笑む。私も何となく会釈する。
私が部屋に戻り、少しのんびりしていると、女将さんが呼びに来た。
私が女将さんについていくと、さっきの男性を紹介された。
「こちらはレイゲンさん、何でもルクス様に用があったらしいの…。たまたまミカちゃんが泊まっていたから、話してあげて」
「はじめまして、私はルクスの弟子でミカと申します。」
「はじめてお目にかかる、拙者は旅の武芸者でレイゲンと申す。実は武者修行の旅の途中で、近くにルクス殿がおられると噂に聞き、訪ねた次第にござる。しかし先程女将さんより、ルクス殿の訃報を伺い残念に思っていたところ、ミカ殿のことを紹介された次第にござる。」
レイゲンの口調は変わっていた。でも嫌な感じは受けない。その声は大きく力強かった。
「はい、実は…。」
私は師匠が3ヶ月ほど前に亡くなったことを伝える。師匠に育てられ、今までのことをレイゲンに話した。
「そうでござったか…辛いことを思い出させてしまい申し訳ござらぬ。拙者は是非ルクス殿と手合わせを願いたかったのでござる…いや、残念だ。」
どうやらレイゲンは、武者修行の為に武人として名高い「光拳のルクス」と手合わせをしたかったらしい。私はレイゲンに伝える。
「あの、レイゲンさん。私と手合わせをお願いできますか?」
「なんと!ミカ殿と手合わせを…しかし…。」
「私では力不足だと思いますが、ルクスに全てを教わりました。そんな私で良ければお願いできませんか?」
「ふむ、わかり申した。ではあくまでも練習としてお相手致そう!」
「はい!よろしくお願いします。」
そう言ってレイゲンは外に出ていく。私もそれに着いて言った。宿の裏手の少し広い場所だった。
女将さんはオロオロしているが、私は大丈夫とひとこと伝えてレイゲンと対峙する。トフィーには少し離れているように伝えた。
「幻流、レイゲン!ミカ殿、よろしく仕る」
「は、はい!光拳が弟子、ミカ!レイゲンさんお願いします!」
5、6歩離れたところでお互い向かい合った。レイゲンは変わった剣を中段に構える。私は師匠と組み手した時に教わった構えをとる。左手を顎の前に、右手を腰に、拳は軽く握った状態だった。体は半歩右足を引き、左足は少しだけ前に置く。
レイゲンに隙は無かった。あらゆる攻撃を弾き、自分の先手を取る、そんな構えだろうか。
私は気を体に巡らせる。先に動く。
一瞬で距離を詰め、牽制に突きを打つ。
レイゲンも直ぐに距離を取り、自分の間合いを取る。
しかし私は相手に距離を取らせない。直ぐに距離を詰め突きを打つ、レイゲンは防御をせざるを得ない。
私はさらに追い打ちをかけ、流れの中で奥義のひとつを打つ、今までの速度よりもさらに早く打つ突きだ。
「七星光拳!」
7箇所の急所を一瞬で打つ技だった。レイゲンは流石に驚いていたが、ガッチリと受け止め、また構えを取る。
今度はレイゲンが動いた。速い、上段から振り下ろし、即座に刃を斜めに返す。おそらく奥義のひとつだろう。
私はギリギリのところで刃を躱し、さらに攻撃を試みる。
そこでレイゲンが、構えを解く。私も攻撃をやめた。
「ハハハハ!ミカ殿、いやぁ素晴らしい動きでござった。これ以上やると練習にならなくなる故、この辺でいかがか?」
「はぁ、はぁ…は、はい。ありがとうございました!」
息がきれていたが、心地良かった。
「さすがはルクス殿の弟子でござるな、あの速い突きは驚き申した。」
「いえ、私も振り下ろしと返しの連続攻撃は躱すのがやっとでした。」
「ハハハ、成る程!わかってござったか。あれは幻流の奥義のひとつ狼牙というものでござる。初めての技を簡単に躱すとは、拙者はルクス殿にはまだまだ遠く及ばないようでござるな。」
「いえ、本気の勝負でしたら私は負けていたと思います。」
「ミカ殿!同じ武人同士、話しでもいかがか?」
「はい、喜んで!」
ほっとした女将さんと一緒に、食堂に移動してレイゲンの向かいに座る。レイゲンが食事をしていたところと同じ席だ。すっとトフィーも肩に乗ってくる。
「ミカ殿の技量、感服致した。いやぁ若いのに素晴らしい腕前でござった。」
そう言われ、少し照れ臭かった。考えてみると私は師匠とパラン以外の人の相手をしたことがない。
「私も久しぶりに武術の修行ができました、ありがとうございました。」
「ミカ殿は、これからもこちらで生活するのでござるか?」
「いえ、しばらくは旅をしながら色々なものを見て、勉強しようと思っています。」
「そうでござったか、若いのにしっかりしてござる…拙者は自国のソロニス公国で剣を学び、冒険者として様々な依頼をこなしながら剣術の研鑽を積んだ。そしてエーゴに大陸の海を渡った東から伝わる剣技を学んだ。」
「レイゲンさんは冒険者だったのですか?」
私はレイゲンの冒険者の話しに興味を持った。