第四十九章 クレアマシスの返事
クレアマシスからの返事が来たのは、三日後だった。
カリナが水晶球の前から戻ってきた時、その顔がいつになく真剣だった。
「クレアマシスはなんて?」
ミカが聞くと、カリナは縁側に腰を下ろした。
「やっぱりテラの祝福で間違いないそうじゃ。それも、かなり強い」
「アポロスの祝福より?」
「そうじゃな。アポロスの祝福は召喚の際に付与されたものじゃろうが、テラの祝福はそれより前からあったらしい」カリナは少し間を置いた。「エリカちゃんがこの世界に来る前から、すでに選ばれておったということじゃ」
ミカは息を呑んだ。
「生まれつき、ってこと?」
「クレアマシスもそう見ておる。テラは滅多に人に祝福を与えない神様じゃ。何百年に一度あるかないか、という話でな」カリナはお茶を一口飲んだ。「それがあの小さな子に宿っておる」
縁側の向こうで、エリカが畑に水をやっていた。小さなじょうろを両手で抱えて、一株一株丁寧に。ちょうど数日前に植えたカブの芽が、もう土から顔を出していた。普通より明らかに早い。
「芽が出るの、早くないですか」
「テラの祝福じゃろうね。エリカちゃんが育てるものは、きっとよく育つ」
ヴェロニカが静かに口を開いた。いつの間にか縁側に並んで座っていた。
「テラの教会は、ソロニスにある」
「そうじゃ。ソロニス南部の古い聖地に本拠を置いておる。教会といっても、あそこは静かな場所でな。禁術だの呪具だのとは無縁じゃ」
「テラ自身が、エリカに会いに来ることはあるんですか?」
ミカが聞くと、カリナとヴェロニカが顔を見合わせた。
「さあ、どうじゃろ」カリナは少し考えてから言った。「ただ、クレアマシスが一つ言っておった。テラはその祝福を与えた者の前に、いつか必ず現れるそうじゃ。時が来れば、な」
「時が来れば」
ミカは繰り返した。
エリカがじょうろを置いて、顔を上げた。土のついた手を見て、にこっと笑う。それからミカたちに気づいて、ぱたぱたと駆けてきた。
「めがでた!」
「本当だね、早いね」
「うん!」エリカは誇らしげに胸を張った。それからヴェロニカを見上げた。「ヴェロニカさま、みた?」
「見たわ」
「はやいでしょ」
「そうね」
ヴェロニカは短く答えた。でもその口元が、かすかに緩んでいた。
エリカはそれで十分らしく、また畑に戻っていった。
カリナがミカにそっと耳打ちした。
「テラのことは、今はエリカちゃんには黙っておこうかの」
「うん、そうしましょう」
時が来れば、テラは現れる。
それまでは、エリカには土と畑と、好きなものを育てさせてあげればいい。
朝の光の中で、カブの芽が風に揺れていた。
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