第四十二章 正規軍の影
倉庫の中に全員が集まった。
パランは部屋を見回して、一瞬だけ目を丸くした。バナージュの薄紫の瞳、アーティの赤と金の髪、ヴェロニカの底の見えない笑み。普通の冒険者には縁のない顔ぶれだ。
「……随分と、賑やかになってるんだな」
「色々あったから」
「そうだろうな」
ミカが順番に紹介すると、パランはそれぞれにきちんと頭を下げた。ヴェロニカと目が合った時だけ、少し背筋が伸びた。さすがに貴族の当主の気配は分かるらしい。
パランが座ると、エリカがちょこちょこと近づいてきて隣に座り込んだ。そして床に垂れた虎尾をそっと撫で始める。パランは特に嫌がる様子もなく、されるがままになっていた。
「で、話ってのは」
カリナが静かに促した。
パランは表情を引き締めた。
「教会の正規軍が動いてる。レイウォールだけじゃない。大陸全土に向けて、同時に何かを仕掛けようとしてる」
「同時に、か」
ヴェロニカの声が低くなった。
「規模は?」
「正確な数は掴めてない。ただ、各国の拠点に兵を集結させてるのは確かだ。俺が知ったのも、近衛の伝令が妙に増えたのに気づいたからで……」パランは少し躊躇してから続けた。「それと、呪具が動いてる」
場の空気が変わった。
ミカはゾラと目を合わせた。ゾラは無言で頷く。
「どこに?」
「それが、分からない。輸送の記録だけ残ってて、行き先が消されてた。ただ、量が多い。ソロニス支部で使ってたような小規模なものじゃない」
ヴェロニカが静かに立ち上がって、荷物の中から地図を取り出した。広げると、レオニドス大陸の全体図だ。
「集結している拠点はどのあたり?」
「俺が確認できたのはリセイゴスとジンジュードの国境付近。それと、ギエルの南部にも動きがあるって話だ」
ヴェロニカの指が地図の上を滑った。
「ソロニス側にも、似た動きがある。三週間前から」
「つまり」とリューグが口を開いた。「四カ国同時に、でござるか」
「そういうことになる」
しばらく、誰も口を開かなかった。
エリカだけが、パランの虎尾を撫でながらみんなの顔を順番に見ていた。何かを感じ取っているのか、いつもより静かだった。
「ミカ」
トフィーの念話が、頭の中に届いた。
『これ、急いだ方がいいと思う』
分かってる、とミカは心の中で答えた。
封印の補強は終わった。でも教会はまだ動いている。むしろ、これからが本番なのかもしれない。
「パラン」
ミカは口を開いた。
「一緒に来てくれる?」
パランは少し驚いた顔をして、それからすぐに笑った。四年前と変わらない、まっすぐな笑顔で。
「そのために来たんだろ」
エリカがパランを見上げた。
「いっしょ?」
「ああ、一緒だ」
エリカはにこっと笑って、またそっと虎尾に手を伸ばした。
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